2020年7月2日午前2時32分、千葉県に宇宙から石が落ちてきた

2020年7月2日午前2時32分、千葉県の写真
石好き次郎
宇宙から来た石が、千葉のマンションの廊下に落ちた。こっちは河原を何年歩いても、まだ1個も会えていない。

習志野隕石は、2020年7月2日午前2時32分に千葉県習志野市のマンションへ落ちてきた石だ。中身は、太陽系ができてすぐの46億年前の材料。その夜、2階に住む人は「ガーン」という音で目を覚ました。

朝、玄関を開けると、廊下に黒い石が転がっていた。手すりにはぶつかった傷。2日後、管理人と中庭を探して2個目の破片が出た。探しに行かなくても、向こうから玄関先まで来たわけだ。

国立科学博物館が調べると、アルミニウム-26、ナトリウム-22、マンガン-54が見つかった。宇宙線が作る放射性同位体で、これが「ついこの間まで宇宙にいた」証明になる。国内で53番目に確認された隕石、「習志野隕石」の誕生だ。

目次

習志野隕石——46億年前の石がマンションの廊下に落ちた

2020年の落下——目撃者と回収の経緯

落ちる前に、空が光った。大火球が満月より明るく、西から東へ関東の上空を抜け、何度も爆発した。未明なのに、防犯カメラや観測カメラ、スマホに動画がたくさん残った。夜中の2時半に空を見ていた人が、それだけいたことになる。

習志野隕石詳細
落下日時2020年7月2日午前2時32分
落下場所千葉県習志野市(1号)・船橋市(2号・3号)
総回収重量300g余り
分類H5普通コンドライト(球粒隕石)
形成年代太陽系形成(46億年前)直後
特徴火球の軌道と隕石本体が同時に確認された非常に稀な事例
展示習志野市役所に3Dレプリカを常設展示(2023年2月〜)

見つかったのは1号(63gと70gの2片)と2号(95gと73g)、それに15gほどの3号だ。割れ口がぴたりと合い、1つの石が空中で割れたと分かった。軌道の計算では、本体はkg級だったと推定される。残りはまだ千葉のどこかにあるかもしれない。駐車場か、屋上か。そう聞くと、つい下を向いて歩きたくなる。

習志野隕石はコンドライトという種類だ。中に、コンドルールと呼ぶ直径0.1〜1mmの小さな球が散らばる。46億年前の原始太陽系の成分を、ほぼそのまま抱えた石だ。

分類はH5コンドライト。火球の映像と、複数の破片の回収がそろった。落ちるところを見られ、拾われ、名前がついた。隕石としては、かなり運のいい部類に入る。

隕石とは何か——宇宙の石の種類と分類

隕石は、宇宙を漂っていた岩や金属が、大気を突き抜けて地面まで届いたものだ。大きく分けて石質隕石、石鉄隕石、鉄隕石の3つ。いちばん多いのは石質隕石で、全体の約94%を占める。

種類割合特徴代表例
石質隕石(コンドライト)全体の約86%最も多い。コンドルールと呼ばれる球状組織を含む。太陽系形成の最古の記録習志野隕石(H5コンドライト)
石質隕石(エコンドライト)全体の約8%分化した天体(惑星や大型小惑星)由来。月・火星からの隕石も含まれる月隕石・火星隕石(SNC隕石)
鉄隕石全体の約5%主成分はニッケル・鉄。切断面にウィドマンシュテッテン構造が現れる。重いケープヨーク隕石(グリーンランド)
石鉄隕石(パラサイト)全体の約1%最も稀少。ペリドット(橄欖石)の結晶が鉄ニッケル金属に埋め込まれた美しい断面フカン隕石(中国)

見た目で惚れるならパラサイト(石鉄隕石)だ。切って磨くと、金属の網の中にオレンジや黄緑のペリドットが透けて、ステンドグラスのようになる。全隕石の約1%しかなく、良いものは1gで数千円から数万円。眺めるだけで財布が縮む。

世界でいちばん隕石が見つかる場所は南極だ。氷が流れ、青い氷の出る場所(ブルーアイス)に隕石が集まる。日本の南極観測隊が集めたコレクションは、国立極地研究所で管理・研究される。白と青の中に、黒い石が1個。拾う側から見ると、うらやましい景色だ。

珍しいところでは、火星と月から来た隕石がある。火星隕石は、火星の火山が噴き上げた岩が宇宙を経て落ちてきたもので、同位体比やガスの組成で火星生まれと確かめられた。月隕石は、小惑星の衝突で飛び出した月の岩。アポロが持ち帰った月の石と、鉱物の組成が同じだ。

石好き次郎
「隕石って拾えるんですか」と聞かれる。ほぼ無理です、と答える。日本で確認された隕石は、50個あまりしかない。

隕石の見分け方——6つのチェックポイント

見るところは6つある。黒い皮、磁石、重さ、表面のくぼみ、中の小さな球、鉄隕石なら格子の模様。全部そろって、ようやく「相談してみる価値がある」くらいだ。

いちばん目立つのは黒い皮だ。大気に突っ込む熱で表面が溶け、すぐ冷えて固まった層で、厚さは0.5〜1mmほど。落ちて間もないなら、はっきり残る。地球の岩にはない、独特のつやがある。

表面に、指で押したようなくぼみが並ぶこともある。レグマグリプトと呼ぶ、大気とこすれた跡だ。くぼみの並び方は、突っ込んだ向きの手がかりになる。粘土を親指で押したような顔の石なら、少しだけ期待していい。

次は磁石。ほとんどの隕石は金属鉄を含むので、強く引きつけられる。まったく反応しない石は、まず違う。ここは台所でもできる。

重さも効く。鉄隕石は比重7〜8。地球の岩(2.5〜3)の倍以上だから、同じ大きさの石より明らかに重い。手に乗せた瞬間に「あれ」と思うはずだ。

最後は中身。10倍のルーペで、石質ならコンドルールや金属の粒を探す。鉄隕石は、切って磨くと十字や格子の模様(ウィドマンシュテッテン構造)が出る。億年単位でゆっくり冷えた跡で、地球上では再現できない。

チェックポイント隕石の特徴注意点
①溶融皮殻(フュージョンクラスト)表面が黒く薄い光沢のある膜で覆われている。大気突入時の摩擦熱で溶けた証拠古い隕石は風化・錆で茶色になる
②磁石反応コンドライト・鉄隕石は磁石に引き付けられる(ニッケル鉄を含む)磁石に反応する地球の石(砂鉄・磁鉄鉱)との混同注意
③比重同サイズの地球の石より明らかに重い。鉄隕石は特に重い感覚的な判断なので他のチェックと併用
④レグマグリプト表面に親指で押したような窪み(レグマグリプト)がある。大気流による侵食の痕跡全ての隕石に現れるわけではない
⑤コンドルール断面に丸い粒状組織(コンドルール・直径0.1〜1mmほど)が見える。コンドライト隕石特有断面を見るために割るか研磨が必要
⑥ウィドマンシュテッテン構造鉄隕石の断面に現れる十字状・格子状のパターン。地球上の金属には絶対に現れない鉄隕石の研磨断面にのみ現れる。エッチング(酸処理)で可視化

日本で見つかった主な隕石

隕石名落下年場所重量・特徴
習志野隕石2020年千葉県習志野市・船橋市300g余り回収。H5コンドライト。国内53番目
小牧隕石2018年愛知県小牧市約650g。民家に落下
直方隕石(のおがたいんせき)861年福岡県直方市約471g。落下の記録が残る世界最古の隕石
田上隕石(たなかみいんせき)1885年(発見)滋賀県大津市(田上山)約174kg。国内最大の隕石(鉄隕石)
神戸隕石1999年兵庫県神戸市約136g。住宅地に落下

よく名前が出るのは、習志野隕石(2020・千葉)、神戸隕石(1999・兵庫)、国分寺隕石(1986・香川)あたりだ。

落ちること自体は、珍しくない。地球全体では年に約5万トンが降るとされる。ただ、ほとんどは宇宙のちりだ。拾える大きさの石も落ちてはいるが、多くは海や人のいない土地に消える。日本で落下が確かめられて回収まで行くのは、数年から十数年に1回になる。

隕石を入手する方法——購入か拾うか

【買う】
いちばん確実なのは買うことだ。東京ミネラルショーや中津川鉱物フェスタなどの鉱物ショー、専門のディーラーで手に入る。コンドライトの数gの小破片なら数千円から。パラサイトのきれいな断面は数万〜数十万円、月や火星の隕石は数百万円以上。地球の鉄鉱石やスラグも混ざるので、分類と産地の証明つきを選ぶ。

【拾う】
拾える場所は、南極の青氷帯と、アフリカやオマーンの砂漠だ。乾いた土地では黒い皮が残りやすく、砂の上で黒い石が目立つ。日本の街や山で拾える確率は、天文学的だ。ただ習志野のように、回収されていない破片がある地域なら話は少し違う。見つけたら、知らせる価値がある。

買うときに見るのは、産地名・重さ・分類・鑑定書。「〇〇砂漠産」だけでは心もとない。国際隕石学会(Meteoritical Society)のデータベースに登録された公式名、たとえば「NWA12345」のような名前がついた石が、信用できる標本として取引される。南極産のように、採取そのものが規制された産地の石もある。

買ったあとは乾燥が大事だ。石質隕石は湿気を吸うと錆びて風化が進む。シリカゲルと一緒に密閉容器に入れ、直射日光と高温多湿を避ける。46億年もった石が、日本の梅雨には負ける。

隕石の話で私がいちばん動かされるのは、コンドルールだ。46億年前の粒が、手のひらに乗る小石の中に、丸いまま残る。理屈では分かる。それでも、地球の石ばかり見てきた目には、ちょっと信じがたい。

よくある質問

Q. 習志野隕石の本物は見られる?
見られる。国立科学博物館(東京・上野)の常設展示に一部の標本があり、千葉県立中央博物館でも一部を展示する。習志野市役所にあるのは、3Dプリンターで作った精密レプリカだ。

Q. 隕石らしい石を見つけたら?
動かす前に写真を撮り、場所と日時を記録する。研究機関に現物をいきなり持ち込まず、自治体・警察・博物館(国立科学博物館や都道府県立の自然科学系博物館など)の問い合わせ先に、写真と状況を添えて相談する。たいていは地球の石だ。それでも、磁石に付いて黒いガラス状の皮をもつ石なら、聞く価値はある。

Q. 拾った隕石は、誰のもの?
落ちた場所しだいだ。土地の持ち主の許可なく持ち出すと、問題になる場合がある。国立公園や文化財の保護区域の中では、採集そのものが禁止の場合もある。それ以外なら、日本では隕石の採集や売り買いは基本的に自由だ。

隕石は、まず拾えない。でも千葉には、足元の石を探す楽しみがちゃんとある。スポットは千葉で石を探すにまとめた。

石好き次郎から

空から石が落ちてきて、朝には廊下に転がっていた。2020年7月2日の習志野の話は、何度読んでも少しうらやましい。

見分けるなら、重い、磁石に付く、表面が黒く溶けている、の3つ。1つだけなら、河原にいくらでもある。3つそろうと、急にどこにも無い。

隕石は「宇宙から来た」より「地球に落ちてきた」と考えたほうが生々しい。宇宙の石が大気を突き抜けて、誰かの家の前に落ちる。その偶然の重なりが、隕石を他の石と分ける。水晶も翡翠も、産地は地球のどこか。隕石だけ、産地の欄に書く場所がない。

日本は国土が狭く、落ちても海に沈むものが多い。だから今日も、河原で拾うのは地球の石だ。それはそれで、毎回おもしろい。

石好き次郎
私の手元にある隕石は、カンポ・デル・シエロだ。アルゼンチンに落ちた鉄の隕石で、大きさのわりにずしりと重い。それでも、空から落ちてきた石は、できれば自分で拾いたい。
石好き次郎のおすすめ
石好き次郎のおすすめ
重い、磁石に付く。その二つまでなら、浜の黒い砂でも試せる。袋に包んだ磁石を砂に差すだけの採集は、砂浜の黒い砂は磁石につく?で。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

コメント

コメントする

目次