草津温泉の色は全部鉱物が決めている——群馬の石と火山、地球が今も石を作り続ける場所

群馬の石と地質——産地の歴史写真

草津温泉のお湯はpH2——レモン汁(pH2〜3)とほぼ同じ酸性だ。

群馬県草津町・草津温泉は「日本三名泉」「日本三大薬湯」に数えられる日本随一の温泉地で、自然湧出量は毎分32,300L以上と日本最大を誇る。その酸性の強さは「1円玉が約1週間で溶ける・鉄釘が9日でボロボロになる」ほどで、pH2のお湯に体を浸けると「肌がピリピリする」感覚は文字通り「酸が皮膚の古い角質を溶かす」作用だ。

この強烈な酸性温泉を生んでいるのが、草津白根山(活火山)から地下を通じて湧き出す硫黄成分だ。そしてこの酸性のお湯が下流に流れる「死の川問題」を解決するため、世界初の「酸性河川中和工場」が群馬に誕生した——年間2万トンの石灰石を使い続ける、石(石灰石)が川を救うプロジェクトだ。

石好き次郎
草津の湯畑に手を入れたとき——pH2のお湯がピリピリと皮膚に刺さる感覚がリアルだった。「この酸性は火山の硫黄から来ている」——温泉の酸は地下の岩石と火山ガスの産物だ。石が作った酸が、千年以上人間の病を癒してきた。
目次

湯の花——硫黄が空気に触れて生まれる白い結晶

草津温泉の名物みやげ「湯の花(ゆのはな)」——湯畑の木製の湯樋(ゆとい)に付着する白〜黄色の粉末だ。年4回採取され、天然の入浴剤として販売される。湯の花の正体は「硫黄(S)とその化合物」——温泉水に溶けていた硫化水素(H₂S)が空気中の酸素と反応して単体硫黄が析出し、他の硫酸塩鉱物と混合した沈殿物だ。

「湯の花」は「花」という名前だが植物ではなく、硫黄を主成分とする鉱物だ——温泉化学の観点では「温泉水が冷却・酸化される際に析出する鉱物沈殿物」。石好きの視点では「温泉が作る自然の硫黄結晶」だ。

「死の川」を石灰石で救う——世界初の中和事業

pH2の草津温泉のお湯がそのまま下流の吾妻川・湯川に流れ込むと——魚が住めない・コンクリートや鉄の橋が作れない・農業用水として使えない「死の川」になる。1964年まで、草津から流れる川は文字通り「死の川」だった。

草津の中和事業(世界初)詳細
開始年1964年(昭和39年)——世界初の酸性河川中和工場
中和材料石灰石粉(炭酸カルシウム:CaCO₃)——粒径75マイクロメートルに粉砕
年間使用量石灰石約2万トン(1日約55トン)
中和の仕組みCaCO₃(石灰)+ H₂SO₄(硫酸)→ CaSO₄(石膏)+ H₂O + CO₂
現在の状況24時間365日休まず稼働中。品木ダムに中和生成物が沈殿

「石(石灰石)で川を中和する」——化学的には酸塩基中和反応だが、実際には1日55トンの石粉を川に投入し続ける大規模な石の化学工場だ。中和の産物(主に石膏・CaSO₄)は品木ダムに沈殿している——2017年時点でダム容量の87%が沈殿物で埋まっており、今もダムの浚渫(しゅんせつ)が課題だ。「石灰石が川を救い、中和の産物がダムを埋める」という石の連鎖が続いている。

石好き次郎
「年間2万トンの石灰石を川に入れて中和している」と聞いたとき——あの草津温泉の景観の裏で、今日も24時間石灰石が川に投入されていることが衝撃だった。温泉を楽しんでいる間も、川の下では酸と石が戦っている。石が火山の酸に立ち向かっている。

浅間山——群馬の火山岩

群馬・長野の県境にある浅間山(標高2,568m)は現在も噴煙を上げる活火山だ。安山岩質の成層火山で、1783年の大噴火は周辺に壊滅的被害をもたらし、群馬県嬬恋村の鎌原村が火砕流・泥流に埋没(死者多数)した——「天明の大噴火」と呼ばれる江戸時代最大の火山災害だ。浅間山の安山岩溶岩は上信越高原の地質の骨格を作っており、那須火山帯の最南部に位置する。

よくある質問

Q. 草津温泉の「湯もみ」はなぜするのですか?
草津温泉のお湯は源泉の温度が50〜95℃と高温のため、水で薄めず入浴できる温度に下げるために木の板でかき混ぜる「湯もみ」が行われてきた。「草津節」を歌いながら行う湯もみはパフォーマンスとして現在も熱の湯で見学・体験できる。水で薄めないため、源泉そのものの強酸性・硫黄成分の効能が保たれる。

Q. 草津の中和工場は見学できますか?
草津中和工場(群馬県吾妻郡草津町)は事前申請で見学が可能だ。国土交通省関東地方整備局が管理する施設で、世界初の酸性河川中和事業の現場を直接見学できる。品木ダム(中和生成物の沈殿場所)も見学可能。草津温泉街から車で約15分。

石好き次郎から

草津温泉は「石灰石(塩基性)と硫酸(酸性)が戦っている現場」だ——火山が生んだ酸性温泉に、石灰岩という石が年2万トン投入されて川を中和する。湯の花という硫黄の結晶が採取され、品木ダムには石膏の沈殿物が積み上がる。「石と火山の化学反応」が今日も草津の地下と川で続いている——温泉に浸かりながら、地球規模の酸塩基反応の真っ只中にいる。

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石好き次郎

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