真珠の種類と価格——アコヤ・南洋・タヒチ・淡水珠の違いと選び方

真珠の科学と謎——鉱物写真
石好き次郎
真珠は、石ではない。貝が異物を包み込んだものだ。0.5ミクロンの炭酸カルシウムの層が何千枚も重なって、あの光になる。拾う側としては、少し悔しい。

1万円の真珠と100万円の真珠の差は、貝の種類・産地・巻きの厚さ・テリの4つでほぼ説明がつく。「真珠」という名前は一つでも、アコヤ、南洋、黒蝶、淡水と、作る貝からして別物だ。値札だけ並べると、同じ棚の仲間に見える。そこが真珠のややこしいところだ。

目次

4種類の養殖真珠

どれを選ぶかは、使う場面で決まる。式典ならテリの強いアコヤ。普段づかいなら淡水。一粒で存在感を出したいなら南洋。人とかぶりたくないなら黒蝶。予算より先に場面を決めると、迷いがだいぶ減る。

産地名は、そのまま貝と色の名前だ。「オーストラリア産南洋真珠」はブルーム・ダーウィン沖のシロチョウガイで、白〜シルバー。「タヒチアン」はフランス領ポリネシア・クック諸島のクロチョウガイで、黒〜グリーン。「ゴールデンサウスシー」はフィリピン・インドネシアの金系。産地を聞けば、色はだいたい当たる。

養殖真珠は日本で始まった。1893年、御木本幸吉が三重県の鳥羽で世界初の真珠養殖に成功した。それまで真珠は、海女が潜って偶然に出会うしかない宝石だった。偶然を、仕事に変えた人がいる。

種類貝産地サイズ価格帯
アコヤ アコヤガイ 日本(三重・愛媛・長崎)・中国 6〜10mm 5万〜500万円超
南洋(ホワイト) シロチョウガイ オーストラリア・インドネシア・フィリピン 10〜20mm 30万〜5,000万円
黒蝶(タヒチアン) クロチョウガイ フランス領ポリネシア・クック諸島 8〜15mm 15万〜3,000万円
淡水 イケチョウガイ等 中国(9割以上)・日本・米国 2〜12mm 100円〜50万円

アコヤ真珠は真珠の元祖だ。白にピンクやグリーンがうっすら乗り、「テリ」と呼ばれる鏡のような光沢がとにかく強い。巻きは薄め(良質で0.4mm超)。大きさでは勝てないが、光らせたら負けない。

南洋真珠(ホワイト)は大きさで勝負する。シロチョウガイは最大30cmに育つ世界最大の真珠貝で、10〜20mmの珠を作る。品質で名高いのはオーストラリア・ブルーム近海。アコヤと並べると、親子にしか見えない。

黒蝶真珠(タヒチアン)は、ただ黒いだけではない。真珠層の色素で、黒の中にいくつもの色が出る。いちばん評価が高いのは、緑と紫が混じる「ピーコックグリーン」。黒と呼ぶには、色が多すぎる。

淡水真珠は1枚の貝から20〜40粒が同時に採れる。中国が世界の9割以上を占める。安いが質は低い、というのは昔の話で、2010年代以降は「エジソンパール」など大粒で光沢の強いものが出てきた。12mmを超えると、見た目では南洋と区別しにくいものもある。値札より先に、産地表示を見る。

「巻き(真珠層)」——真珠の寿命を決める

巻きの厚さは、養殖期間でほぼ決まる。アコヤは1〜2年ほど。南洋・黒蝶は2〜4年で、そのぶん真珠層は2mm以上になる。長く育てるほど貝は弱り、途中で死ぬものも出る。だから厚巻きの大粒は数が少ない。時間がかかるから珍しく、珍しいから高い。

核は、ほぼすべて二枚貝の貝殻を削った球だ。真珠層と同じ炭酸カルシウムなので、なじんで剥がれにくい。プラスチックの核も試されたが、貝が受けつけず、いまはほとんど使われない。素材には、貝のほうがうるさい。

淡水真珠の一部は、核を入れずに小さな組織片だけで育てる。これが無核真珠で、中身は丸ごと真珠層だ。芯まで真珠、というのは、考えてみるとずいぶん贅沢な話だ。

作り方は3段階。貝の体内に直径6〜8mmの核を入れる。貝が異物を嫌って、炭酸カルシウムとコンキオリンを層にして巻きつける。時間がたったら取り出す。貝にとっては迷惑な話で、その迷惑の厚みが「巻き」になる。

巻きの厚さは、そのまま寿命になる。0.2〜0.3mmの薄巻きは、10〜20年で真珠層が剥がれて核が見えてくる。0.4mm以上あれば何十年ももち、祖母から孫へ渡せる。南洋や黒蝶は2mm以上で、100年もつものもある。

石好き次郎
汗をつけたまま十年しまえば、アコヤの表面は曇る。真珠は酸に弱い。人の汗でも溶ける。曇りは、もう戻らない。

「テリ」と「マキ」——値段の大半はここで決まる

日本の真珠業界には「テリ」と「マキ」という独自の物差しがある。テリは表面の光沢で、鏡のように光を返すかどうか。マキは真珠層の厚さと質で、厚くても質が悪ければ「マキが悪い」と言う。この二つで、同じアコヤでも「AAA〜D」の格付けが決まる。

値段が100倍開く理由の大半は、目に見えにくいこの二つにある。ただ、テリの差は並べると誰でも分かる。花珠クラス(最上級)とB品クラスのアコヤを、自然光の下で隣に置く。説明はいらない。片方だけ、光がこちらを見返してくる。

テリの見方は簡単だ。蛍光灯を真珠に映してみる。テリの良い珠には、光の球がくっきり映る。ぼんやり広がったら、テリが弱い。家の蛍光灯がいちばん役に立つのは、たぶんこの時だ。

テリには、見る角度もからむ。丸い珠でも、いちばんきれいに光る向きがある。ネックレスの珠を全部同じ向きにそろえるのは、実は難しい。「本連」が高いのは、その手間の値段でもある。

困るのは、格付けが業者ごとに違うことだ。「花珠」の言葉は同じでも、基準まで同じとは限らない。花珠の証明書は、まず発行元を見る。GIA・中央宝石研究所など、名の通った鑑別機関のものを選ぶ。言葉は誰でも使える。証明は、そうはいかない。

真珠の「本物」判定法

いちばん確かなのは、鑑別機関に任せることだ。中央宝石研究所(東京)やAGTジェムラボラトリー(東京)では、天然か養殖か、産地、サイズや品質まで調べる。素性の分からない高い珠は、持っていて落ち着かない。

偽物にもいろいろある。ガラスに真珠塗料を塗ったもの、プラスチック、本物の真珠層の粉をガラスや樹脂に塗ったコーティング。最後のものは、慣れないと見分けにくい。確実なのは、やはり鑑別だ。

自宅でできる4つの判定方法

紙の世界でさえ、GIA鑑定書の偽造事件が実際に起きている。珠の世界に偽物が多くても驚かない。家でできる見分け方は、次の4つ。

① 歯テスト:前歯の先で軽く滑らせると、本物はザラッとする(真珠層の結晶の凹凸)。ガラスやプラスチックはツルツル。ただし真珠層の粉を塗った偽物も少しザラつく。真珠層を傷めるので、高い珠では歯を使わず、ルーペで見る。

② 重さテスト:本物の真珠はプラスチックより重い(比重2.65〜2.73)。

③ 温度テスト:本物は触るとひんやりする(熱伝導性が高いため)。

④ ルーペ観察:真珠層の表面には干渉縞(うねり)が見える。プラスチック偽物はツルツルな均一面。

酢に溶けた真珠、34kgの真珠

真珠の話でいちばん派手なのは、クレオパトラの賭けだ。伝説では、マルクス・アントニウスと「世界一贅沢な晩餐」を賭け、大粒の天然真珠2粒のうち1粒を酢に溶かして飲んだとされる。真珠が酸に溶けるのは、ずいぶん昔から知られていたことになる。晩餐としては、たぶん酸っぱい。

御木本が養殖に挑んだ背景には、天然真珠の枯渇があった。19世紀に需要が膨らみ、ペルシャ湾や日本近海の天然真珠は乱獲で激減した。足りなくなって、はじめて育てる人が出てくる。石の世界でも、よく見る順番だ。

史上最大とされる天然真珠「プエルト・プリンセサの真珠」は2016年にフィリピンで公表され、重さは34kg。身につける宝飾品ではない。首にかけたら、首のほうが負ける。

天然真珠は、いまはほとんど採れない。市場に出れば、養殖とは比べものにならない値がつくことがある。2023年にモザンビーク産のルビーが1個約50億円で落札された話と同じで、めったに出ないものの値段は、出るたびに塗り替わる。

カシミールサファイアが1カラット数千万円の値をつけるのも同じ理屈だ。偶然にできた、という一点で、値段の桁が変わる。

石好き次郎
天然か養殖かは、ルーペで眺めても私には分からない。分かるのは鑑別の機械だ。違いは、核を入れたのが人か、海の偶然か。その一点に、値札は何十倍も払う。

真珠は「生き物が作る有機宝石」

硬さはモース2.5〜4.5。砂ぼこりの石英(7)でも傷がつく。ダイヤやサファイア、ルビーと同じ袋に入れたら、傷をつけるのは隣の石だ。真珠は、しまう相手を選ぶ。

汗や化粧品で傷むのは、成分が炭酸カルシウムだからだ。酸に溶ける。着けたあとは無漂白の柔らかい布で拭き、直射日光・乾燥・高温を避けてしまう。手入れは、ほぼそれに尽きる。拭かずにしまった珠が十年後どうなるかは、上の吹き出しのとおりだ。

鉱物学で言えば、真珠は鉱物ではない。貝が分泌した炭酸カルシウムとタンパク質(コンキオリン)の積み重ねで、「有機宝石」と呼ばれる。琥珀・珊瑚・ジェット(黒玉)の仲間だ。石の棚に並べると、少し居心地が悪そうに見える。

もうひとつ忘れられるのが糸だ。ネックレスは絹糸でつながれ、汗と水と引っぱりで弱る。5〜10年ごとの糸替え(リストリング)が目安。珠より先に、糸が寿命を迎える。汗や乾燥から守る手入れは、買った天然石のお手入れガイドに真珠の欄がある。

価格が100倍違う理由と、贈り物の選び方

贈り物なら、成人式・卒業式・結婚祝いは「7〜8mm・花珠・ネックレス40〜45cm」が昔からの定番で、予算は10〜30万円が目安。母の日や記念日なら、南洋の一粒ペンダント(10mm以上)が目を引く。迷ったら、着けていく場所を思い浮かべる。

予算の中で選べるのは、貝と産地だ。同じお金なら、アコヤの7mmより淡水の高品質10mmのほうが大きく見えることがある。大きさを取るか、名前を取るか。そこは持ち主が決めればいい。

値段は需給でも動く。アコヤの産地(三重・愛媛など)では、赤潮、海水温の上昇、後継者不足で、2010年代に養殖量が減った。8mmを超える大粒の良品は、年々見つけにくい。作る人が減れば、良い珠も減る。

要素影響度
貝の種類(アコヤ vs 淡水) 10〜50倍
産地(オーストラリア vs 中国) 2〜5倍
サイズ(8mm vs 18mm) 3〜20倍
巻きの厚さ(0.3mm vs 1.5mm) 2〜10倍
テリのグレード(AAA vs D) 3〜10倍

真珠の中に鉱物の結晶があると知ったとき、宝石の範囲が一つ広がった。貝が体の中でアラゴナイトの結晶を並べ、真珠を作る。生き物が鉱物を作る。石ばかり見てきた人間には、なかなかの不意打ちだった。

石好き次郎から

河原の石は、拾った時点でもう出来上がりだ。真珠は、貝が何年もかけて仕上げたものを、人が取り出す。同じ炭酸カルシウムでも、河原の石灰岩とはずいぶん育ちが違う。石ころが相手の身には、どうも勝手が違う。

養殖真珠は、貝に核を入れて作る。核はミシシッピ川の淡水貝の殻を削ったものだ。アメリカの川の貝殻が、海の貝の中で1年から数年包まれる。真珠は、できあがる前から遠くから来ている。

石好き次郎
真珠1粒の裏には、貝一匹の数年がある。それを知ってから、真珠を雑に扱えなくなった。私が拾う石には、そういう重さはない。河原の石は、誰にも育ててもらわずに、勝手に出来上がる。
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真珠を手元に置いたら、次は手入れだ。買った天然石のお手入れに、汗と酸に弱い真珠の扱いも入れてある。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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