いわき市アンモナイトセンターでは、8,900万年前の海の地層を、自分のハンマーで割って化石を探せる。化石が出た場所の上に、そのまま建物が建てられている。
ハンマーを振り下ろす。岩がパキッと割れて、断面にコイル状の模様が出る。アンモナイトだ。8,900万年ぶりに外の光を浴びた生き物を、最初に見るのが自分になる。
出やすいのは二枚貝やサメの歯で、アンモナイトはやや難しいと聞く。何が出るかは、その日の岩しだいだ。
いわき市アンモナイトセンター——8,900万年前の露頭を建物ごと保存した施設
化石の体験施設は各地にあるが、多くは産地から運んできた岩を割る。ここは、岩盤が出た産地そのものの上に建つ。
地層は双葉層群(白亜紀後期・8,900万年前)。当時ここは太平洋の一部だった。アンモナイト、二枚貝、魚、海の爬虫類まで出ていて、温かく豊かな海だったことが分かる。
開館は1992年(福島県いわき市大久町)。日本で初めて、化石の産出地に直接建物を建てた施設だ。約700m²の露頭を、まるごと建物で覆った。館内に入ると、岩盤の斜面に化石がごろごろ見える。化石を博物館に運ぶのではなく、化石の上に博物館を持ってきた。
その頃の海には、シジミや巻貝やカキがいて、アンモナイトが泳ぎ、サメが食物連鎖のてっぺんにいた。首長竜もいた。フタバスズキリュウが見つかったのも、いわき市だ。
その海底が地殻変動で持ち上がり、今は木に囲まれた山の中にある。足元の岩に海の生き物が眠る。何度考えても、少しおかしな話だ。
施設概要と基本情報
名前の似た「いわき市石炭・化石館 ほるる」(同市常磐湯本町向田3-1。フタバスズキリュウの展示や炭鉱の模擬坑道で知られる)は、別の施設だ。約30km離れていて、車で40〜50分かかる。カーナビに入れる前に、名前を二度見る。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 住所 | 福島県いわき市大久町大久字鶴房147-2 |
| 開館時間 | 9:00〜17:00(入館は16:30まで) |
| 休館日 | 毎週月曜日(祝日の場合は翌日)・1月1日 |
| 観覧のみ入館料 | 一般260円・大学/高専/高校生190円・小中学生110円 |
| 体験発掘含む入館料 | 一般730円・大学/高専/高校生560円・小中学生370円 |
| いわき市在住の小中高生 | 無料(土日のみ・証明書必要) |
中は、導入展示ゾーン、タイムスリップゾーン(現代から8,900万年前へさかのぼる演出)、約700m²の露頭観察ゾーンの3つ。入った瞬間から、本物の地層が目の前にある。

体験発掘の詳細——8,900万年前を自分で割る
最初の約30分がオリエンテーション(地層・化石・道具の使い方・安全の説明)、そのあと約60分が発掘。合わせて90分ほど。ハンマーなどの発掘用具は施設が用意する。軍手と、化石を持ち帰る袋は自分で。撮影は自由だ。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 実施日 | 原則、毎週土曜日・日曜日(年度で変わることがある) |
| 開催時間 | 午前の部:10:00〜11:30 / 午後の部:13:30〜15:00 |
| 予約 | 通常は事前予約不可・当日開始時刻前の受付のみ。GWや特別イベント等、一部の日だけ予約制になることがある |
| 貸し出し道具 | ハンマー・タガネなどの発掘用具 |
| 持参するもの | 軍手、化石を持ち帰る袋、新聞紙。必要に応じて防塵メガネ |
| 参加年齢 | 小学生以上。小学3年生以下は保護者の同伴が必要。未就学児は見学可(発掘道具の貸し出しなし) |
| 服装 | 運動靴またはゴム長靴必須。サンダル・クロックス・ハイヒール不可 |
| 中止条件 | 雨天・雷・積雪・猛暑(暑さ指数31以上)・発掘場の状態などで中止の場合あり |
公式のルールはこうだ。「発掘時に産出した化石は原則としていわき市アンモナイトセンターに帰属します。ただし通常的に発掘される、二枚貝・サメの歯・アンモナイト等のうち、担当指導員の確認、了承を得たものは記念品として差し上げます」。
出てくる化石の種類——8,900万年前の海の生き物たち
アンモナイトは、同じ産地でも形も大きさもばらばらだ。巻きのゆるいもの、きついもの。直径5mmの小さなものから30cm以上まで。5mmでも、8,900万年前の一匹に変わりはない。
この地層の名を世に広めたのは、フタバスズキリュウ(学名:Futabasaurus suzukii)だ。1968年、当時高校生の鈴木直さんが見つけた約8,500万年前の首長竜で、名前がそのまま学名になった。体験で割るのも、同じ双葉層群の地層だ。
| 公式に例示される化石 | 特徴 | 確認方法 |
|---|---|---|
| アンモナイト | 数cm〜30cm以上まで多様。コイル状の殻が特徴 | 指導員に確認・了承を得る |
| サメの歯 | 1〜3cm程度の三角形の歯 | 指導員に確認・了承を得る |
| 二枚貝 | 数cm。現代の貝と形が似ている | 指導員に確認・了承を得る |
| 首長竜・恐竜の骨 | 稀。フタバスズキリュウはいわき産 | 研究上重要な標本は施設で保存・展示 |
アンモナイトはイカやタコの遠い仲間で、約6,600万年前、恐竜と同じころに絶滅した。展示ケース越しに見るのと、自分で割った岩から出てきたのを手に乗せるのとでは、大きさの感じ方がまるで違う。白亜紀のサメの歯は、形が今のサメと近いところもある。
アクセス——いわき市大久町
車なら常磐自動車道・いわき四倉ICから約10分。国道6号の大久入口交差点からは約10分。東京からは常磐道経由で約2時間30分だ。
電車ならJR常磐線・久ノ浜駅からタクシーで約15分。歩いて行く場所ではない。帰りのタクシーまで決めてから行く。
やるかどうかは、天気と発掘場の具合で決まる。判断は午前の部が8時30分、午後の部が12時30分ごろ。遠くから行く日は、出る前に公式サイトのお知らせを見る。

体験発掘の準備——服装と持ち物
始まりはオリエンテーション。地層と化石の話のあとに、正しい割り方と注意が説明される。自己流で割らず、まずここで聞いたとおりにやる。天気によっては、説明と発掘の順番が入れ替わる。
中腰の作業で、思ったより足腰にくる。子ども連れなら、疲れる前に休む。夏は暑さ、冬は寒さの備えを。
服装と持ち物
足元は運動靴かゴム長靴(施設の決まり)。サンダルやクロックス、素肌の見える靴では参加できない。防塵メガネは施設のものを使えるが、気になるなら自分のを持っていく。
見つけた化石の扱い方
何か出たら、まず指導員に見せる。何の化石か分からなくても、その場で教えてもらえる。持ち帰りを了承されたら母岩ごとそっと持ち帰り、家で乾かしてから針で少しずつ削る。現場で無理に剥がすと割れる。
いわきで一日遊ぶなら
一日を、いわき市内で回せる。アンモナイトセンター、アクアマリンふくしま、いわき市石炭・化石館 ほるる。石と生き物と炭鉱の歴史。締めは「常磐もの」の魚介だ。
たとえば午前は、センターを見てから体験発掘の午前の部(10:00〜11:30)。昼はいわきの名産のウニやメヒカリの海鮮定食。午後はアクアマリンふくしまで、1階「海・生命の進化」ゾーンの、今も生きるシーラカンス2種の標本を見比べる。夕方はスパリゾートハワイアンズ。子どもより先に、親の足腰が終わる。
フタバスズキリュウの関連展示は、アクアマリンふくしまにもある。センターと合わせると、当時のいわきの海が立体になる。
いわき以外の全国の恐竜化石産地
化石体験は、いわきだけではない。熊本の御船町と北海道のむかわ町は、それぞれ別の理由で外せない。
熊本・御船町——日本初の肉食恐竜が見つかった町
御船町は、日本で初めて肉食恐竜の化石として知られる「ミフネリュウ」の歯が見つかった町。町に広がる御船層群(後期白亜紀)からは、その後も肉食・草食の恐竜を含む、さまざまな脊椎動物の化石が出ている。
御船町恐竜博物館は、町立の恐竜専門博物館(1998年開館)。隣の観光交流センターで事前予約制の化石発掘体験があり、採れた化石を1つ持ち帰れる。博物館の「オープンラボ」では、化石のクリーニングをガラス越しに見られる。家で針を持つ前に、一度見ておきたい手つきだ。
2026年7月の熊本の地震のあと、博物館は臨時休館し、8月21日に再開した(熊本日日新聞)。発掘体験の受付が戻ったかは、出かける前に博物館に確かめる。
北海道・むかわ町——日本最大の恐竜全身骨格が見つかった町
むかわ町穂別では2003年、化石に詳しい人が散歩の途中で尻尾の一部を偶然見つけた。そこから、全身の大半の骨格がそろった恐竜化石「カムイサウルス・ジャポニクス」(通称・むかわ竜、全長8m、約7,200万年前)が出た。国内で見つかった恐竜の全身骨格では最大だ。
むかわ町穂別博物館には、カムイサウルスのほか、日本産のクビナガリュウで2番目に全身骨格が復元された「ホベツアラキリュウ」、モササウルス類の全身復元骨格もある。展示が中心の博物館なので、発掘体験の有無は施設に直接聞く。
自分で化石を割るなら——石の見分けと道具
化石が出るのは堆積岩だけだ。海や湖の底に積もった砂や泥が固まった石——砂岩、泥岩、頁岩、石灰岩。花崗岩や玄武岩からは出ない。河原でも、この見分けだけで探す石がぐっと減る。
割り方にもコツがある。頁岩や泥岩は、層に沿って割れる。ハンマーで側面を叩き、タガネを層に差し込むと、きれいに開く。真上から叩くと、化石ごと砕ける。
化石採集の道具は、ハンマーとタガネと保護メガネ。そろえて5,000円ほど。体験発掘なら用具は施設が用意するので、買うのは自分で野外に出るようになってからでいい。
ハンマーは岩石用を。片方が平ら、もう片方が尖ったものだ。尖った側で層の隙間を探し、平らな側で叩く。
保護メガネは必ず着ける。岩を割ると破片が飛ぶ。目に入れば失明する。ここだけは、けちる理由が一つもない。
割るなら、層の細かい泥岩。粒が細かいほど、化石の細部が残る。粗い砂岩からは、いい化石は出にくい。
化石の入った石は、叩くと音が違うと言われる。ただ、耳で当てるのは名人の芸だ。凡人は、教わった割り方を丁寧に繰り返すほうが早い。
よくある質問
Q. センターの周りで、勝手に化石を拾える?
拾えない。産地の周りの無断採集は禁止で、認められているのは施設の体験発掘だ。施設を通して掘ることが、そのまま産地を残すことになる。
Q. GWや夏休みは混む?
混む。ふだんの土日も、遅く着くとその回の受付が埋まることがある。
石好き次郎から
8,900万年待った化石を、最後の一振りで砕くのは人間のほうだ。だから割り方だけは、横着しない。層に沿って、横からタガネを入れる。
いわきのセンターでは、岩盤にアンモナイトが出たまま見える。白亜紀の地層だ。割る前に、出ている姿を眺めておく。どこにどう埋まるのかが分かれば、自分の岩の見方が少しましになる。
フタバスズキリュウを見つけたのは、当時高校生の鈴木少年だった。特別な装備はなかった。ただ、いつも同じ川に化石を探しに行っていた。大きな発見は、だいたいそういう人がする。
恐竜が生きていた時代が、教科書の図から、手の中の重さに変わる。90分の体験で持ち帰るのは、案外それだ。

公式確認先
| 施設 | 確認できること | リンク |
|---|---|---|
| いわき市アンモナイトセンター | 開催日・時間・予約・用具・持ち帰り条件 | 体験発掘のご案内 |
| いわき市アンモナイトセンター | 開館時間・休館日・料金 | 利用案内 |
| いわき市公式 | 施設種別・露頭観察・体験発掘 | アンモナイトセンター |
| アクアマリンふくしま | 海・生命の進化ゾーンの展示 | 展示ガイド |

化石以外の石から産地を選ぶなら、拾いたい石から日本を歩くにまとめた。欲しい石が先にあるなら、そこから引ける。
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