
ガーネットは赤い石ではない。赤も緑もオレンジも、光で色が変わる青みの石まで含んだ、グループの名前だ。それでもガーネットと聞けば、たいていの人は暗い赤を思い浮かべる。私も長いこと、そっち側の人間だった。
化学組成の近い鉱物がいくつも、まとめてガーネットと呼ばれる。色は赤・オレンジ・黄・緑・紫・青・黒・無色まで、ほぼ何でもある。
宝石にもなるし、河原の採集標本にもなる。値段も見た目も、幅が広い。私の好きな鉱物群の一つで、好きな理由はたぶん、この節操のなさだ。
主なメンバーは6種。パイロープ(赤)、アルマンダイン(赤褐)、スペサルティン(橙)、グロッシュラー(無〜緑)、アンドラダイト(黄〜緑)、ウバロバイト(緑)。同じ家族なのに、生まれる場所も色もばらばらだ。
極めつけが、1998年にマダガスカルで見つかった「青いガーネット」だ。日光の下で青緑、白熱灯の下で赤紫に変わる。この記事は、赤い石の話から入って、赤くない石の話で終わる。
ガーネットとは何か——「まじりもの」の鉱物群
ガーネットは、まじりものの鉱物だ。純粋な一種類だけで出ることは稀で、いつも複数の端成分が混ざった固溶体(solid solution)として出てくる。分析の結果も「どの成分が何割」という書き方になる。名札一枚で呼ぶには、中身が多すぎる石だ。
主な顔ぶれを式で並べるとこうなる。パイロープ(Mg₃Al₂Si₃O₁₂、血赤・暗赤、ボヘミア・チェコ)、アルマンダイン(Fe₃Al₂Si₃O₁₂、赤紫・暗赤、世界各地)、スペサルティン(Mn₃Al₂Si₃O₁₂、オレンジ〜赤橙、ナミビア・ブラジル)、グロッシュラー(Ca₃Al₂Si₃O₁₂、無色〜緑・黄・橙、ケニア・タンザニア)。
アンドラダイト(Ca₃Fe₂Si₃O₁₂、黄・緑・黒、ロシア・ナミビア)、ウバロバイト(Ca₃Cr₂Si₃O₁₂、翠緑、ロシア・カナダ)。式を見比べると、入れ替わるのは金属の一か所か二か所だけ。それだけで、赤が緑になる。
ウバロバイトは、エメラルド色のガーネットだ。クロムを含む超塩基性岩(ペリドタイト・蛇紋岩)に出る。ほとんどが1mm以下の粒で、宝石品質のカット石は極めて稀だ。ルーペで眺めて楽しむ宝石、と思ったほうがいい。
「デマントイド」——ダイヤより虹を出す、緑のガーネット
デマントイド(Demantoid)。アンドラダイト・ガーネットの、鮮やかな緑の変種だ。宝石好きの間では「いちばん過小評価されている宝石」と呼ばれることもある。
19世紀の半ば、ロシア・ウラル山脈で見つかった。名前はドイツ語の古い言い方「Demant」(ダイヤモンド)から。ダイヤのように光るから、そのまま付けた。名付けた人は、あまり悩まなかったと思う。
驚くのはここからだ。デマントイドの分散(ディスパージョン)は、ダイヤモンドを超える。
分散とは、白い光を虹色に分ける力のこと。宝石が見せる「ファイア(fire)」の正体だ。数字で並べると、こうなる。
| 宝石 | ディスパージョン値 |
|---|---|
| アンドラダイト(デマントイド) | 0.057 |
| ダイヤモンド | 0.044 |
| アレキサンドライト | 0.015 |
| サファイア | 0.018 |
デマントイドの火は、言葉にしにくい。小さな緑の石が、傾けるたびに七色に砕けた光を出す。写真で見て分かった気になるのが、いちばんもったいない石だ。
デマントイドの火を見たければ、明かりを選ぶ。蛍光灯より、白熱灯やろうそく、直射日光。家で眺めるなら、窓辺に持っていくのがいちばん手っ取り早い。
「馬の尾のインクルージョン」——キズのはずが、身分証になる
デマントイドでいちばん特別なのは、「馬の尾(horsetail)インクルージョン」だ。石の中に、金色の波打つ繊維が放射状に広がる。正体はクリソタイル(石綿の一種)の結晶で、見た目が馬の尾に似る。
ふつう、内包物は値を下げる。ところがデマントイドでは、馬の尾はロシア産らしさの目印になり、コレクターが欲しがる。キズのはずのものが、身分証になる。石の世界は、ときどきこういう逆立ちをする。
ロシア皇帝のイースター・エッグで知られるカール・ファベルジェは、デマントイドを特別に好み、帝国の宝飾品によく使った。採掘は1917年のロシア革命の後に止まり、のちに再開されて、今も断続的に掘られる。
「ツァボライト」——ティファニーが世界に売り出した緑
ツァボライト(Tsavorite)は、グロッシュラー・ガーネットの鮮やかな緑の変種だ。1967年に宝石学者キャンベル・ブリッジスがケニア・タンザニア国境付近で見つけ、ティファニー社と組んで世界に売り出した。名前はケニアのツァボ国立公園から来ている。
ティファニーの売り文句は「エメラルドより透明で、内包物の少ない緑」。これは本当で、エメラルドは内包物の多い石だが、ツァボライトは目で見て何も入っていないものも多い。発色はクロムとバナジウム。大粒になるほど、1カラットあたりの値も跳ね上がる。
「青いガーネット」——1998年に発見された色
「ガーネットに青は無い」。1998年までは、これが宝石学の常識だった。
ところが1998年、マダガスカル南部のベキリー(Bekily)地区で、バナジウム(V₂O₃ 約1 wt%)を含むパイロープ-スペサルティン固溶体のガーネットが見つかった。報告が出たのは翌1999年の冬、GIAの専門誌『Gems & Gemology』だ。売り買いできる青いガーネットとしては、これが最初になった。
昼の光で青緑、白熱灯で赤紫。アレキサンドライトと同じ色替わりで、発色はバナジウム(一部クロムも関与)による。ベキリーの商業採掘は1999年ごろにはほぼ止まり、タンザニアのウンバ川渓谷からも、青みを帯びた色変わりガーネットが出ている。
値段を決めるのは、変わり方の鮮やかさだ。日の光と白熱灯で色の差が大きいほど評価が高く、青緑と赤紫がくっきり入れ替わる石は数十万円に達することもある。窓辺と電気スタンドの間を、石を持って行ったり来たりする人の気持ちはよく分かる。
「マンダリン・ガーネット」——ナミビアが産する太陽の色
マンダリン・ガーネットは、スペサルティン・ガーネットの鮮やかなオレンジの変種だ。1991年にナミビアで見つかり、名前はマンダリン・オレンジの色から取られた。ビタミンCのような鮮烈な橙で、「太陽を凝縮したような色」と呼ばれる。
ガーネットは「1月の誕生石の赤い石」で片づけられがちだ。でも、青に変わるガーネットも、ダイヤより虹を出すガーネットもある。知ったつもりの人ほど、まだ会っていないガーネットが多い。
値段の幅も広い。ふつうのアルマンダインの粒は数百円から、最高品質のデマントイドは数十万円まで。同じ名前で、ここまで開く石も珍しい。
| 種類 | 色 | 主な産地 |
|---|---|---|
| デマントイド(アンドラダイト) | 黄緑〜緑・最高の火 | ロシア(ウラル)・ナミビア |
| ツァボライト(グロッシュラー) | 鮮やかな緑 | ケニア・タンザニア |
| マンダリン(スペサルティン) | 橙〜橙赤 | ナミビア・ブラジル |
| カラーチェンジ | 青緑↔赤紫 | マダガスカル・タンザニア |
| ウバロバイト | エメラルドグリーン | ロシア・フィンランド・カナダ |

ガーネットは、名前だけでは買えない石
ガーネットは「赤くて安い石」で語られがちだが、色も値段も驚くほど幅がある。緑のデマントイド、青みに変わる石、太陽色のマンダリン。石の取引を長く見てきた身からすると、名前だけで判断してはいけない石の筆頭だ。
ガーネットは「拾える宝石」——だから石好きの入口になる
ガーネットのいいところは、日本の川や砂でも拾えることだ。宝石になる質のものは限られるが、赤い粒なら自分の手で見つけられる。緑や青には手が届かなくても、入口は誰にでも開いている。河原の赤い一粒と宝石店の緑の一粒が、同じ家族。そこが楽しい。
たとえば猪名川のアルマンダイン、北海道のパイロープを含む変成岩、各地のスカルン鉱床のグロッシュラー。拾えるのはたいてい赤や褐色の粒で、緑の火を吹く石は河原には落ちていない。そこは割り切って拾う。
同じガーネットでも価値は色と種で桁が変わる
デマントイドの火、ツァボライトの澄んだ緑、青みに変わる希少種。同じガーネットでも、赤い一般種とは別世界の値がつく。買うときは「ガーネット」で見ず、どの種か、産地はどこか、内包物はどうかまで確かめる。名前で買う人は、名前の分だけ損をする。
ガーネットのFAQ
Q. ガーネットは硬くて丈夫?
A. 日常使いには十分だ。モース硬度は7前後。種類によって割れにくさに差があるので、強い衝撃は避け、ほかの宝石と分けてしまう。
Q. 採集用ガーネットはどこで探せる?
A. 花崗岩地帯の川砂や、変成岩の多い川の河原だ。パンニングで砂から選り分けるのが基本になる。
石好き次郎から
ガーネット=赤という思い込みは、日本で拾えるものが赤いからだ。
石の常識は、たいてい誰かが次の一個を見つけるまでの話だ。


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