大分の石は温泉が作った——別府の温泉沈殿物・九重山の硫黄・姫島の黒曜石

大分の石と地質——産地の歴史写真

大分の石は、河原より先に湯の中にある。源泉数も湧出量も日本一の県で、地獄の色は、そのまま鉱物の色だ。

コバルトブルーの海地獄、真っ赤な血の池地獄、白く濁る白池地獄。隣り合う池で色がここまで違うのは、湯に溶けた成分が池ごとに違うからだ。大分には行ったことがある。それだけで偉そうに書く気はない。ただ、石好きが湯に浸かって帰るだけではもったいない県だ、とは言い切れる。

県の中身は、ばらばらだ。九重と由布岳は火山の岩、大分川には花崗岩や変成岩の礫、南の佐伯には古い海の地層。火山と古い地層が一つの県に同居する。湯に目を取られがちだが、足元も負けていない。

九重山(久住山・1787m)は安山岩・デイサイトの活火山群だ。坊がつる湿原のまわりには、安山岩の礫が散らばる。現役の火山が吐き出した石を、湿原の道から眺められる。眺めるだけ、というのがこの山との正しい付き合い方だ。

別府の湯口のまわりには、石灰華(炭酸カルシウムの析出物)が層になって積もる。温泉が毎日少しずつ石を作る。ふだん何万年も前にできた石ばかり拾う身には、今日できた石というのは妙に新鮮だ。

この記事は読み物だ。大分の河原や浜で実際に拾うなら、【2026年版】大分で石を拾える場所はある?——阿蘇火砕流の岩、温泉の石、姫島の黒曜石のほうが役に立つ。

目次

地獄の色は鉱物の色——化学で読む別府地獄

地獄の名称色色の原因(鉱物・化学物質)特徴
海地獄コバルトブルー硫酸鉄——溶けた鉄の成分が見せる青地獄の中で最大規模。98℃。美しすぎる池
血の池地獄赤〜赤褐色酸化鉄(Fe₂O₃)——鉄が酸化した赤錆の色日本最古の「天然地獄」。奈良時代の記録あり
白池地獄乳白色硫黄やシリカの微粒子——湯の中の細かい粒が白く濁らせる噴出時は透明、冷えると白濁。温泉が変化する過程を見られる
鬼石坊主地獄灰色〜茶色熱泥——粘土鉱物と温泉が混合した泥灰色の泥が沸騰する「泥泡」が不思議
竜巻地獄無色〜白純粋な熱水噴出(間欠泉)30〜40分おきに熱湯が吹き上がる間欠泉

色の違いは、地下でどんな成分が熱水に溶けたかの違いだ。硫酸鉄が溶けたままなら青、鉄の酸化物が沈めば赤、硫黄やシリカが多ければ白。説明すると三行で終わる。終わるのに、池の前に立つと三行では足りない。

由布岳の登山道沿いには、安山岩の礫や溶岩の塊が転がる。別府の湯を温めているのと同じ火山の石だ。風呂釜の裏側を踏みながら登るようなものだ。

なぜ別府だけこれほど多くの温泉が湧くのか

大分は源泉数・湧出量ともに全国1位だが、別府市の源泉の詰まり方は別格だ。理由は地質にある。鶴見岳(標高1,375m)と伽藍岳(標高1,045m)、二つの活火山の麓。火山の熱が地下水を温める。別府湾の海底にも地熱活動があり、陸と海の両方から湯が湧く。

温泉は、雨水が地下に染み、熱で温まり、岩からミネラルを溶かして戻ってきた水だ。泉質の個性は、通ってきた岩の個性。10種類ある泉質のうち7種類が別府で確認されている。湯にも育ちが出る。

大分川の河原には、花崗岩・変成岩・砂岩の礫が集まる。大分市内から近い。地獄の派手な色を見たあとだと、灰色の礫はずいぶん地味に見える。地味な石の前でしゃがみ込むのが、石拾いという趣味の困ったところだ。

姫島(大分県沖)は、縄文時代の黒曜石の産地だ。九州の石器づくりを支えた石が、小さな島から出た。拾えるかどうかは、最後に書く。

石好き次郎
湯の花は石か。石だ、と私は答える。温泉が沈殿させた鉱物の結晶だ。風呂に溶かして使う石というのも、妙な話だが。

湯の花——温泉が作る結晶

明礬温泉の湯の花小屋は、別府でしか見られない。火山の蒸気が噴く地面に藁ぶきの小屋を建て、中に蒸気を閉じ込める。すると床に敷いた青粘土の上に、湯の花と呼ばれる結晶が育つ。小屋とまわりの景色は「別府の湯けむり・温泉地景観」として国の重要文化的景観に選ばれた。

湯の花の正体は、明礬の仲間の硫酸塩の結晶だ。蒸気の中の硫黄の成分が、青粘土のアルミニウムや鉄と結びついて、少しずつ育つ。江戸時代から薬や染め物の媒染剤に使われてきた。岩が湯に溶けて、別の鉱物になって戻ってくる。ずいぶん回り道をする石だ。

耶馬溪の奇岩や断崖は、溶結凝灰岩が節理に沿って削られてできた。火山灰が固まり、水が彫った。作者は川で、締め切りは無い。

大分の石——別府石と温泉文化

別府には「別府石」と呼ばれる安山岩の石材がある。鶴見岳・伽藍岳の火山活動で生まれた石で、街の石垣や石造物に使われてきた。明礬温泉の急な斜面にも別府石の石垣が積まれ、その上に湯の花小屋が並ぶ。湯も石も、同じ火山の持ち物だ。

臼杵の磨崖仏は、火山灰が固まった凝灰岩に彫られた。柔らかくて彫りやすい。石が言うことを聞いてくれたから、仏様が生まれた。硬い石の土地だったら、たぶんここに仏様はいない。

別府地獄の歴史——奈良時代に始まった「地獄観光」

血の池地獄は「日本最古の天然地獄」と呼ばれ、奈良時代の『豊後国風土記』に赤い湯の泉として記録が残る。1,300年前の人も、同じ場所で同じ赤を見て驚いたはずだ。こちらは驚いたあと、つい成分を考えてしまう。そこだけ昔の人より損をしている。

大分の南、佐伯市のあたりには古生代〜中生代の付加体(砂岩・チャート・泥岩)が分布する。海岸の礫浜は、四国から続く地質の延長だ。別府の派手さは無い。そのかわり、拾う石の話ができるのはこっちだ。

佐伯のあたりを流れる番匠川の河原には、付加体の礫と花崗岩・変成岩の礫が混ざる。大分の南で石を拾うなら、まずこの川の名前を覚えておけばいい。

拾う石と、見るだけの石

大分では、湯の花や硫黄のような「温泉が作る鉱物」と、九重の安山岩・デイサイトのような「火山が作る岩石」が一つの県にそろう。ただし地獄や湯の花小屋のような施設と、国立公園の特別地域では拾わない。見るだけにする。姫島の黒曜石も同じだ。拾うのは、ふつうの河原と海岸。それで十分忙しい。

地質・石特徴
温泉石灰華(トラバーチン)炭酸カルシウムが温泉水から沈殿した白色石
シリカ(珪酸)析出物白池地獄の白色・シリカ(SiO₂)が水から析出
硫黄結晶温泉蒸気から析出する黄色結晶
由布岳・鶴見岳安山岩別府温泉の熱源となる活火山の岩石
大分川流域花崗岩礫大分の基盤地質・河川採集の対象

「温泉の色は鉱物の色」と一度知ってしまうと、地獄めぐりは化学の実験場に見えてくる。風情が減ったかと聞かれたら、少し減る。そのかわり、一つの池の前にいる時間が倍になる。

石好き次郎
青粘土を敷いた小屋に温泉の蒸気を通し、60日かけて結晶を育てる。300年続く方法だ。結晶も職人も、急がない。

別府の石は、湯の中で育つ

別府ほど「石ができるところ」を目の前で見せる場所を、ほかに知らない。地獄の色は、地下の鉱物が溶け出した色見本。湯の花小屋では、温泉がいまも結晶を育てる。石を扱う身からすると、標本棚より話が早い。

赤を見たら、鉄を疑う

石を手に取ると、私はまず色から中身を当てにいく。赤なら鉄を疑う、という具合に。別府の湯には、その癖がそのまま通じる。血の池の赤は鉄、白い地獄は硫黄やシリカ。読み方が石と同じなのは、中身が石と同じだからだ。

血の池の赤は、教科書の一行が湯気を立てているようなものだ。地獄と名づけた昔の人は正しい。理屈を知っていても、あれは足が止まる色だと思う。

温泉が、今も石を作る

別府で石好きがいちばん唸るのは、明礬温泉の湯の花小屋だと思う。藁ぶきの小屋の床の粘土に、白い結晶がびっしり付く。温泉のくせに、霜の降りた畑みたいな顔をしている。

工場でも実験室でもなく、蒸気と時間だけで鉱物が育つ。ふだん出来上がった石を拾うだけの身としては、生まれるところを見せられると、少し居心地が悪い。

温泉がこんなものを作るのか。20年石を見てきても、湯の花の話には素人みたいな声が出る。江戸時代から続く仕事の前では、それくらいでちょうどいい。

地球の熱が、石を溶かし、また結晶にする

溶けた成分は、地獄では色になり、湯の花では結晶になる。温泉は地下で石を溶かし、地表で別の鉱物に作り直す。石の引っ越し屋みたいなものだ。荷物の中身まで変えてしまうところが、ふつうの引っ越し屋と違う。

大分の源泉は5,000か所を超える。鶴見岳や伽藍岳の熱、いろいろな岩、湧き出す熱水。三つがそろって、地獄の色と湯の花が生まれる。石の話をしに行ったはずが、湯の話ばかりになる。大分はそういう県だ。

よくある質問

Q. 地獄めぐりで、石好きはどこを見ればいい?
海地獄(青)・血の池地獄(赤)・白池地獄(白)の3か所だ。「鉱物の色」として並べて見ると、同じ地獄めぐりがまるで別物になる。もう1か所足すなら、明礬温泉の湯の花小屋。

Q. 子どもと楽しめる?
楽しめる。地獄めぐりで「なんでこの色なの」と聞かれたら、答えを急がないこと。一緒に首をかしげるところから、石の話は始まる。

石好き次郎から

大分の石は、半分が湯の中にある。色を見れば中身が分かる池なんて、石好きには答え付きの問題集だ。

石は拾うものだと思っていたが、湯の花を育てて採る人たちがいる。少し悔しい。

九重山の硫黄は、火山ガスが冷えた結晶。姫島の黒曜石は、流紋岩質のマグマが急に冷えたガラス。同じ県に、これだけ性格の違う石が並ぶ。湯に浸かるついでに覚えて帰るには、ちょっと多い。

石好き次郎
姫島の観音崎の黒曜石は国の天然記念物で、1個も拾えない。見るだけの石だ。拾えない石ほど、気になって仕方がない。
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湯に浸かったあとで石を拾うなら、九州の河原へ。姫島の黒曜石は見るだけだが、拾える河原は九州で不思議な石を探す旅にある。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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