黒い石に咲く白い菊——根尾谷の菊花石は、どうやってできたのか

菊花石(イメージ)

菊花石(きっかせき)は、暗い石の中に白い菊が咲いたように見える石だ。海底火山でできた石の割れ目に鉱物がしみ込み、放射状に結晶して花の形を残したと考えられている。花びらの正体は方解石などの鉱物。名高いのは岐阜県本巣市・根尾谷のもので、国の特別天然記念物でもある。花は中心から放射状に伸び、淡い紅や紫を帯びるものもある。

ただし細部の定説はまだない。生き物の化石ではない。人が彫ったのでもない。地下で、石が勝手に花の形になった。作り話のようだが、本当の話だ。

項目内容
名前菊花石(きっかせき)/英名 chrysanthemum stone
正体暗色の母岩に、菊の花のような放射状の模様が浮かぶ鑑賞石
花の正体方解石など(白・淡紅・淡紫)
母岩輝緑岩・輝緑凝灰岩など、暗緑〜黒色の石
有名な産地岐阜県本巣市・根尾谷(初鹿谷)
指定1941年 国の天然記念物→1952年 特別天然記念物。採取厳禁
成因定説なし(諸説あり)
目次

菊花石とは——黒い石に咲く白い菊

暗い母岩の中に、菊のような放射状の模様が浮かぶ。花びらは白が多く、淡い紅や紫、黄色を帯びるものもある。花の直径は1センチほどから、大きいものは20〜30センチに達する。そこまで来ると、もう菊というより花火だ。

母岩は輝緑岩や輝緑凝灰岩など、青みや緑みを帯びた黒い火山性の石。暗い地に白が散る対比で、古くから鑑賞石として大事にされてきた。同じ模様は一つもない。開き具合と色の組み合わせで、一点ごとに顔が違う。

花の正体は「石になった鉱物」

花びらは植物ではなく、方解石を主とする石灰質の鉱物が放射状に集まったものだ。中心に核があり、そこから線が走る。化石ではなく、石の中で結晶が育った模様。だから「花化石」と書くのは誤りで、正しくは「菊花石」。一字違いで、まるで別物になる。

なぜ「花」が咲くのか——成因にはいくつもの説がある

1941年に天然記念物になった頃から、成因の説はいくつも出てきた。いまも決着はしていない。

よく挙げられる筋書きはこうだ。海底火山の活動でできた石に、放射状の割れ目や隙間ができる。そこへ炭酸カルシウムを含む熱水がしみ込み、霰石(あられいし。方解石と同じ成分で、結晶の形が違う鉱物)として放射状に結晶し、形を残したまま方解石に変わる。花の形だけが、中身を入れ替えて残った。

岐阜県の説明も、おおむねこの線に沿う。ただ、なぜここまで整った花になるのかは、研究の途中だ。私はそこに惹かれる。分かりきった石より、少し口の重い石の方が、長く眺めていられる。

石好き次郎
磨かれた菊花石を初めて見たとき、黒い地に白い花が本当に咲いているように見えた。近づけば線、離れれば花。見る距離で、石が二通りに化ける。

根尾谷——世界でも稀な産地

最高とされるのが、岐阜県本巣市の根尾谷(初鹿谷)のものだ。舟伏山の北麓、美濃帯という古い地層のうち、火山性の石のごく限られた部分からしか出ない。

1941年に国の天然記念物、1952年に特別天然記念物。指定区域での採取は厳しく禁じられている。指定の文には、これほどの菊花石を含む石は中国南部のもの以外に類例がなく、世界的にも極めて稀だとある。拾えないのは惜しい。だが拾えたら、とっくに山から消えていた石だろう。

母岩は、海底火山の石

母岩は、大昔の海底火山がつくった石だ。花ばかりが話題になるが、黒い地がなければ白は咲かない。引き立て役の方も、年季では負けていない。

花のもとになった隙間は、何億年も前、海の底で溶岩が固まったときに生まれた。そこへ長い時間をかけて鉱物がしみ込み、花になった。一つの断面に、海底火山とその後の気の遠くなる時間が、まとめて閉じこめられている。

石好き次郎
菊花石は、いわば石の中の一輪挿しのようなものだ。ふつうの花は枯れるが、この石の花は、何億年も咲いたまま散らない。眺めていると、そんな見立てをしたくなる石だ。

本物と偽物——人工の花に注意

人気があって値のつく石だから、偽物も出る。母岩に人工の結晶を埋め込み、磨いて花に見せかけたものがあるという。

見分けは簡単ではない。だから石より先に、売り手を見る。どこで採れたか、どこまで加工したかを聞いて、すらすら答えが返る店で買う。「根尾谷の指定地で最近採れた」という触れ込みは、それだけで回れ右していい。正規には出回らないはずの石だからだ。

いま、菊花石を見るには

菊花石は、河原で拾う石ではない。だが、見る方法はある。

根尾には菊花石を加工・展示・販売する施設があり、磨いた花の断面を間近で見られる。鑑賞石の専門店や、鉱物・鑑賞石の展示会でも出会える。出回るのは、指定前に採られたものや、指定区域の外で採れたものだ。

岐阜は、蛍石や化石など、見て掘って楽しめる石がそろう県でもある。菊花石は眺めるだけだが、ほかの石なら手を汚せる。岐阜の石は岐阜は石の遊園地だった。蛍石・化石・宝石探しを巡るにまとめた。

石好き次郎から

菊花石は、拾えない石だ。だから私の手元にあるのは、店で見た記憶と写真だけ。石拾いのサイトで、持ってもいない石の話をこれだけ書いている。我ながら、片思いがすぎる。

それでも好きなのは、答えを全部は見せない石だからだ。たいていの石は、成因をだいたい説明できる。この石は100年見られて、まだ口を割らない。

黒い地に咲いた白い花は、写真でも何度も見返してしまう。拾えなくても、眺めるだけで元は取れる。

石好き次郎
花のようで花ではなく、石のようで石に見えない。分からないものを、分からないまま美しいと思っていい。菊花石は、そう許してくれる石だ。

公式確認先

書くときに当たったページを置いておく。菊花石の地質や文化財としての内容は、岐阜県の根尾谷の菊花石の解説や文化庁の国指定文化財データベースにある。

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眺めるだけの菊花石の県にも、掘って持ち帰れる石はある。笹洞の蛍石や瑞浪の化石は、岐阜は石の遊園地だったで。

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菊花石を含む東海の石は東海の川原で宝探し。4県で出会える石と地形に、岐阜の体験施設は岐阜は石の遊園地だった。蛍石・化石・宝石探しを巡るにまとめている。伊豆や天竜川など東海3県の川と海を巡るなら東海3県、石を探して川と海へも参考になる。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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