蔵王のお釜はなぜ青緑か——吉野石膏と最上川の金、山形の石の物語

山形産砂金——地質と産地の歴史写真
石好き次郎
最上川の底に、金が眠る。芭蕉が「五月雨をあつめて早し」と詠んだ川だ。昔から人を川へ呼んだ砂金が、いまも流れる。

山形の石がおもしろいのは、色にも金にも壁にも化けるところだ。まず色。蔵王の「お釜(おかま)」は直径約330mの火口湖で、水が青緑に光る。石が、水の色を決める。

青緑の湖面の写真の横に、pH3前後という数字を置くと、急に本物になる。酢と変わらない酸っぱさの水だ。きれいな色ほど、近づけない。

金は最上川の砂の中にある。壁は吉野石膏(CaSO₄)だ。全国シェア80%以上の石膏ボードを作る吉野石膏株式会社は、山形の鉱山から始まった。月山・鳥海山の霊山も、火山が作った山だ。地味な顔をして、山形の石は日本の家と信仰を下から支える。

石の歴史を読んで、山形で石を拾ってみたくなったら芭蕉が下った最上川に砂金は眠る?山形の川で宝探しへ。行き先は、そちらにまとめてある。

目次

蔵王のお釜——火山化学が生む青緑の絶景

お釜は、刈田岳・熊野岳・五色岳の間にある、若い火口湖だ(直径約330m・最大水深約27m)。「五色沼」とも呼ばれる。エメラルドグリーン、コバルトブルー、グレーと、季節・時刻・天気で色が変わるからだ。

酸のもとは、地下から湧く火山ガス(SO₂・HCl・H₂S)だ。水に溶けて硫酸と塩酸になり、岩を溶かして鉄を水に送り込む。その鉄と硫黄のコロイド(水に浮かぶごく細かい粒)が光を散らして、青から緑に見える。湖の色は、火山が岩を溶かし続けた結果だ。

お釜の主要データ

項目数値・内容石好きの視点
pH3前後(酸性)草津温泉(pH2前後)よりは弱い。鉄・硫黄が溶け込んだ結果
水の色の原因硫酸イオン・鉄イオン・硫黄コロイドの光散乱鉱物の化学反応が色を決める好例
形成年代新しい火口(活動は約3万年前から続く)現在も活動中の火山(気象庁の噴火警戒レベルあり)
季節4月下旬〜11月(冬季閉鎖)晴天時にエメラルドグリーンが最も鮮明

お釜のまわりでは、岩の割れ目に硫黄の結晶が出る。水蒸気爆発で飛んだ火山礫や溶岩弾も転がる。いま動く火山が、いま作った石だ。蔵王も月山も鳥海山も、国立・国定公園の特別地域にかかる所では拾わず、見るだけにする。

蔵王はいまも活発な火山で、気象庁が常に見張る。1895年(明治28年)にも、お釜で水蒸気噴火があった。行く前に、気象庁の火山活動の情報を一度見る。石より先に、山の機嫌だ。

蔵王の地質——火山が作った石の世界

蔵王山は奥羽山脈の主峰で、安山岩、デイサイト、軽石、火山灰でできている。最高峰の熊野岳(1,841m)のまわりは溶岩流が何枚も重なり、火山礫や火山弾がそこらじゅうにある。100万年以上の火山活動が積み上げた複成火山(噴火をくり返して育った火山)だ。

蔵王温泉(山形市)の源泉はpH1台と、お釜よりずっと強い酸だ。湯が浴槽の石を少しずつ溶かし、赤褐色の染みを残す。湯につかりながら、化学反応の跡を眺めることになる。

石好き次郎
最上川を、芭蕉の句で覚える人は多い。石好きは、皿の底の小さな光で覚える。

最上川——砂金・紅花・石が育てた川の文化

最上川は、山形県の面積の76%を流域に持つ。1県だけを流れる川としては日本一の大河だ。吾妻連峰から北へ流れ、酒田市で日本海に注ぐ。村山の紅花を京都へ運んだのも、この川だ。芭蕉の句で知られるが、石を拾う目で見ると、山の鉱物を海まで運ぶベルトコンベアだ。

上流の奥羽山脈や吾妻連峰から削れた岩や鉱物が、砂になって流れてくる。かつて最上川の砂には砂金が混じり、流域のあちこちで砂金採りが行われた。いまは、公認の砂金採り体験の場は見当たらない。金が混じると知ったとたん、ただの砂が急に惜しくなる。

支流の鮭川のあたりでは、片麻岩や結晶片岩の礫が拾える場所がある。結晶片岩は、薄い葉を重ねたような縞が出る石だ。川で角が取れると、手のひらで眺めるのにちょうどいい大きさになる。

吉野石膏——山形の石が日本の壁を作った

石膏は、硫酸カルシウムの水和物(CaSO₄・2H₂O)だ。山形県南陽市の吉野鉱山で石膏を掘り、精製していた業者が吉野石膏株式会社になった。いまはタイガーボードの石膏ボードで、日本の壁材を支える。日本の新築の家の壁の多くに、ここの石膏が入る。

石膏は、硫酸が石灰岩に働いたり、温泉水が岩と反応したりしてできる。火山の多い山形の地質が、山形に良質な石膏を生んだ。加熱すると水が抜けて半水石膏(焼き石膏)になり、水を足すとまた固まる。壁にも彫刻にも数千年使われてきた理屈は、これだけだ。

自然の石膏には、砂漠のバラ、板状のナイフスパー、絹のように光るサテンスパーと、いろいろな顔がある。吉野鉱山の標本は、いまは手に入りにくい。家の壁の中にはいくらでもあるのに、棚には並ばない。

いまは国内の天然石膏に加えて、火力発電所の排煙脱硫で出る石膏(化学石膏)も原料に使う。山形の鉱山から始まった会社が、発電所の煙の後始末まで引き受ける。鉱山の話のつもりで読み始めたら、煙突の話で終わる。

山形の石採集——月山・鳥海山・最上川を歩く

山形は、山ごとに石の顔がちがう。月山(がっさん・1,984m)は玄武岩と安山岩の火山で、登山道沿いに火山礫や溶岩の露頭が出る。周りの沢では変成岩の礫も見られる。夏山の7〜10月なら、登りながら足元の地質を見られる。

鳥海山(ちょうかいさん・2,236m)は山形と秋田の県境の活火山で、玄武岩と安山岩の成層火山だ。溶岩流は日本海まで届いた記録がある。遊佐町の吹浦海岸では、海に流れ込んで冷え固まった溶岩の岩場が見られる。

山形市まわりの最上川・須川では、安山岩、デイサイト、凝灰岩の礫が拾える。蔵王の近くの川には、硫黄を含んだ酸性の水で変わった変質岩も混じる。見慣れた石のはずなのに、色も手ざわりもどこか別物。それが、火山の化学反応を受けた石だ。

蔵王と硫黄鉱物——火山が生む黄色い結晶

火山ガス(SO₂・H₂S)が岩の割れ目で冷えて酸化すると、自然硫黄が出る。明るい黄色から黄橙色の結晶で、噴気孔のまわりにできる。硫黄の融点は113℃と低いので、噴気の熱で溶けて流れ、そのまま固まった形も見られる。石が溶けて垂れる。火山の近くでは、それがふつうだ。

硫黄は昔から薬、農薬、黒色火薬の原料だった。江戸時代には蔵王や鳥海山まわりの硫黄が、山形藩の収入源の一つになった。いまも硫酸づくりやゴムの加硫、農薬に欠かせない。黄色い石ころが、化学工業の足元にいる。

蔵王のまわりで見られる鉱物は、硫黄のほかに、金色に光る黄鉄鉱、白い板状の石膏、六角の板になる明礬石など。どれも火山の熱水やガスが岩と反応してできた。温泉地を歩くと、鉱物の見本帳をめくることになる。

月山と出羽三山——霊山と岩石信仰

月山・羽黒山・湯殿山の「出羽三山」は、1,400年以上の歴史を持つ山岳信仰の霊地だ。月山の山頂部は溶岩流が多い。登山道の溶岩は、そのまま参拝の道の足元だ。拝みに登る人も、石を見に登る人も、同じ岩を踏む。

湯殿山(1,500m)は、火山性の岩盤から湯が湧く御神体の山で、昔から撮影も録音も禁じられてきた。写真に残せない石は、行った人の記憶にしか残らない。それでいい場所も、ある。

石好き次郎
石が政治を動かした例は、日本各地にある。秋田の銀と銅は、幕府と藩の財布を支えた。山形の川の金がそこまで働いた記録は、私はまだ見つけていない。

山形産の宝石・鉱物コレクション

鉱物の標本でも、山形は名前が出る。最上川流域の変成岩帯には石英脈があり、水晶、玉髄(カルセドニー)、碧玉(ジャスパー)が出る。尾花沢市のあたりでは、花崗岩の露頭で長石・石英・黒雲母の結晶が見られる。

山形の砂金は、平たく薄い粒が多い。川で運ばれるうちに押しつぶされた、典型的な川砂金の形だ。粒の形を見れば、川で採ったか山で掘ったかの見当がつく。金は、来た道を形で白状する。

山形で石を拾うなら、最上川水系と、月山まわりの川がいい。最上川は流域が広く、上流の地質で拾える石が変わる。上流は変成岩や火成岩、下流は堆積岩の礫が中心になる。

砂金なら、鮭川や小国川のような支流のほうが濃いことがある。本流は水が多く、砂が散る。狙うのは支流の流れがゆるむ場所、合流点、カーブの内側。金は重いので、水が力を抜いたところに落ちる。

よくある質問

Q. 蔵王のお釜は見学できる? A. できる。蔵王エコーラインと蔵王ハイラインで刈田岳の山頂近くまで上がり、展望台から縁越しに見下ろす。冬は道が閉まり、霧で何も見えない日も多い。

山形の地質——置賜・村山・最上・庄内の4地域

置賜・村山・最上・庄内——4地域の地質

山形は、置賜・村山・最上・庄内の4地域で地質の顔がちがう。南の置賜は奥羽山脈の変成岩と火山岩が土台で、最上川上流の砂にいろいろな鉱物が集まる。中部の村山は、山形盆地を囲む新第三紀の火山岩・堆積岩の山で、真ん中に蔵王がいる。北の最上は山が多く、川沿いに変成岩や花崗岩が出る。西の庄内は日本海沿いの砂丘と低地で、海岸の礫も拾える。

飯豊山地の変成岩帯——山形最古の地質

山形の土台として大事なのが、山形・福島・新潟の三県にまたがる飯豊山地(いいでさんち)の古い変成岩帯だ。片麻岩、結晶片岩、角閃岩が出る。片麻岩の縞や、結晶片岩のきらっとした葉片状の光り方は、河原で見つけると手が止まる。

庄内平野の砂丘は、最上川が運んだ砂を日本海の波と風が積み上げたものだ。砂をよく見ると、長石、石英、雲母、角閃石の粒が混じる。砂丘のひとつかみは、上流の山の縮図だ。

最上川流域の採集スポット

石を拾う場所としてよく名前が挙がるのは、鮭川村・戸沢村あたりの最上川流域だ。上流から来た安山岩、デイサイト、変成岩、石英脈の礫が、一か所で比べられる。河原の石は上流の地質の標本、という原則がそのまま使える。増水のすぐ後は流れが速く濁るので、水位が落ち着くのを待つ。

山形の石好き必訪スポット

山形市の山形県立博物館は、蔵王の火山、最上川の地形、出羽三山の岩石まで、山形の地質・鉱物・化石の展示がそろう。河原に出る前に寄ると、拾った石に名前がつけやすい。名前がついた石は、なかなか捨てられなくなる。

1泊2日なら、1日目に蔵王のお釜と蔵王温泉、2日目に最上川の河原と山形県立博物館。東京から山形新幹線で約2時間半。週末で足りる距離だ。

火山岩(蔵王・月山・鳥海山)、変成岩(飯豊山地)、堆積岩(最上川流域)、鉱床(吉野石膏・砂金)。一つの県に、これだけそろう。東北の石の中でも、山形は品ぞろえが多い。

石好き次郎から

最上川の砂金は、上流の山の金鉱脈から流れてきた。比重19.3の金は、流れがゆるむ場所に沈む。理屈はこれだけなのに、皿の上の金は、なかなか言うことを聞かない。

山形の石は、暮らしに溶けこむ。壁の石膏、蔵王の火山が作った温泉、最上川が運んだ土が作った農地。どれも派手ではない。派手ではない石ほど、毎日だれかの役に立つ。

強酸性のお釜には、生き物が棲めない。山形でいちばんきれいな水に、だれも住めない。

20年石を拾ってきて、拾えない石もあれば、拾わなくていい石もあると知った。石膏は後者だ。自分の家の壁の中に、もうある。

石好き次郎
芭蕉は舟から川を見た。私は皿を持って、水に入る。同じ川を見ているのに、300年で見方が変わった。
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皿の上の金が言うことを聞かなくても、また振りたくなる。最上川の次の川は、日本の川に砂金は眠る?で歴舟川から球磨川まで選べる。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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