岐阜県北部の地下には、日本列島で最も古い岩石が眠っている。
「飛騨変成岩(飛騨片麻岩)」——岐阜県北部・飛騨地方から富山県南部にかけて広がる変成岩類は、3億〜4億5千万年前(古生代)に形成されたとされる。さらに岐阜県七宗町(ひちそうちょう)の飛騨川沿いの地層からは、約20億年前という年代値を示す片麻岩礫が発見されている——日本最古クラスの岩石の記録だ。
なぜ岐阜の山の中に20億年前の岩石があるのか——答えは「飛騨変成岩はもともと中国大陸の一部だった」という事実にある。約2,000〜1,500万年前に日本海が開いて日本列島が大陸から分離した際、中国大陸東縁の岩盤の一部が日本列島側に残ったものが飛騨変成岩だと考えられている。中国大陸の岩石が、岐阜の山の中に今もある。

飛騨変成岩とは——縞模様の古い岩石
片麻岩(へんまがん)は変成岩の一種で、既存の岩石が高温・高圧の条件で再結晶化してできた岩石だ。特徴的な「黒白の縞状組織」——黒雲母などの黒色鉱物と石英・長石の白色鉱物が交互に縞状に並ぶ構造——が飛騨片麻岩の外観的特徴だ。飛騨帯の変成岩類は少なくとも2回以上の変成作用を受けた「複変成岩」で、3億〜4億5千万年前と2億4千万年前の2段階の変成の痕跡が記録されている。
| 飛騨変成岩の基本データ | 詳細 |
|---|---|
| 分布 | 岐阜県北部〜富山県南部・石川県・福井県・島根県隠岐 |
| 変成年代 | 3億〜4億5千万年前(古生代)と2億4千万年前の2段階 |
| 岩石の種類 | 片麻岩(主体)・花崗岩類・大理石など |
| 最古の記録 | 七宗町の礫岩中から約20億年前の片麻岩礫(日本最古クラス) |
| 成因(有力説) | 中国大陸(中朝地塊)東縁の基盤岩が日本海形成時に分離・残留 |
神岡鉱山——日本最大の鉛・亜鉛鉱山がスーパーカミオカンデになった
岐阜県飛騨市神岡町にある神岡鉱山は、日本最大の鉛・亜鉛鉱山として明治時代から昭和にかけて稼働した。飛騨変成岩類に関連した熱水性鉱床(方鉛鉱・閃亜鉛鉱・黄鉄鉱・黄銅鉱)が産出し、最盛期には年間数万トンの精錬を行っていた。
1996年に採掘が終了した後、廃坑となった地下坑道に「スーパーカミオカンデ」——世界最大級のニュートリノ検出器が設置された。深さ1,000mの地下、宇宙線を遮断する岩盤に囲まれた空間に5万トンの超純水を満たした巨大タンクが建造された。「日本最大の鉱山の坑道」が「世界最先端の素粒子物理学実験施設」になった——石(鉱物)を掘った場所が、宇宙の謎を解く場所になった。この施設でのニュートリノ研究が2002年のノーベル物理学賞(小柴昌俊)につながった。

下呂温泉——飛騨の地熱が生む日本三名泉
下呂温泉(下呂市)は「有馬・草津・下呂」の日本三名泉のひとつだ。江戸時代の儒学者・林羅山が「天下三名泉」と称したことで広まった。下呂温泉の成因は飛騨地方の火山性地熱——北アルプス・焼岳などの火山活動に伴う地熱が地下水を温め、アルカリ性の単純温泉が湧出する。飛騨変成岩・飛騨花崗岩の割れ目を通って地下深部から上昇する温水がpH9以上の美肌効果で知られる「アルカリ性温泉」を生み出している。
上高地——焼岳が100年前に作った大正池
長野・岐阜県境の上高地は、1915年の焼岳(やけだけ)噴火で流れた溶岩・火山泥流が梓川を堰き止めて大正池を形成した——100年少し前に誕生した「現役の新しい景観」だ。北アルプス・槍ヶ岳〜穂高岳の山体を構成するのも飛騨変成岩類(飛騨帯)が基盤の一部を形成しており、日本の屋根・北アルプスの岩盤の一部はこの古い変成岩だ。
よくある質問
Q. 飛騨片麻岩を見学できる場所は?
七宗町・飛騨川沿いの上麻生地区で飛騨片麻岩の露頭と、20億年前の礫岩を含む地層が見られる(「日本最古の石博物館」が七宗町にある)。高山市神岡町周辺でも飛騨変成岩の露頭が観察できる。スーパーカミオカンデは一般公開(見学会)を年数回実施しており、事前申込で坑道見学が可能だ。
Q. 岐阜で鉱物採集はできますか?
中津川市(木曽川上流)は国内屈指の鉱物産地で、87種類以上の鉱物が産出することで知られる。中津川市鉱物博物館では地域産出の鉱物標本が展示されている。蛍石・水晶・黒雲母等の標本採集体験イベントも定期開催されている(要確認)。→関連記事:東海の石採集ガイド
石好き次郎から
岐阜の地質は「日本で最も奥深い」と感じる。20億年前の大陸の岩石が川沿いに転がり、日本最大の鉱山の坑道がノーベル賞の観測所になり、焼岳が100年前に湖を作った——すべての時間軸が岐阜の石の中にある。飛騨片麻岩の黒白の縞を見るたびに「この縞の一本一本に億年単位の時間が詰まっている」と感じる。


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