多摩川で石を拾う——東京・神奈川 完全石拾いガイド

多摩川の石拾い・鉱物採集スポット写真

東京に住んでいると、石拾いができる場所が近くにないと思いがちだ。

しかし多摩川がある。東京・神奈川・山梨の3都県を流れるこの川は、石の宝庫の山梨県を源流に持つ。奥多摩の山々から流れ出た多様な岩石が、長い年月をかけて河原に積み重なっている。チャート・砂岩・泥岩・石英——それに化石まで。名前の「多摩川」には「玉」の意味が込められているという説があり、石好きたちの間では「宝の川」と呼ばれている。

東京から電車一本で行け、予約不要でいつでも行ける——これが多摩川の最大の魅力だ。仕事帰りでも週末の午前中でも、思い立ったら河原に降りられる。東京近郊に住む石好きにとって、多摩川は最も身近な「石の教室」だ。

スポット最寄り駅見つかる石特徴
是政橋下(府中市)西武多摩川線・是政駅 徒歩2分チャート・石英・砂岩電車でアクセス最良。石好きの定番
立川市河原JR立川駅周辺貝化石・植物化石・砂岩上総層群が露出。化石採集スポット
二子玉川河原東急・二子玉川駅 徒歩5分チャート・砂岩・泥岩・石英都心から最も近い多摩川石拾いスポット
平井川(八王子・日野)JR豊田駅周辺多摩川水系の多彩な転石支流。本流より人が少なく静か
目次

多摩川の石はなぜ多様なのか——山梨からの贈り物

多摩川の源流は山梨県甲州市(旧・塩山市)付近の笠取山だ。山梨県は日本有数の鉱物産地——甲府水晶、黒曜石、ガーネット、トルマリンが採れる地質を持つ。その山梨の山々から削り取られた岩石が川を下り、東京・神奈川の河原に届く。

多摩川の河原に多い石の筆頭はチャートだ。チャートは放散虫など微小なプランクトンの死骸が海底に積み重なり固まった堆積岩で、奥多摩のものは約2億5,000万年前に形成された。モース硬度は7——鋼鉄(硬度5)より硬く、チャート同士を打ち合わせると赤い火花が散る。これが「火打石」の正体だ。古代から火をおこすために使われてきた石が、多摩川の河原に今も普通に転がっている。

多摩川には砥石として使える流紋岩もある。古い地図では「砥山」という名の山が奥多摩にあり、かつてここで砥石が採れていた。その砕片が今も川を下り続けている。河原の石一つひとつに、生活の道具として使われた歴史が埋め込まれている。

石好き次郎
是政橋の下でチャートを拾い、二つを打ち合わせてみた。赤い火花が飛んだ。2億5,000万年前の海の生き物が固まってできた石が、令和の東京で今も火をおこす素材として機能している——その事実が面白くて、しばらく火花ばかり飛ばしていた。

是政橋下——電車で行ける多摩川石拾いの定番スポット

石好きの間で多摩川の定番として知られるのが是政橋下(東京都府中市)だ。西武多摩川線「是政駅」から歩いて1〜2分で河原に降りられる。橋の下は日陰になり、夏の暑い日でも涼しく石拾いができる(冬は逆に寒い)。

ここで最も多く見つかるのはチャートだ。白・黒・赤・緑と色バリエーションが豊富で、磨けば宝石のような光沢が出る。石英の転石も多く、一部が水晶化しているものも見つかることがある。ほとんどが石英だが、チャートっぽい茶色い石がくっついているものや、黄色い粒を含んだ不思議な石など、見ていて飽きない。

ぬかるんでいる場合があるので長靴か防水シューズが安心。周辺の駐車場(川崎市側の河川敷駐車場など)も利用できる。

立川市の河原——100万年前の化石が拾える地層

多摩川中流域の立川市周辺は化石採集の穴場だ。この一帯には約100〜300万年前に堆積した「上総層群(かずさそうぐん)」が露出しており、貝の化石やゾウの仲間の足跡化石が含まれている。層状に重なった砂岩を剥がしていくと、パカッと石が分かれて貝化石が姿を現す。

ハンマーとゴーグルを持参すれば本格的な化石採集が楽しめる。渇水期(秋〜冬)に露出する岩盤では大きな巻き貝も採れるという。立川駅からアクセスしやすく、帰りに立川の飲食店でゆっくりできるのも利点だ。

二子玉川——都心から最も近い石拾い河原

東急田園都市線・大井町線の「二子玉川駅」から徒歩5分ほどの多摩川河原は、都心から最もアクセスしやすい石拾いスポットの一つだ。渋谷から電車で20分程度——仕事帰りに気軽に立ち寄れる距離だ。

ベージュ・グレー・黒・白・茶色と色とりどりの石が並ぶ。砂岩・泥岩・石英・チャート——一見「グレーの丸い石ばかり」に見えるが、しゃがんで一つひとつ見ていくと、縞模様のある石、赤みがかった石、白い脈が走る石など個性が見えてくる。石は磨けばさらに表情が出る。「ネットで買わなくても、多摩川で拾えばいい」と気づいた人は多い。

石好き次郎
多摩川は「グレーの丸い石しかない」という先入観で敬遠していたが、実際に行くと予想以上だった。チャート・砂岩・石英・礫岩——岩石の教科書に出てくるものが無料で並んでいる。河原の石は億年単位で古い。タダで拾えるのに、これほど長い時間が手に入る場所は他にない。

神奈川側——秋谷海岸と酒匂川

神奈川県側で多摩川沿いから足を延ばすなら、横須賀市の秋谷海岸(立石公園)が人気だ。メノウが拾えるスポットとして石好きの間で知られており、駐車場(普通車62台・無料)・トイレ・レストランが整備されている。富士山と立石のシルエットが美しい撮影スポットでもあり、石拾いと観光を組み合わせやすい。

神奈川県の酒匂川(さかわがわ)も石好きに人気の川だ。西丹沢を源流とし、小田急線・新松田駅から近い。チャート・砂岩に加え、相模川系の石が混じる多様な河原で、セラドン石(緑色の変成岩)が見つかることもある。台風後は新しい石が出てくるため、大雨の後が狙い目だ。

多摩川の石を磨く——チャートとメノウの仕上げ方

多摩川で拾った石をそのまま飾るのも良いが、磨くとさらに表情が変わる。特にチャートは磨くと宝石のような光沢が出る石だ。硬度7のチャートは耐水ペーパーで問題なく磨ける——400番から始め、800→1500→2000番と番手を上げると高い光沢が出る。最後にピカールなどの金属磨き剤で仕上げると鏡面に近い艶が得られる。

石英塊はより硬く(硬度7)磨きがいがある。白っぽい石英が磨くと透明感が増し、内部の結晶構造が透けて見えることがある。砂岩は柔らかいので磨きすぎると崩れる——400番程度で軽く表面を整えるだけで十分だ。泥岩は水を含むと崩れやすいため磨かず乾燥保管が基本。

保管は直射日光を避けた乾燥した場所で。多摩川の石はほぼ全て耐候性が高く、変色・変質の心配は少ない。チャートと石英はほぼ永久に状態が変わらない「安定した石」だ。ショーケースに並べておくだけで、地質の断面図ができあがる。

多摩川で「石を学ぶ」——岩石の教科書を手に持つ

多摩川の河原は「岩石標本の現場」として教育的な価値が高い。砂岩・泥岩・礫岩・チャート・石英——中学の理科で出てくる堆積岩・火成岩が全部そろっている。子どもの夏休みの自由研究として「多摩川の石を10種類集めて名前を調べる」は、博物館の展示に匹敵する学習になる。

おすすめの手順:①川原で気になる石を10〜20個拾う。②家に持ち帰り乾かす。③岩石図鑑またはスマホアプリで名前を調べる。④同じ石でも色・形が違うものを比べる。⑤産地(奥多摩の地質)と関連づけて考える。この手順で1日かければ、中学地学の教科書1冊分の実感が得られる。多摩川は「タダで使える野外実験室」だ。

Q. 多摩川で化石は本当に見つかりますか?
立川市付近の中流域では上総層群が露出しており、貝化石・植物化石は確実に見つかる。ハンマーで砂岩を剥がしていくと発見しやすい。渇水期(秋〜冬)が最も地層が露出して探しやすい季節だ。

Q. 砂金は採れますか?
多摩川でも砂金の採集記録はある。専用のパンニング皿を持参し、川底の黒砂(磁鉄鉱を含む重い砂)を集めてパンニングすると、まれに金属光沢の粒が見つかることがある。量は少ないため「体験」として楽しむ程度に。

Q. 石の持ち帰りはOKですか?
個人で楽しむ範囲の少量採集は「自由使用」の範囲として認められている。大量採取・販売目的は河川法の問題になる場合があるため避けること。次に来る人も楽しめるよう常識的な量に留めること。

石好き次郎から

石好き次郎
多摩川の河原を歩いていると時々思う——この石はどこから来たのか。山梨の山で生まれ、何十万年もかけて川を下り、今日この河原にいる。それを30秒前に拾った。石と私の出会いはほんの一瞬だが、石の旅は想像もできないほど長い。「良い石には理由がある」——多摩川の石の理由は、山梨の地質と時間の長さにある。

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石好き次郎

宝石の科学・歴史・市場を世界中の言語で調べてお届け

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