広島で石を拾うなら、県が管理する川がいい。県が「少量の砂利や玉石の採取」を、川の自由な使い方の例として書いているからだ。拾えないのは宮島。島まるごと特別史跡で特別名勝だ。
そして河原で拾う石は、たいてい同じ石の親戚になる。広島花崗岩だ。日本地質学会が「県の石」に選んだ理由が、それを言い切る。「広島県内の地盤のおよそ40%は広島花崗岩からなっており、経済的恩恵にせよ、災害の要因にせよ、広島県民は広島花崗岩とともにあると言っても過言ではない」。
国会議事堂の外装になった石と、2014年と2018年に家を押し潰した土砂は、同じ石から来ている。
拾える川と、拾えない島。その線を、石の話と一緒に順に書いていく。
県の石は三つ——広島花崗岩、蝋石、アツガキ
岩石は広島花崗岩。県の南部に広がり、白亜紀の終わりごろ、8,600万年前頃に地下で固まった。西日本の花崗岩の代表格だ。
見た目の目印は、カリ長石が淡いピンク色をしていること。倉橋島のものは色が濃くて鮮やかで、国会議事堂の外装に使われた。だから「議院石」と呼ばれる。国会の壁が、瀬戸内の島の石だと思うと少し愉快だ。
ルーペで見ると、石英・カリ長石・斜長石・黒雲母の粒がはっきり見分けられる。白っぽい地に、同じくらいの大きさの粒がそろって並ぶ。そこにカリ長石がほんのりピンクに混じっていたら、広島花崗岩の顔だ。河原で一つ拾ったら、まずそこを見ればいい。
蝋石とアツガキ
鉱物は蝋石、産地は庄原市の勝光山。耐火煉瓦の原料として掘られ、いまも操業している山だ。青く細かなコランダムが混じるのが特徴とされる。ルビーやサファイアと同じ鉱物だ。宝石になる大きさではないが、名前を聞くだけで少し得をした気になる。
明治のころには石筆用に掘られていたという。昔の子どもが道路に字を書いた白い石、あれの仲間だ。そう聞くと、勝光山が急に身近になる。
化石はアツガキ。庄原市と三次市周辺の備北層群から出る、2,000万〜1,200万年ほど前の牡蠣だ。
選定理由がいい。「備北層群の各所に多産し、希に長径30cmにも達するものがある。牡蠣の養殖が盛んで、牡蠣をこよなく愛する広島県民にとって、アツガキは県の化石としてまことに相応しいものであろう」。県の化石を選ぶ理由に「牡蠣をこよなく愛する」と書く学会は、なかなか粋だ。
三つとも広島大学総合博物館で見られる。入館は無料。広島花崗岩と蝋石は理学研究科サテライト館、アツガキは本館だ。
マサ土——同じ石が、恩恵と災害の両方になる
花崗岩は、雨や風で風化すると「マサ土」という砂っぽい土になる。広島の山の土の正体はこれだ。粘り気がないので崩れやすく、大雨でがけ崩れや土石流を起こしやすい。
広島は土砂災害を重ねてきた。2014年8月20日の広島市では74人が亡くなった(災害関連死を含めると77人)。2018年7月の西日本豪雨でも、県内のあちこちで山が崩れた。
起きた場所は、広島花崗岩の分布域だった。表面が風化してマサ土になった、崩れやすい地面だ。数字を並べるのは気が重い。だが、ここを飛ばして広島の花崗岩の話はできない。
コアストンとトア——拾う石と、家を潰した石
2018年の豪雨では、山の上にトアがある地域で、トアの石柱やコアストンから来た大岩が土石流に巻き込まれ、破壊力が増した(『応用地質』の論文)。谷の出口の家は、押しつぶされるように壊れた。
コアストンは、花崗岩が節理(岩に入った規則的な割れ目)に沿って風化するときに残る、丸い硬い核だ。周りがマサ土になっても、芯だけが残る。それが山の上に露出したものがトアで、岩海の巨礫もこの仲間になる。
そして河原で私たちが拾う丸い花崗岩も、同じ成り立ちで生まれている。拾って喜ぶ石と、家を潰した石は、同じ作られ方をした石だ。

マサ土は、砂鉄の供給源でもあった
風化した花崗岩は、崩れるだけではない。鉄も出す。
広島県立歴史民俗資料館に、たたらの復元実験の展示がある。江の川の砂鉄約20kgと松の炭約60kgで、6時間余りかけて鉄が約4kg。砂の山から、手のひらに乗るくらいの塊しか取れない。
広島藩は寛永5年(1628)、砂や泥で城の堀が埋まるという理由で、太田川水域の鉄穴流し(かんなながし)をすべて禁止した(北広島町)。山を崩して砂鉄を採れば、土砂が城下まで流れてくる。400年前に、もうそれが問題になっていた。
マサ土が鉄を生み、土砂を出し、川を濁らせ、そして土石流になる。広島の石の話は、どこから入っても同じ場所に戻ってくる。
砂鉄そのものの集め方は砂浜の黒い砂は磁石につく?で、磁石一本から始められる。
広島県は「少量の砂利や玉石の採取」を自由利用と書いている
広島県土木局のページは、まずこう言い切る。「みなさんの大切な財産である河川は原則自由にご利用いただけます。」
そして、自由に使っていい例が並ぶ。「散策、釣り、水泳、ボート遊び等のレクリェーション、少量の砂利や玉石の採取、草刈、清掃活動等」。釣りや水遊びと同じ並びに、石拾いがある。
ただし「少量」が何個かは書いていない。量が増えれば、許可の話になる。ポケットに入る分だけ。そう思っておけば間違いない。
決まりの考え方の全体は拾っていい石、置いて帰る石にまとめた。広島で覚えておく決まりは、ここから宮島と渓谷の話までで全部だ。
浜は、手で数個まで
浜には、川のような一文は見当たらなかった。それでも、浜で手で数個拾って咎められることは、まずない。別なのは、次に書く宮島の浜だ。

拾えない場所——宮島と、公園と、天然記念物
宮島(厳島)は島全体が特別史跡かつ特別名勝
厳島神社にも行った。有名な観光地だから、行ったことのある人も多いと思う。だが、あの島は島ごと特別史跡で特別名勝だ。
指定の範囲は、島全部と、その周りの海面だ。島は瀬戸内海国立公園にも入り、廿日市市の案内は、許可の要る現状変更の例に「土壌・岩石の採取」を挙げる。
浜の石をポケットに入れて帰る。宮島では、それが現状変更になる。
島の花崗岩は「呉花崗岩」と呼ばれ、粗い粒の黒雲母花崗岩が島じゅうに広がる。
宮島の花崗岩と、被爆した石の話は原爆の熱が石に人間の影を焼き付けたに書いた。
渓谷は、見に行く場所
国定公園は二つ。比婆道後帝釈(帝釈峡)と西中国山地(三段峡)だ。県立自然公園も六つあり、名前を並べると、石好きが行きたくなる渓谷ばかりだ。
こうした公園の特別地域では、石を採るのに許可が要る。国や県の天然記念物(このあと書く断層・岩海・甌穴、三次の地蝋の河原)も、石は持ち帰れない。渓谷と天然記念物は見に行く場所、石を拾うのは町に近い河原。そう分けておけば、迷わない。
拾うならどの川か——上流の石で選ぶ
拾うなら、川を上流の石で選ぶ。広島の川は上流の地質がはっきりしていて、上流に何があるかが分かれば、河原で手に乗る石の見当がつく。
降り口に迷ったら、県の「水辺の楽校」を目印にする。子どもが川に入れるように整えた水辺で、県の資料には小瀬川(大竹市)、太田川(安芸太田町・廿日市市)、芦田川(府中市)、馬洗川(三次市)、江の川(安芸高田市)などが並ぶ。子ども連れなら、まずここから。
太田川の上・中流域には、白亜紀の高田流紋岩類と広島花崗岩類が広く出る。最上流と中流の本川沿いには、粘板岩などの古い泥岩も出る。白っぽい粒の石の中に黒く平たい石が混じったら、上流のどこかから来た顔だ。流紋岩は粒が見えないほど細かく、流れたような縞が入るものもある。
江の川は中国地方最大の川だ。上流は安山岩と流紋岩が多く、三次市の真ん中には備北層群、つまりアツガキの地層がある。灰色の石が多いぶん、河原の色合いも、花崗岩ばかりの南の川とは少し違うはずだ。
芦田川は、ほぼ全体が花崗岩。ピンクの長石が入った一個を探すなら、まずこの川から当たる。小瀬川は、弥栄峡より上流が白亜紀の花崗岩類、下流は玖珂層群の粘板岩が主体だ。下流の河原ほど、黒く平たい石が増える。
沼田川も主に広島花崗岩類。広島の川は、どこを選んでもたいてい花崗岩に会える。迷う楽しみは少ないが、外れもない。
花崗岩ばかりの河原で、白い石を一つずつ見ていたら日が暮れる。色の違う石だけを目で拾っていく。黒く平たい粘板岩、縞の入った流紋岩、そしてピンクがかった一個。しゃがむのは、そのどれかが見えたときだけでいい。
見に行く石——岩そのものが天然記念物の4件
国指定天然記念物のうち地質・鉱物にあたるのは4件。そのうち2件が断層なのが広島らしい。
船佐・山内逆断層帯は、三次市・庄原市・安芸高田市にまたがる。古い花崗岩が、ずっと新しい備北層群の上に乗り上げている。年上が年下の上に座った格好だ。
押ケ垰(おしがたお)断層帯は安芸太田町と廿日市市吉和。太田川の上流の2キロほどの間に、断層でできた丘(ケルンバット)が4つ、一列に並ぶ。国内ではほとんど例がないとされる並び方だ。
久井・矢野の岩海は三原市久井町と府中市上下町。直径1〜8メートルの巨岩が、谷に沿って帯のように積み重なる。拾うどころか、石の上を歩く場所だ。
巨礫は、節理に沿って風化した岩の芯が、その場に残ったものに近い。つまりコアストンが谷に集まったものだ。矢野の岩海は、府中市が常時公開としている。河原の丸い石の、親玉たちの集会所と思えばいい。
雄橋(おんばし)は庄原市東城町の帝釈峡にある。石灰岩の天然橋で、鍾乳洞の一部が残ったものと考えられている。
県指定にも、見どころが多い
大竹市の栗谷の蛇喰磐は、小瀬川の渦が花崗岩の川底をえぐった甌穴の群れ。福山市山野町の矢川のクリッペは、断層で押し出された石灰岩の塊が取り残された「根無し地塊」だ。
三次市には、県指定の地質の天然記念物が6件集まる。備北層群という新第三紀の地層と、その上に乗り上げた古い岩体が、同じ地域に顔を出すからだ。町ごと、地層の教科書のような所だ。
三次の地蝋——日本で最初に見つかった天然のロウ
三次の地蝋は、馬洗川の神和橋から下流250メートルの来原河原で見つかった。日本で最初に見つかった天然のロウだ。
外国の地蝋は、第三紀以前の古い地層から出る。三次のものは約4万年前の地層から出た。ずいぶん若い産地だ。
石の記事で「蝋」が出てくるのは珍しい。地蝋はオゾケライトとも呼ばれ、石油に関わる炭化水素の鉱物だ。石のくせに、ろうそくの側の顔をしている。

三段峡は、花崗岩だけではない
よく「三段峡は花崗岩が削られてできた渓谷」と書かれる。間違いではない。ただ、それだけでもない。
三段峡の岩石は「石英斑岩、花崗斑岩から構成」。花崗岩だけで説明すると、半分しか言っていない。
北広島町と安芸太田町にまたがる峡谷で、拾う側の話は無い。そのかわり、岩の色の違いを見分けるだけで、十分に忙しい。
帝釈峡——石灰岩に、古生代の化石が入る
庄原市東城町と神石高原町にまたがる帝釈峡は、石灰岩の谷だ。
石好きに効くのはここだ。帝釈峡の石灰岩には紡錘虫・サンゴ・ウミユリの化石が入っていて、断魚渓のあたりではサンゴの化石がはっきり見える。持ち帰れない場所だから、ルーペを持っていく。
地層でいうと、石炭紀の帝釈川層群とペルム紀の宇山層群。秋吉台と同じ秋吉帯の石灰岩だ。
白雲洞は大人400円。奥行きは200メートル、洞内は11度で、夏でも上着が欲しくなる。出土品は帝釈峡博物展示施設 時悠館で見られ、中学生以下は無料だ。
見に行く前に——料金とルール
| 場所 | 見られるもの | 料金など | 石の持ち帰り |
|---|---|---|---|
| 広島県管理の河川(降り口の目印は「水辺の楽校」) | 広島花崗岩・流紋岩・粘板岩の礫 | — | ○(県が「少量の砂利や玉石の採取」を自由な使い方の例に挙げる) |
| 広島大学総合博物館(東広島市) | 県の石3種すべて | 入館無料/水〜土10:00-17:00/臨時休館あり | ×(展示) |
| 広島県立歴史民俗資料館(三次市) | たたら・砂鉄・製鉄復元実験の展示 | 一般220円・高校生以下無料/月曜休 | ×(展示) |
| 久井・矢野の岩海(三原市・府中市) | 花崗岩(久井は花崗閃緑岩)の巨礫原 | 常時公開(府中市) | ×(国天然記念物) |
| 帝釈峡(庄原市・神石高原町) | 石灰岩・紡錘虫やサンゴの化石 | 白雲洞 大人400円・小中高生200円/時悠館 一般410円・中学生以下無料 | ×(国名勝・国定公園) |
| 三段峡(安芸太田町・北広島町) | 石英斑岩・花崗斑岩の峡谷 | 駐車 正面口500円/500台・水梨500円/200台 | ×(特別名勝・国定公園) |
| 宮島(廿日市市) | 呉花崗岩・弥山の巨石群 | — | ×(島と周りの海面が特別史跡・特別名勝) |
表のいちばん上が拾える側で、残りは見に行く側だ。広島は、見に行く側のほうがずっと長い。それでいい。岩海の上を歩く日と、河原でしゃがむ日を、分けて組めばいい。
広島の石探しでよくある質問
Q. 拾った花崗岩が、手の中でぽろぽろ崩れるのはなぜ? A. 風化して、マサ土になりかけているからだ。持ち帰るなら、爪で押しても欠けない、締まった一個にする。
Q. 持ち物は? A. 河原は足元が滑るので、靴だけは選ぶ。準備の順番は石拾いに行く前に、道具は石拾いが変わる道具たちで足りる。ほかの県は都道府県から探すから選べる。
石好き次郎から
広島はあちこち回った。観光で歩いたあの道の下も、かなりの部分が一つの石だったことになる。そう思うと、いまさら足の裏がくすぐったい。
日本地質学会の「経済的恩恵にせよ、災害の要因にせよ」は、選定理由としてはずいぶん踏み込んだ一文だ。きれいな話だけで済ませなかったところが、私は好きだ。
次に広島へ行くなら、厳島神社より先に、どこかの河原に降りてみたい。ピンクの長石が入った丸い一個を探す。見つかったら、国会議事堂の親戚だと言い張る。
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公式確認先
行き方や料金のもとにしたページを、話の筋ごとに分けて置いておく。変わっていたら、こちらが正しい。
拾える川と決まり
- 広島県 土木局:河川の利用について(少量の砂利や玉石の採取)
- 廿日市市:宮島(厳島)で土木・建築工事などを行うには
- 広島県:自然公園等での行為規制及び許可申請
- 広島県:水辺の楽校プロジェクト(県内の実績)PDF
県の石と地質
見に行く場所
天然記念物
災害と砂鉄
最終公式確認:2026年9月24日



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