黒潮が育てた珊瑚が今消えようとしている——土佐の血赤珊瑚と高知の石

高知の石と地質——産地の歴史写真

土佐の血赤珊瑚は、消えたわけではない。漁場の輪番制と禁漁期間で漁獲を絞りながら、いまも採られる。ただ、漁獲は最盛期よりずっと細った。高知でいちばん値のつく「石」は、じつは石ですらない。

イタリアの宝石業者は、土佐沖の血赤珊瑚を「TOSA(トサ)」と呼ぶ。土佐のものは「ガラス質で光を透す」、地中海のものは「赤いがマット」と言われ、業界の評価は土佐に傾く。カメオの本場イタリアが、高知から渡った珊瑚を彫ってきた。

珊瑚の業者の多くが高知に集まり、日本で採れる珊瑚原木の入札も高知で行われる。珊瑚の話をするなら、高知は素通りできない。

宝石珊瑚(アカサンゴ・Corallium japonicum など)は、室戸岬・足摺岬沖の水深100〜400mの岩礁に生える。黒潮が運ぶ栄養、10〜14℃の水温、強い潮。三つそろった海の底で、少しずつ枝を伸ばす。

陸のほうは、海の底にあったものが押しつけられて山になった、付加体の県だ。四万十帯・秩父帯・三波川変成帯が帯になって並ぶ。高知の河原で拾う一個も、もとをたどれば太平洋の海底にいた。

高知で石を拾いに行くなら、行き先は高知で石を拾う|仁淀川の五色石・四万十川、土佐の川が運ぶ色の違う石にまとめた。ここでは、石が残した高知の歴史をたどる。

目次

珊瑚は鉱物か——炭酸カルシウムの有機宝石

有機宝石の定義——珊瑚・琥珀・真珠の共通点

珊瑚の骨の主成分は炭酸カルシウム(CaCO₃)。石灰石や方解石と同じだが、珊瑚虫が体の中で作るぶん有機物が混じり、結晶もマグネシウムを含む方解石になる。磨くと「珊瑚光沢」が出る。ほかの宝石では見ない、しっとりした光だ。

珊瑚と他の有機宝石の比較主成分作る生き物特徴
血赤珊瑚(土佐産)炭酸カルシウム(CaCO₃)珊瑚虫(コーラル)の群体世界最高品質・光を透す深い赤
真珠(三重産)アラゴナイト(CaCO₃)アコヤ貝特有の真珠光沢・層状構造
琥珀スクシニット(有機樹脂)古代の樹木の樹脂樹脂の化石・昆虫等を閉じ込めることも

珊瑚・真珠・琥珀は、生き物が作る「有機宝石」だ。鉱物の図鑑では端のほうにいるのに、血赤珊瑚は「ルビーのように透き通った赤」と呼ばれ、宝石の中に自分の席を持つ。端の席のほうが目立つこともある。

黒潮が育てた血赤珊瑚——なぜ土佐沖が世界最高なのか

土佐沖の珊瑚がいい理由は、黒潮だ。南から北上する暖流が、プランクトンと安定した水温・水質を運ぶ。珊瑚はそれを食べて、ゆっくり骨を伸ばす。

宝石珊瑚は、浅い海でサンゴ礁を作る珊瑚とは別物だ。深い海に住み、土佐沖で育った骨はガラス質で緻密になる。育った海で質が決まる。そこは河原の石と同じだ。

石好き次郎
四万十川の河原は、石の種類が多すぎる。砂岩、泥岩、チャート、緑色岩。全部ほしくなると、一個も選べない。欲張りは、河原でいちばん損をする。

土佐珊瑚の歴史と、陸の川

宝石珊瑚が見つかったのは19世紀、江戸時代の室戸沖・足摺沖の漁の最中だったとされる。土佐藩は所持も販売も禁じたが、密猟は絶えなかった。禁じるほど欲しくなるのは、石も珊瑚も同じだ。明治に入るとイタリアの買い付けが高知まで来て、「TOSA」の名が世界に広まった。

海から上げる人、削る人、売る人。三つそろって、やっと一本の枝が宝石になる。土佐珊瑚は、いまも高知の伝統産業だ。

陸に上がれば、高知は川の県だ。拾うなら四万十川と仁淀川がいい。どちらも付加体を流れるので、砂岩・泥岩・チャート・緑色岩・石灰岩が同じ河原に混ざる。緑の片岩が欲しければ、三波川変成帯を流れる仁淀川だ。高知の川は、ほしい石で選べる。

四万十川のチャートは赤・緑・白と色が多く、灰色の砂岩の中でよく目立つ。最初の一個は、たぶん赤を拾う。目が勝手にそっちへ行く。チャートは放散虫の殻が海底に積もった石で、縄文の人は石器にした。安い石ほど、話が長い。

緑色岩は、海底火山の溶岩が変わった岩で、四万十帯ではよく見つかる。深い緑で、磨くと光る。蛇紋岩と間違えやすいが、蛇紋岩のほうが柔らかく、爪で傷がつくことがある。迷ったら爪を立てる。原始的だが、河原ではこれがいちばん早い。

仁淀川は「仁淀ブルー」で知られる。あの青の主役は、濁りの少ない水だ。川底に多い青緑の片岩が、その青を後ろから支える。桂浜の龍馬像の足元にも岩がある。見上げる人は多くても、足元を見る人は少ない。私は下を見るほうだ。

よくある質問

Q. 高知で血赤珊瑚を実際に見られる?
見られる。桂浜近くの「日本サンゴセンター 宝石珊瑚資料館『35の杜』」が、珊瑚の歴史から採取・加工までを展示する。帯屋町には明治創業の老舗の珊瑚店も残る。

石・地質特徴
宝石珊瑚(アカサンゴ・モモイロサンゴ等)炭酸カルシウム骨格の有機宝石・深海産
四万十帯の砂岩・泥岩白亜紀〜古第三紀の付加体・四万十川の主役
チャート(放散虫岩)秩父帯に分布する古生代〜中生代の海洋記録
三波川変成岩(青石)高知北部・高圧変成帯の証拠
室戸岬の海食岩付加体地質が海食で露出した高知の地質景観

珊瑚の断面をルーペで見ると、細かい結晶が同心円に並び、木の年輪のような模様が出る。土佐珊瑚の最上は「牡丹色(深い赤)」と「辰砂色(朱赤)」。色の深さとむらの無さで値段が決まる。もっとも、きれいかどうかは、ルーペより先に目が決めてしまう。

土佐珊瑚はどこで買える?

高知市内の土産物店や、高知城まわりのアクセサリーの店で買える。高い買い物ほど、産地の店で手に取ってからにする。

血赤珊瑚の見分け方は?

色が均一で、ルーペで木目のような縞が見えれば本物の候補だ。染色品は色が表面だけで、傷をつけると白い地が出る。樹脂の偽物は軽く、熱した針を当てると溶ける。最後は産地証明書と鑑別書だ。赤がきれいなほど、書類のほうを先に疑っていい。

石好き次郎
珊瑚は水深100メートルより深い場所にいる。潜って採ることはできない。網を沈めて引き上げるしかない。海の宝石は、いまも人間が直接見ることなく採られる。

石好き次郎から

血赤珊瑚は、宝石珊瑚の最高級品だ。深い海に生えて、年に数ミリしか伸びない。私が20年、河原で石を拾ってきたあいだに、珊瑚が伸びるのはせいぜい数センチだ。向こうは、少しも急がない。

珊瑚は鉱物ではない。動物の骨格だ。石好きの棚に並べると、正直、少し肩身が狭い。ただ、あの赤を前にすると、分類の話は黙るしかない。

土佐沖は、人が選んだ産地ではない。海が選んだ。

年に数ミリしか育たないものを獲り続ければ、尽きるのは当たり前だ。高知には行ったことがある。だからこの話は、遠い海の他人事に聞こえない。

石好き次郎
土佐の珊瑚が減りつつある。乱獲と海水温の上昇だ。私が生きているうちに、この赤が市場から消えるかもしれない。私にできるのは、川で拾える石を拾うことくらいだ。
石好き次郎のおすすめ
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珊瑚は海が選んだ。川の石なら、高知の仁淀川に緑・赤・白・黒の五色石が並ぶ。高知で石を拾うで、川ごとの顔が分かる。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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