
埼玉で石を拾うなら、荒川中流(寄居・熊谷)と高麗川だ。県でいちばん名の知れた石の名所、長瀞では、石を一つも拾えない。名勝・天然記念物の指定が、岩畳だけでなく川岸を含む渓谷一帯およそ4キロに及ぶからだ。有名な場所ほど、手は出せない。ここは譲れない。
埼玉は、私にとって特別な県だ。ときどき、一人で荒川の河原に降りたくなる。その荒川を含めて、埼玉で石を探せる5か所を、採集歴20年の目で難易度とアクセス別に並べた。
拾うのは、指定区域を出てからだ。荒川中流(熊谷・寄居周辺)の河原には、上流から流れてきた結晶片岩の転石・砂岩・チャートが転がる。高麗川はチャートの川だ。どこも電車で行ける。長瀞で見て、下流で拾う。埼玉の段取りは、それだけだ。
秩父は、帰りの寄り道にも困らない。宝登山神社・秩父神社・三峯神社。石拾いに付き合わされる連れにとっては、むしろこちらが本命かもしれない。
埼玉で石拾いができる場所一覧
5か所を一枚の表にした。秩父方面は石の顔ぶれが多く、長瀞を軸にすれば1日で何か所か回れる。ただ、欲張るとどこも中途半端になる。
| スポット名 | 採れる石 | 難易度 | 子ども向け | 駐車場 | 採集可否 | 持ち帰り可否 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 長瀞・岩畳(長瀞町) | 結晶片岩(名勝・天然記念物) | — | ○ 岩畳を歩ける | 有料のみ(無料なし・長瀞駅徒歩5分) | 禁止(天然記念物・名勝指定) | 禁止 |
| 高麗川(日高市・坂戸市) | チャート・砂岩 | 初級 | ○ 巾着田付近は流れが緩い | 巾着田に有料(普通車500円) | 可(個人の採取) | 可 |
| 荒川中流(熊谷市・寄居町) | 結晶片岩・砂岩・チャート・石英 | 初級 | ○ 採集デビュー向き | ○ あり(河川公園周辺) | 可(長瀞の指定区域外) | 可 |
| 入間川(狭山市・入間市) | 砂岩・チャート・石英 | 初級 | — | — | 可(個人の採取) | 可 |
| 秩父・浦山川(秩父市) | 変成岩・結晶片岩・石英脈 | 中級 | △ 中級の沢 | — | 可(個人の採取) | 可 |
○は家族連れ向き、△は向かない。—は、長瀞なら対象外、ほかは私がまだ書ける材料を持っていない所だ。分からないことは、書かない。拾っていいかと、持ち帰っていいかは別の話なので、列を分けた。
埼玉の地質——長瀞の結晶片岩と、荒川で拾える石
長瀞の岩畳は、九州まで続く石の帯の、いちばん東の端にある。三波川変成帯だ。海の底にたまった泥や砂が、プレートの沈み込みで地下20キロより深く引き込まれ、押しつぶされた。白亜紀の話だ。そうして出てきたのが、長瀞の「結晶片岩」だ。
三波川変成帯には、ガーネット(鉄礬柘榴石)がよく入る。高い圧力の中で育ち、赤〜深紅の粒として岩に埋まる。ただ、埼玉のどの川なら確実に拾えるのか。そこを私はまだ突き止められていない(後述)。
長瀞の岩も、削られれば石になって下ってくる。拾った一個を手に、この石はどの山から来たのかと考える。上流の山を想像するのが、私は好きだ。
寄居から熊谷にかけての荒川は河原が広い。橋の上から砂利の溜まりを下見して、カーブの内側へ降りる。平たい石を拾って、水をかける。縞が浮く。それが結晶片岩だ。長瀞で縞を見た目が、ここで生きる。荒川の河原の石の見分けと歩き方は、荒川で石拾いで上流から下流まで一本にした。
熊谷から先は、石が小さく丸くなる。川越やさいたまのあたりまで下ると、河原は砂と細かい礫が増える。同じ荒川でも、下るほど石が入れ替わる。そこが埼玉の面白さだ。
九州まで続く地質帯が、関東の小さな川の名前で呼ばれる。「三波川」は、群馬側から神流川に流れ込む川の名だ。関東の石好きとしては、少し胸を張りたくなる。
秩父の三波川変成帯は、地質の教科書の常連だ。教科書の写真で見た石を、河原で自分の手に乗せられる。20年やっていても、これは素直にうれしい。

長瀞・荒川——結晶片岩の聖地。ただし拾う場所ではない
長瀞駅から歩いて5分。川の音が近くなって、足もとが平たい岩に変わる。日本の地質学は、この川岸から始まったと言っていい。明治11年、東京大学の初代地質学教授ナウマンが長瀞を歩いた。秩父はやがて、地質学者なら一生に一度は行くべき土地、と言われるようになる。
名勝・天然記念物の指定は川原まで含む。長瀞町は全域が県立長瀞玉淀自然公園で、土石の採取は条例の規制対象になる。指定のものを傷つければ罰則もある。長瀞では、砂利一粒も持ち帰らない。拾えないのに、見るだけで一日もつ。そういう川だ。
岩畳は、畳にしておよそ2万枚分。長さ600メートルほどの岩が、川沿いに板のように続く。縞模様(片理)を川が削って、あの形になった。2万枚の畳の上で、私はだいたい一枚の縞から動けない。歩き方と見どころは長瀞の岩畳ガイドに一本で書いた。
対岸の「虎岩」は、茶褐色と白の縞が折りたたまれて、虎の毛皮のように見える。スティルプノメレン片岩という、舌をかみそうな名前の石だ。この岩を、学生だった宮沢賢治が地質巡検で見て、一首詠んだ。
『つくづくと「粋なもやうの博多帯」荒川ぎしの片岩のいろ』。片岩を帯に見立てたのが、20歳の学生だ。勝てる気がしない。
岩畳の上のくぼみは、ポットホールだ。石が渦で回って岩盤を掘った穴で、掘った石が底に残ったままのものもある。これも指定物件の一部になる。覗くだけにする。
見て、撮って、置いて帰る。偉そうに書いたが、私も看板を見落として注意されたことがある。石ばかり見ていると、看板は目に入らない。足もとの縞に夢中な人間ほど、顔を上げるのが遅い。
長瀞駅の近くに、埼玉県立自然の博物館がある。始まりは、秩父鉄道が開いた鉱物と植物の標本陳列所だ。鉄道会社が、駅のそばに石を並べた。100年たっても、その発想に頭が上がらない。
館には「日本地質学発祥の地」の碑も建つ。岩畳より先に寄るのがいい。縞の読み方を覚えてから歩くと、同じ岩畳でも倍は楽しめる。
歩くなら、5〜6月と9〜10月がいい。夏は人で埋まる。朝8時前なら、岩畳はがらんとしている。冬はもっと空く。誰もいない日さえある。
長瀞で観察できる石の見分け方(見るだけ)
岩畳にしゃがんで、顔を近づける。縞(片理)が何枚も重なる。これが結晶片岩だ。色は灰色〜緑灰色、青みがかった灰色、白っぽいものまで幅がある。縞のあいだに、深赤色の小粒がのぞくことがある。ガーネットだ。
白〜ピンクで、表面が光るのは長石。半透明の白で、角が丸いのは石英。川に磨かれた顔だ。長瀞は色の種類が多い。拾えない場所で色見本だけがそろうのは、正直ちょっとじれったい。
拾う前に、長瀞で3色の片岩を覚える
岩畳の真ん中に立つ。足もと一面が、結晶片岩のむき出しだ。拾えない代わりに、ここで見分ける目を作る。
覚えるのは、三色の片岩だ。まず緑を探す。足もとの広い面がそれで、緑泥石片岩という岩畳の主役だ。端を見ると、薄い板を重ねたような段がある。この「薄く剥がれる」つくりが、片岩を見分ける第一の手がかりになる。
次に赤紫。紅簾石片岩で、世界でも珍しいピンク色の片岩だ。親鼻橋のたもと付近で見られる。紅簾石片岩の研究は、この秩父と徳島の眉山で進んだ。そういう石が、東京から電車で行ける川岸にある。こういう話に、私は弱い。
最後に銀。絹雲母片岩で、日が当たると雲母がきらきらと光を返す。長瀞は、三色の岩でできている。
緑・赤紫・銀。三色が頭に入ると、荒川の中流でも秩父の河原でも、拾った石が何の片岩か、名前が先に浮かぶようになる。長瀞で拾えないのは、欠点ではない。ここは、その先の河原のための教室だ。
高麗川——チャートの川。ガーネットの噂は確かめられなかった
高麗駅で降りて、川のほうへ歩く。石を拾いに来たのに、最初に行き当たるのは古代の引っ越しの話だ。1,300年ほど前、高麗の人たち1,799人が武蔵国に集められ、高麗郡が置かれた。川の名はその郡から来た。川の名前は侮れない。
赤や灰色のチャートと砂岩が、足もとで乾いた音を立てる。奥武蔵のチャート帯を抜けてきた川だ。人が少ない。一人で歩きたい日に向く。
チャートは2億〜3億年ほど前の深い海で、放散虫というプランクトンの殻が積もって固まった岩だ。1センチ積もるのに数千年かかると言われる。手のひらほどの赤い石一つに、何万年分もの海の記録が詰まる。
「高麗川でガーネットや水晶が採れる」という話が、ネットには出回る。ところが、裏付けになる記録を、私は一つも見つけられなかった。噂だけで人を川に行かせるわけにはいかない。確かめられるまで、書かない。
ガーネットを拾いたいなら、後で書く群馬の神流川のように、長瀞と同じ三波川帯の片岩が流れてくる川を選ぶほうが筋がいい。赤い石に目を慣らすだけなら、多摩川の赤いチャートで足りる。噂の産地で空振りするより、確かな川で1個拾うほうがいい。
しゃがむ。乾いた石より、水際の石だ。一つ濡らすと、赤が立つ。それがチャートだ。緑も灰もある。高麗川で確かなのは、この石だ。二つ軽く打ち合わせてみる。硬く緻密だから、甲高い音がする。奥武蔵はチャートの山で、川は上流の岩の名簿になる。高麗川だけを歩く日は、高麗川の河原の話を。
チャートの見分けは3つで足りる。きめが細かく、ナイフでも傷がつかないほど硬く、割れ口が貝殻のように湾曲する。同じ大きさの砂岩より、持つとずしりと重い。河原でいちばん地味で、いちばん硬い石だ。
歩くなら、西武線・高麗駅から巾着田方面がいい。駅から15分ほどで着く。川が大きく曲がって、巾着の形の田を抱えこんだ場所だ。流れが緩く、河原にも降りやすい。駅から河原まで歩けるのが、この川の一番の取り柄だ。
9月なら、巾着田の曼珠沙華に合わせる手がある。お彼岸のころ、500万本で川沿いが赤くなる。もっとも私は、たぶん花より先に、水際の赤いチャートを見てしまう。
荒川中流——砂岩・チャートが気軽に拾える入門スポット
荒川も、多摩川と並ぶ私のホームだ。秩父から関東平野へ下りながら、上流の変成岩をまぜて運んでくる。熊谷市〜寄居町の中流は川幅が広く、河原へ降りやすい。最初の一回にちょうどいい。
荒川中流で拾えるのは、結晶片岩・砂岩・チャート・石英。派手な鉱物は少ない。それで困らないのは、私がどんな石でも好きだからだ。チャートなら赤・緑・黒の鮮やかなものが出て、並べると映える。寄居で河原に降りるなら、まずかわせみ河原だ。
寄居と熊谷では、同じ荒川でも河原の顔が違う。寄居の石は秩父から下ってきたばかりで、大きく、角が残る。熊谷まで下ると角が取れて、手のひらに収まる丸い石が増える。入口は秩父鉄道の寄居駅か、JR高崎線の熊谷駅だ。河川公園の周辺は整備されていて、駐車場もある。
寄居の河原で目につくのは、平たい石だ。片岩は薄く剥がれる石だから、川にもまれても丸くならず、せんべいのように平たくなる。表に縞が走り、緑や銀に光るものが多い。水切りにちょうどいい形だが、投げるのは縞を見てからでいい。長瀞で覚えた三色が、ここでは全部手に取れる。
丸い石の中で、持つとずしりと重く、割れ口がつるりとしたのがチャートだ。灰色でざらつくのは砂岩、白く濁った塊は石英。熊谷・深谷あたりの河川公園には遊歩道があり、河原へ降りやすい。子ども連れなら、入門にはここがいちばん向く。
荒川は、川幅が日本一の川だ。鴻巣市と吉見町の間で、2,537メートルある。ただしそれは堤防から堤防まで。ふだん水が流れるのは、数十メートルほどだ。日本一の看板のわりに、案外つつましい。
荒川の河原がいちばん広く出るのは、雨の少ない冬だ。ふだん流れの下にある砂利の筋まで歩ける。台風のころ(9〜10月)は水が出るが、引いたあとは石の並びが入れ替わる。春(4〜5月)は気温がちょうどいい。夏は日差しで体力をもっていかれる。秋の紅葉どきは、観光客が増えても河原は空いていることが多い。

入間川・秩父エリア——もう1か所を加えたいときの選択肢
思い立ったのが昼過ぎでも、入間川なら間に合う。狭山市〜入間市を流れる荒川の支流で、砂岩・チャート・石英が拾える。西武新宿線・狭山市駅から、自転車で河原に出られる。
秩父の浦山川は、西武秩父線・西武秩父駅から入る変成岩の沢だ。長瀞より人が少なく、山あいの小さな流れで結晶片岩・石英脈・変成岩が拾える。表の難易度は中級。河原に慣れてから行く場所だ。
埼玉で目が慣れたら、隣の県へ。群馬の神流川には同じ三波川帯の変成岩が、栃木の那珂川・武茂川には砂金がある。どちらも日帰り圏だ。同じ帯の石を県をまたいで並べると、地質図の色分けが急に手ざわりを持つ。
長瀞・高麗川・秩父を一日で全部回ろうとすると、起点で勝負が決まる。東京から電車なら「高麗川→秩父→長瀞」の順で、帰りは秩父鉄道で寄居か熊谷へ抜けると無駄がない。とはいえ、一日で全部はきつい。初回は高麗川と長瀞の二か所で半日にしておく。昼は河原で握り飯でいい。欲張った日ほど、手の中の石は少ない。
埼玉の石拾いの道具と行き方
道具は軍手、袋、白い皿、ルーペで足りる。白い皿に砂利を広げて水をかけると、乾いて同じ灰色に見えた石が、赤・緑・白に分かれる。長瀞の岩場は足場が悪いので、靴は底のグリップで選ぶ。靴やルーペまで選ぶなら、石拾いの道具たちを先に読むと、買い物が減る。
秩父・長瀞へは、西武鉄道か秩父鉄道で行く。西武秩父駅と秩父鉄道・御花畑駅は歩いてすぐで、乗り換えは楽だ。長瀞の最寄りは秩父鉄道・長瀞駅で、池袋から西武鉄道と秩父鉄道を乗り継いで行ける。何か所も回る日は、割引乗車券も使える。
クマ・マムシ・スズメバチ・マダニ。危険な生き物への備えは石拾いと危険生物の記事に全部まとめた。出発前の5分で読める。石は次の休みにも河原で待つが、体はそうはいかない。
埼玉での石拾いに関するよくある質問
Q. 東京から日帰りで行ける?
A. 全部、電車で日帰りできる。長瀞は池袋から西武線と秩父鉄道を乗り継いで2時間ほど。高麗川は西武線の高麗駅、荒川中流は高崎線の熊谷駅か秩父鉄道の寄居駅が入口だ。
Q. ガーネットと、ただの赤い石の見分けは?
A. 粒か、石まるごとかで分かる。ガーネットは片岩に埋まる数ミリの粒で、形のいいものは角ばった十二面体に近く、光に透かすと奥が深い赤になる。石全体が赤くて透けないのは、たいていチャートだ。
Q. 拾った石はどう保管する?
A. 洗って乾かし、透明な袋に入れて、拾った場所と日付を書いておく。窓際は避ける。日に当てると色が抜ける石がある。何年かたつと、どこの石か本当に分からなくなる。
川原で拾った石が何なのか気になったら、川原で拾える石の種類一覧で色や模様から見分けられる。
石好き次郎から
長瀞の岩畳は観光地だ。観光客が写真を撮るその足もとに、地下20キロの圧力の跡がある。そう思うと、自然と下ばかり見る。景色の中で一人だけうつむいて歩く中年男。それが私の長瀞だ。
高麗川でチャートを探して、ほとんど何も出ない日もある。そこへ、赤や緑の鮮やかな一個が水際に顔を出す。石拾いの面白さは、ほぼ全部その一瞬にある。残りの時間は、全部そのための待ち時間だ。
夏休みの自由研究にも使える。私も子どもの頃、自由研究で海岸の石を集めて、名前をつけて並べた。長瀞で変成岩を見て、高麗川でチャートを拾い、博物館の標本と写真で並べる。それだけで立派なレポートになる。
長瀞の帰りに、秩父そばを食う。持ち帰るのは、高麗川で拾った名もないチャートの一個だったりする。派手な変成岩でなくても、光にかざせば、その石なりの色と模様がある。観光地の岩畳を歩くのもいいが、私はこの一個を家で眺める時間のほうが好きだ。
高麗川のチャート、荒川の砂岩。長瀞の縞は、写真の中にある。同じ地質帯の石が、川ごとに姿を変える。地図で覚えた地質より、河原の石で覚えた地質のほうが忘れない。長瀞で縞を覚えたら、あとは拾える川へ下りるだけだ。

公式確認先
ここに並べたのは、書くときに確かめた公式のページだ。出かける前に一度開けば足りる。
荒川中流——砂岩・チャートが気軽に拾える入門スポット
長瀞・荒川——結晶片岩の聖地。ただし拾う場所ではない
- 長瀞地区公園|長瀞町
- 長瀞町観光協会 駐車場一覧
- 埼玉県立自然の博物館:野外展示と長瀞「岩畳」
- 埼玉県立自然の博物館:博物館のあゆみ
- ジオパーク秩父:日本地質学発祥の地
- ジオパーク秩父:岩畳と秩父赤壁
- ジオパーク秩父:虎岩
- 大鹿村中央構造線博物館:三波川変成帯の岩石
高麗川——チャートの川。ガーネットの噂は確かめられなかった
最終公式確認:2026年7月23日



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