大阪城の石が香川の島に400年放置されている——残念石と庵治石、讃岐が誇る世界最高峰の花崗岩

香川の石と地質——産地の歴史写真
石好き次郎
カン、と鳴る。サヌカイトを叩くと、石とは思えない澄んだ金属音がする。縄文の人はこの音を頼りに、石器の材料を選んだらしい。耳のいい先輩たちだ。

「残念石」は、大坂城の石垣に使うために切り出されたのに、運ばれずに残った石だ。小豆島の海岸や石切り場の跡に、刻印の入った巨石がいまも転がる。

香川の石は、目と耳の両方に来る。磨くと模様が浮く庵治石(あじいし)と、叩くとカンと鳴るサヌカイト。庵治石には「花崗岩のダイヤ」という呼び名まである。

庵治石は、高松市東部の庵治町と牟礼町にまたがる八栗・五剣山の麓だけで採れる。日本三大花崗岩のひとつに数えられ、高級墓石材の代表格だ。磨くほど深くなる光沢が、あの呼び名を生んだ。

もう一つがサヌカイト(讃岐岩)。縄文・弥生時代に石器の材料として広く使われた黒い石で、名前は香川の旧国名「讃岐(Sanuki)」から来た。地質学の本に「Sanukite」と載る石が、香川の山から出る。

サヌカイトは、坂出市の金山(かなやま)や五色台のまわりで採れる安山岩(古銅輝石安山岩)だ。SiO₂は55〜58%、細かく詰まった組織で、割ると貝殻のような割れ口になる。この詰まり方が、澄んだ音と鋭い刃を両方生む。

香川の地質は、ざっと花崗岩(領家帯)、サヌカイトを含む新生代の安山岩、讃岐平野の沖積層。うどんの県は、石の世界では鳴る石の県だ。

小豆島(しょうどしま)は花崗岩の島で、大坂城の石垣の石を切り出した場所として知られる。縄文のサヌカイトと、城の花崗岩。香川の石は、時代ごとにまるで違う仕事をしてきた。

香川で石を拾いに行くなら、行き先は香川で石を探す|サヌカイトの名所では拾えない。それでも「持って帰れる」場所があるにまとめた。ここでは、石が残した香川の歴史をたどる。

目次

庵治石——磨くと「フ」が浮く石

庵治石の正体は花崗閃緑岩(かこうせんりょくがん)。花崗岩と閃緑岩の中間の深成岩だ。約8,000万〜1億年前(白亜紀後期)に地下深くでマグマがゆっくり冷えて固まり、のちの地殻変動で地表に出てきた。

庵治石の特徴詳細
硬度硬くきめが細かい——彫り字が長く崩れない
「フ(斑)が浮く」磨くと表面に二重のかすり模様が現れる。庵治石だけの幻想的な表情
採掘歩留まり岩盤から製品になれるのはほんの数%と言われる——希少性の源
分類細目(最高品質)・中細目・中目。細目ほど希少で高価
用途墓石・石灯籠・彫刻・建材。最高品質品は1立方30cmで12万円以上

磨くと、表面に二重のかすりのような模様が浮く。これを「フ(斑)が浮く」と言う。石英・長石・黒雲母の結晶がごく細かく、そろって並ぶからだ。フがはっきり出るのが最高品質の「細目(こまめ)」で、磨くほど青黒い光沢が深くなる。

イサム・ノグチが愛した庵治石

彫刻家イサム・ノグチ(1904〜1988)は晩年、庵治町・牟礼町に工房を構えた。世界中の石を相手にした人が、最後に手元に置いたのが庵治石だった。工房はいま「イサム・ノグチ庭園美術館」(高松市牟礼町)として公開される。石のほうは、選ばれた自覚などたぶん無い。

屋島(高松市)は、海に突き出た安山岩の台地だ。上が平らに残ったメサ地形で、源平合戦の舞台でもある。テーブルのような山の上で、昔の人は本気で戦をした。

石好き次郎
サヌカイトかどうかは、河原で分かる。まず持つ。緻密で重い。次に爪で弾く。乾いた高い音がすれば当たりだ。外れたら、ただの重い石だ。

サヌカイト——石器時代の「讃岐の石」が世界に名を刻む

1891年、ドイツの地質学者ワインシェンクが香川産の岩石を調べて記載し、産地の名をそのまま岩石名にした。日本の旧国名が、地質学の正式な名前になった。めずらしい出世の仕方だ。

叩くと金属に近い澄んだ音がするので、「カンカン石」とも呼ばれる。硬くて鋭い刃が作れるため、縄文・弥生時代には石器の素材として広く流通した。近畿・瀬戸内を中心に、サヌカイトの石器があちこちから出る。香川の石が、よその村の道具箱に入っていた。

香川の石スポット

スポット石の見どころ
イサム・ノグチ庭園美術館(高松市牟礼町)庵治石を使ったノグチの彫刻群。要事前予約
庵治・牟礼石材加工街石材加工の工房が並ぶ街並み。採石場(大丁場)の見学ツアーあり
香川県立ミュージアム(高松市)サヌカイトの石器・縄文遺物の展示
金山(かなやま・坂出市)サヌカイトの産地。公的機関の許可なく採集不可

讃岐平野には、讃岐富士(飯野山)のような円錐形の山がぽつぽつ立つ。平野の中に安山岩の丘が点在する、香川らしい景色だ。おむすびのような山を見たら、中身は石だと思えばいい。

同じ鳴る石は、奈良と大阪の境の二上山にも出る。

大坂城のために切り出された石のまわりには、400年前の採石場がそのまま残る。選ばれたのに置いていかれた石。名前をつけた人の気持ちも、少し分かる。

こんぴらの石段から、庵治の石材の町まで

こんぴら参りの石段も、石好きには見どころだ。江戸時代から数えきれない人が踏んできた段だ。参拝の人は上を見て、石好きは足元を見る。ご利益の差は知らない。

香川と徳島の県境の阿讃山脈(あさんさんみゃく)は、和泉層群の砂岩・泥岩の山だ。南側の渓流に降りれば、その砂岩・泥岩の礫が並ぶ。庵治石とサヌカイトの陰に隠れた、香川の地味な顔だ。地味な顔ほど、河原では長く付き合える。

地質・石特徴
サヌカイト(讃岐石)古銅輝石安山岩・緻密・硬度7〜7.5・清澄な音響性
和泉層群(阿讃山脈)砂岩・泥岩の地層(香川と徳島の県境)
金山(坂出市)産サヌカイト日本最高品質のサヌカイト産地・縄文石器素材
花崗岩(小豆島・高松周辺)石材として使われてきた讃岐の花崗岩

庵治・牟礼には石材加工の業者がいまも多く、工場を見学できる施設もある。山から切り出した石が、切られ、磨かれ、世界各地へ出ていく。原石が製品になるまでを一度見ると、墓地を歩く足が少し遅くなる。

庵治石には「細目」「中細目」「中目」の等級があり、花崗岩の粒の細かさで決まる。細目が最上だ。同じ山の石でも、粒の大きさひとつで値段が何倍も違う。

サヌカイトの「カーン」は、初めて聞くと正直ひるむ。石からこんな音が出るとは思わない。縄文の人がこの石を選んだ理由が、一打で分かった気になる。分かった気になるだけで、石器は一つも作れない。

香川には行ったことがある。地図では小さな県なのに、瀬戸内の島まで入れると石の話が尽きない。小豆島の花崗岩が大坂城の石垣になった話も、その一つだ。あの重さの石を船に積んだ人たちのことは、考えるだけで腰が痛くなる。

石好き次郎
大坂城の石垣になるはずだった石が、香川の島に400年残る。「残念石」。運ぶ側の都合で置いていかれただけなのに、ひどい名前をもらったものだ。

目で選ぶ石と、耳で選ぶ石

石の仕事を長くしていると、産地の名前だけで背筋が伸びる石がある。庵治石はその一つだ。もう一つ、叩けば鳴るサヌカイトがある。片方は今の高級墓石、片方は石器時代の道具。この二つを並べて語れる県を、ほかに思いつかない。

九割以上を捨てる石

庵治石の話でいつも唸るのは、製品になるのが原石のほんの数パーセントだけ、と言われることだ。残りの九割以上は、傷や模様のムラで使えない。

仕入れる側の感覚で言えば、ありえない歩留まりだ。それでも商売が成り立つほど、いい庵治石は高い。数メートルずれれば質が変わるから、どこを使うかを見抜く目が、そのまま値段になる。

私も原石を選ぶときは、一部を見て全体を判断する。庵治石の目利きは、その何十倍も厳しい世界だと思う。私の目では、庵治の職人の足元にも及ばない。

音で石を選ぶ、という見方

おもしろいのは、縄文の人も音で選んでいたらしいことだ。音のいい石は組織が詰まり、割ると鋭い刃になる。「鳴る石はよく切れる」。経験で見抜いたのだとしたら、たいした耳だ。

石を叩いて響きや詰まり具合を確かめるのは、私もふだんやる。数千年前の人と同じ手つきをしていると思うと、少し可笑しい。こちらが進歩していないのか、向こうが最初から正しかったのか。

よくある質問

Q. サヌカイトはどこで見られる?
香川県立ミュージアムに、サヌカイトの石器の展示がある。打楽器にした「磬石(けいせき)」は全国の寺院に残る。

Q. サヌカイトの音は今も聴ける?
聴ける。資料館などで実際に叩ける場所があり、吊るして叩く「石琴」もある。一度聴くと、しばらく耳から離れない。

Q. 香川の石をどう巡ればいい?
午前は庵治で石の産地とイサム・ノグチ庭園美術館、午後は坂出でサヌカイトの音に触れる。一日で両方に会える順番だ。

石好き次郎から

磨くと「斑(ふ)」が浮く庵治石は、墓石にしておくのが、少しもったいない石だと思う。

原石の九割以上が、製品になれずに終わる石だ。選ばれなかった側にも、少し同情する。

目で選ぶ石と、耳で選ぶ石。両方そろう県は、石好きにはずるい。

石好き次郎
高品質のサヌカイトを吊るして叩くと、ガムランのような音が響く。この音を聞くためだけに香川まで行っても、損はしないと思う。
石好き次郎のおすすめ
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耳で選ぶ石は、名所ではどこも拾えない。それでも石を持ち帰れる場所が、香川に一つだけある。香川で石を探すで、その境目が分かる。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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