多摩川の足元は小さな鉱物図鑑。東京の川原で石を探す

多摩川の石拾い・鉱物採集スポット写真
石好き次郎
東京で石を拾うのに、遠出はいらない。二子玉川なら、駅から河原まで歩いてすぐだ。しゃがめば、赤いチャートと白い石英はちゃんと手に乗る。東京にも、石はある。

赤いチャートを一個、手に載せる。角がいくらか残り、乾くと少し地味になる。この赤は、深い海の底で、目に見えない生き物の殻が積もってできた。拾ったのは、東京の河原だ。東京に住んでいると、石拾いは遠い山の話だと思いがちだ。電車で行ける河原に、拾うほどの石なんて転がっていない、と。

ところが、多摩川がある。東京・神奈川・山梨の3都県を流れるこの川は、石の多い山梨の山から水を集める。奥多摩の岩が長い時間をかけて削られ、河原に積もる。チャート・砂岩・泥岩・石英、それに化石まで。「多摩川」の名に「玉」の意味があるという説もあり、石好きは「宝の川」と呼ぶ。語呂合わせだと思うなら、河原で10分、足元だけ見てみるといい。

東京から電車一本、予約はいらない。思い立った朝に、河原へ降りられる。これが多摩川のいちばんの強みだ。遠くの名産地に年に一度行くより、近くの川に何度も行くほうが、石を見る目は育つ。

スポット最寄り駅見つかる石特徴
丹波川(山梨・丹波山村)JR奥多摩駅からバス砂金(粉金)武田の黒川金山由来。規制・増水の確認必須
御岳渓谷(青梅市)JR御嶽駅すぐ観察のみ推奨国立公園区域にかかる。石の生まれる場所を見る
是政橋下(府中市)西武多摩川線・是政駅 徒歩5分ほどチャート・石英・砂岩電車でアクセス最良。石好きの定番
立川・昭島の河原JR立川駅・昭島駅ほか貝化石・植物化石・砂岩昭島〜日野で上総層群が河床に出る。アキシマクジラの川
二子玉川河原東急・二子玉川駅 徒歩5分チャート・砂岩・泥岩・石英都心から最も近い多摩川石拾いスポット
浅川(八王子・日野)JR豊田駅周辺多摩川水系の多彩な転石支流。本流より人が少なく静か
河口部(大田区・川崎市)—石は砂に変わる石拾いの川としては終点。散歩の区間
場所東京都府中市・是政橋下の河原(多摩川中流の定番)
採れる石チャート・石英・砂岩
駐車場周辺の河川敷駐車場
採集可否可(手で拾う少量)
子ども向け○ 水遊びエリアと自然に分かれている
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最終確認日2026年7月
目次

多摩川の石はなぜ多様なのか——山梨からの贈り物

奥多摩(上流)、立川・府中(中流)、二子玉川(中流の終わり)。3回に分けて歩くと、同じ川で石が入れ替わるのが分かる。多摩川は、私のホームの川だ。上流の山の石が中流で揉まれ、下流で海の手前まで来る。地図を広げなくても、足で地質図が読める川だ。

拾った石の出どころは、地図で追える。産総研の地質図Naviを開けば、「このチャートは奥多摩の秩父帯から来た」と見当がつく。手の中の一個から、流れを逆にたどって山まで行ける。多摩川の楽しみの半分は、家に帰ってからだ。

多摩川は、山梨の笠取山から東京湾まで138kmある。その道のりを、石は大水のたびに少しずつ下りてくる。急ぐ理由は、石には無い。

上流の奥多摩〜青梅には、二つの帯がある。チャート・石灰岩・緑色岩の秩父帯と、砂岩・頁岩の四万十帯だ。二つの帯の石が川を下りながら混ざり、東京・神奈川の中下流で一つの河原に並ぶ。山を歩かなくても、河原で地質標本が拾える。横着な石好きには、ありがたい川だ。

源流が山梨というのは、石好きには少しうれしい。水晶で名高い県から、水をもらう川だ。もっとも、甲府の水晶は別の水系で、多摩川には流れてこない。そこは期待しないほうがいい。

河原でいちばん多いのはチャートだ。硬さは7で、鋼鉄より硬い。チャートを鋼の火打金で打つと、火花が散る。これが火打石の正体だ。昔の人が火をおこした石が、今も足元にごろごろしている。知ってしまうと、一個ずつ打ってみたくなるのが困る。

多摩川の石を、流れと逆向きにたどる

河原の石は、拾った場所で生まれたわけではない。ほとんどが上流から運ばれてきた「よそ者」だ。おもしろいのは、種類ごとに“ふるさと”が違うこと。手のなかの石を、流れと逆向きにたどってみる。

赤や黒のチャートは、石灰の殻さえ溶けてしまうほど深い海の底で生まれた。そこでは、放散虫という小さなプランクトンの、石英でできた殻だけが溶け残る。それが気の遠くなる時間をかけて積もり、石になった。硬いから、川を流れても角が残る。

灰色の砂岩や泥岩は、海溝に流れ込んだ砂と泥が固まったもの。柔らかいので、河原ではすぐ角が取れて丸くなる。

白っぽい石灰岩は、あたたかい浅い海のサンゴや殻が積もったもの。奥多摩・日原には石灰岩の地層があり、鍾乳洞まである。深海生まれのチャートと、浅い海生まれの石灰岩が同じ河原に並ぶ——そこが多摩川の奥深さだ。

深海、海溝、あたたかい浅い海。生まれた海がばらばらの石が、同じ足元に集まる。灰色の礫を一個拾って、どこの海から来たのかと聞いてみる。返事はない。それでも、聞く前より少しだけ石の顔が見える。

多摩川は、1本で3つの川だ——上流・中流・下流の読み方

同じ多摩川でも、奥多摩と川崎では別の川の顔をしている。山の渓谷に始まり、礫の河原を経て、潮の混ざる河口で終わる。どこで拾うかを決める前に、この3区分だけ頭に入れておけば迷わない。上流の雨で下流の水位が動くことも、河原の増水と撤退判断で押さえておきたい。

上流(奥多摩〜青梅)——石の生まれる場所

上流の渓谷は、秩父多摩甲斐国立公園の中だ。ここは拾う区間というより、石の生まれる場所を見に行く区間だと思っておく。

御岳渓谷のような景勝地は、歩いて岩を見るだけで元が取れる。巨岩と急流。中流で拾う石の、削られる前の姿がここにある。

上流の金——武田の金山と、多摩川の砂金

そして、金の話をする。多摩川の源流部——山梨県丹波山村を流れる丹波川の上流には、武田信玄の軍資金を支えたと伝わる黒川金山があった。金山跡の谷は、今も丹波川に注いでいる。

だから多摩川水系には、砂金が流れている。愛好家の採取記録が流域ごとに残り、テレビが「多摩川で砂金探し」を特集したこともある。粉のような金だが、本物だ。武田の金と、同じ山から来た金になる。単体の深掘りは多摩川の砂金に書いた。

ただし、夢は見ないほうがいい。採れるのは粉のような金で、大きめの粒でも数十円にしかならない。増水の日は、金より命が先。川には入らない。

私も、よその川で皿を振ったことがある。黒い砂の底に金色が残ると、金額の話はどうでもよくなる。パンニングを体験から学ぶなら、武茂川(栃木)の砂金採りが近道だ。

中流(羽村堰〜二子玉川)——石拾いの主戦場

羽村の堰から二子玉川あたりまでが、石拾いの本番だ。山を出た川は勾配がゆるみ、運んできた礫をここで下ろす。河原に石が積もるのは、この勾配の変化のせいだ。

この記事で紹介する是政橋も、立川も、二子玉川も、実は全部この中流に入る。拾える場所が中流に集中するのは偶然ではなく、川の物理だ。赤いチャート、白い石英、縞の石——色から探すなら綺麗な石図鑑が中流の相棒になる。

羽村の堰は1653年、玉川兄弟が玉川上水のために築いた取水口でもある。江戸の水道の始点と、石拾いの始点が同じ場所だ。江戸の人はここで百万都市の水を引いた。石好きは同じ川で、手のひらに載る石を探す。スケールが違いすぎて、少し笑える。

下流(ガス橋〜河口)——石の終わる場所

二子玉川を過ぎると、川は潮の影響を受け始め、河原の礫は砂と泥に変わっていく。正直に書くと、下流は石拾いの川ではない。石はここで長い道のりを終え、海の砂になる。

河口まで歩く価値はある。山で生まれ、中流で拾われ、河口で砂になる。手の中のチャートの一生を、1本の川で見届けられる。拾った1個を磨いて仕上げると、その一生が机の上に残る。

河口へ向かう途中、東急東横線の多摩川駅のそばに「多摩川台公園」がある。台地の縁に古墳が並ぶ公園で、そこから多摩川の低地を見下ろせる。川が長い時間をかけて台地を削った段差の高さが、自分の足で分かる。地形で川の歴史を読んでから河原に降りると、拾う石の意味が一段深くなる。

是政橋下——電車で行ける多摩川石拾いの定番スポット

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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