サンゴが島になり、王国の城になった——琉球石灰岩と沖縄の石

沖縄の石と地質——産地の歴史写真
石好き次郎
沖縄の島は、サンゴでできている。琉球石灰岩——数十万年かけて生き物が積み上げた石だ。

沖縄の石でいちばんおもしろいのは、島の地面そのものが生き物の骨でできていることだ。琉球石灰岩(りゅうきゅうせっかいがん)。サンゴ礁が隆起してできた石が、沖縄の島々の大地を作る。

琉球石灰岩は、沖縄島の面積の約3分の1を占める。約130万〜7万年前の浅い海のサンゴ礁が、地殻変動で陸に押し上げられた石だ。那覇市・浦添市・うるま市など、中南部の都市はほぼ全部がサンゴの骨格の固まった石の上に乗る。首里城の城壁も、グスクの石垣も、石畳の道も、この石で組まれた。

沖縄の地質は、琉球石灰岩(本島中南部・宮古島などの大部分)、沖縄片岩(本島北部・やんばる)、火山岩(硫黄鳥島など)。本州の河原に慣れた目からすると、ほとんど別の国の地質だ。

目次

琉球石灰岩とは——サンゴが石になるまで

石灰岩は炭酸カルシウム(CaCO₃)が主成分の堆積岩だ。琉球石灰岩の場合、その材料がサンゴや貝の骨格と殻になる。浅い熱帯の海でサンゴ礁が育ち、死んだ骨格が積もり、何万年もかけて固まる。それが隆起して陸になった。沖縄の地面は、元をたどれば海の生き物の骨だ。

薄片を顕微鏡で見ると、サンゴ・貝・石灰藻・有孔虫などの化石が並ぶ。肉眼ではただの白っぽい石なのに、拡大すると生き物の名簿になる。石灰岩を地味な石だと思っていたのは、こちらの目が足りなかっただけだ。

琉球石灰岩の特徴詳細
分布沖縄島の面積の約3分の1・南西諸島に広く分布
厚さ最大150m
成分炭酸カルシウム(CaCO₃)——サンゴ・貝の骨格由来
地質時代更新世の約130万〜7万年前ごろに形成
特性加工しやすい・水を通しやすい(石灰岩の性質)→鍾乳洞・湧水が形成される

首里城の城壁——サンゴで作られた世界遺産

首里城(世界遺産)の城壁は琉球石灰岩でできている。グスクの城壁がゆるく弧を描くのは、この石が柔らかいからだ。モース硬度は3〜4程度で、花崗岩よりずっと削りやすい。琉球王国の石工はその性質を使い、直線ではなく地形に沿った曲線で城を囲った。

首里城だけではない。中城城・勝連城・今帰仁城など、本島や離島に点在するグスク群も琉球石灰岩の城壁だ。沖縄の景色の下には、だいたいサンゴの石がある。

青の洞窟——琉球石灰岩が作る海の奇景

恩納村(おんなそん)の「青の洞窟」は、波が琉球石灰岩を削った海食洞窟(かいしょくどうくつ)だ。差し込んだ光が海面で反射し、洞窟の中が青く満ちる。石灰岩は雨水のCO₂で溶けやすく、そこへ波の侵食が重なる。溶けやすい石だからこそ、あの青い部屋ができた。

同じ恩納村の万座毛(まんざもう)では、波が断崖の足元をえぐって「ノッチ(波食窪)」を作り、象の鼻のような岩が海に突き出す。名前は「万人が座れる毛(芝生)」の意味で、琉球王国の第13代王・尚敬王が名づけたとされる。

鍾乳洞と湧水——石灰岩が水を作る

琉球石灰岩は水を通しやすい。雨水がしみ込み、炭酸カルシウムを少しずつ溶かしながら地下を流れて、鍾乳洞と湧水(ヒージャー)を作る。

本島南部の玉泉洞(おきなわワールド内)は総延長約5,000mの鍾乳洞で、国内最大クラスだ。湧水のほうは、首里城内の龍樋・玉城の垣花ヒージャー・金武の大川などが有名で、昔から飲み水として使われてきた。石が溶けた水を、人が飲んで暮らしてきたわけだ。

琉球石灰岩の地下水は硬水で、泡盛の仕込み水にも使われる。石灰岩(CaCO₃)が溶け込んだ水が、酒の味に関わる。石の話をしていて酒にたどり着くと、なぜか少しうれしい。

サンゴが骨格に選んだアラゴナイト(CaCO₃)は、方解石より密度が高いが溶けやすく、長い時間のうちに方解石へ置き換わっていく。同じ成分でも、生き物が選んだ形のまま石にはならない。石になる途中で、もう一度着替える。

沖縄の地質——石灰岩の下に何があるか

沖縄本島は南北で地質がまるで違う。南部(那覇・うるまなど)は琉球石灰岩の低く穏やかな丘。北部(やんばる)は砂岩・泥岩・粘板岩などの古い地層の山がちな地形で、やんばるの森(ノグチゲラのすむ森)を育てる。

琉球石灰岩の下には「島尻層」がある。約500万年前に中国大陸から流れてきた砂や泥が半深海にたまった地層で、厚さは2,000m以上。上はサンゴ礁、下は大陸の泥。沖縄の地面は二階建てだ。

沖縄戦では、琉球石灰岩が溶けてできたガマ(自然洞窟)が、住民や兵士の避難場所になった。石が溶けて生まれた穴に、人の記憶が重く残る。この石を、地質の話だけで済ませることはできない。

沖縄の海岸で拾える石は、琉球石灰岩とサンゴの欠片が中心になる。本州のような花崗岩や変成岩は、ほとんど出てこない。地質の成り立ちが根本から違うからだ。白っぽくて、穴が多くて、軽い。本州の河原の感覚で行くと、まず手応えの軽さに戸惑うはずだ。

伊江島・宮古島・石垣島——島ごとに違う石の顔

伊江島(いえじま・本島北西沖)は琉球石灰岩の島で、石切り場の跡が残る。琉球石灰岩を切り出して建材にした現場だ。城や石垣の石がどこから来たのかを考えるなら、ここは外せない。

久高島(くだかじま・本島東沖)は、神の島として知られる琉球石灰岩の島だ。ここは石を探す場所ではなく、黙って見せてもらう場所だと思う。

西表島(いりおもてじま)は、琉球石灰岩・砂岩・変成岩が顔をそろえる島だ。海岸の礫浜では、琉球石灰岩と砂岩・変成岩の礫が混ざる所がいくつもある。白い石ばかりの沖縄で、色の違う石が並ぶ浜は貴重だ。

地質・石特徴
琉球石灰岩サンゴ礁が隆起・炭酸カルシウム(CaCO₃)の生物起源石
玉泉洞(鍾乳洞)琉球石灰岩が雨水に溶食された鍾乳洞
グスク(城郭)の石垣琉球石灰岩で積まれた城郭石垣・世界遺産
沖縄片岩(やんばる)沖縄本島北部・古い変成岩・高圧変成岩
宮古島・石垣島の石灰岩宮古島はほぼ全島が琉球石灰岩。石垣島は変成岩や花崗岩と同じ島にある

やんばる(山原・本島北部の国頭地方)は、南部とはまるで違う地質だ。古生代〜中生代の変成岩・砂岩が分布し、比地大滝周辺の渓流には変成岩の礫が転がる。本島で琉球石灰岩以外の石を見るなら、北へ行くことになる。

首里城・中城城(なかぐすくじょう)・今帰仁城(なきじんぐすく)は、どれも琉球石灰岩の石垣だが、積み方が違う。野面積み・布積み・相方積み。同じ石でも、切り方と積み方で顔がまるで変わる。素材は一つ、腕は時代ごと。石垣は、そこを見るのがいちばん楽しい。

座喜味城(ざきみぐすく)の石垣は、15世紀初頭の精巧な布積みで、UNESCO世界遺産に登録されている。近くで見ると、琉球石灰岩の中にサンゴの化石が浮かぶ。化石を積んで城を作ったようなものだ。

宮古島(みやこじま)は琉球石灰岩だけでできた平らな島で、いちばん高い所でも100mあまりしかない。島ごとサンゴ礁の化石の上に乗り、石灰岩の中にはサンゴ・ウニ・二枚貝の化石が多い。山が無い島、というだけで、石好きには妙に気になる。

石垣島(いしがきじま)は、琉球石灰岩とずっと古い変成岩(八重山変成岩)が同じ島にある。北部では花崗岩や変成岩も顔を出す。新しい石灰岩と、はるかに古い変成岩を、一つの島で見比べられる。

石好き次郎
鍾乳石が1センチ伸びるには、何十年もかかると言われる。玉泉洞の石柱は、それを何万年も重ねて育った。

沖縄の石は、生き物が作った

石の商いを長く続けていると、ときどき「これは生き物なのか石なのか」と迷う品に出会う。サンゴ、真珠、貝殻。どれも生き物が作った鉱物だ。沖縄は、その島ごと版だった。それを知ってから、沖縄の地図が少しちがう色に見える。

生き物と石の境目

琉球石灰岩は、生き物が作った鉱物の行き着いた先だ。サンゴや貝の骨格が海底に積もり、固まり、隆起して島になった。手のひらの一片のサンゴと、島一つ分の石灰岩が、同じ仕組みで生まれる。

首里城の城壁をよく見ると、石の中にサンゴや貝の断面が浮かぶ。城の石が、かつて海で生きていた。生き物と石の境目がここまであいまいになる場所を、私は他に知らない。

柔らかい石が、あの曲線を生んだ

石の硬さは、拾うときも値段を見るときも、いつも最初に気にする。琉球石灰岩は、鉄の道具なら手作業でも削れる柔らかさだ。硬い石ほどえらい、とどこかで思ってきたが、沖縄ではその柔らかさが城の曲線になった。ここは一本取られた。

今も作られている石

採集家がふだん拾うのは、とっくの昔に完成した石ばかりだ。何百万年、何億年前にできた石を、後生大事に持ち帰る。ところが沖縄の海では、石灰岩の材料が今この瞬間も作られる。

沖縄の海で育つサンゴ礁は、数十万年後には隆起して琉球石灰岩になるかもしれない。「石ができる現場」を、海岸から眺められる。完成品ばかり追ってきた身には、これはちょっとした衝撃だった。

よくある質問

Q. 沖縄で鍾乳洞に行ける?
行ける。おきなわワールド(南城市)内の玉泉洞(総延長約5,000m・一般公開区間890m)が最大規模で、観光向けに整備されている。近くのガンガラーの谷は、鍾乳洞が崩れてできた谷をガイドツアーで歩ける(要予約)。石垣島には石垣島鍾乳洞もある。

Q. 琉球石灰岩の石は拾える?
拾える。浜で手に数個拾って咎められることは、まずない。国立公園の特別地域や天然記念物の場所は別で、そこでは拾わない。本島南部の海岸には琉球石灰岩の礫が転がり、サンゴの骨格の跡が残るものも見つかる。

Q. 子供と沖縄で石を楽しめる?
楽しめる。城壁の中のサンゴの化石を一緒に探すのがいちばん早い。子どもには、説明より「この壁の中から貝を探して」のほうが効く。

石好き次郎から

沖縄の石は、本州の河原で20年拾ってきた目には、ほとんど反則に見える。島の地面がまるごとサンゴ礁の固まった石だ。数十万年前の浅い海で積もり、いまは陸になった。

多孔質で水を通すから、沖縄には川が少ない。雨は地下にしみて地下水になる。多摩川がホームの人間からすると、川の少ない土地の石というだけで、どこから攻めればいいのか分からない。

石好き次郎
硬度3の柔らかい石の上に、王国がひとつ建っていた。硬さだけが、石の値打ちではない。
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サンゴ礁が陸に上がった石なら、山口にもある。3億5千万年前の南の海が山の上に残る、秋吉台の石灰岩へ。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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