翡翠の良し悪しは、三つの言葉で見る。「种(ジョン・種)」「色(色)」「水(スイ)」。中国語圏の翡翠の商いで使われてきた物差しだ。結晶の細かさ、緑の具合、光の潤い。これを知らずに買うと、いい石を見逃すか、ふつうの石に大金を払うか、どちらかになりやすい。
ただし、これは取引の現場で育った慣習の物差しで、国際統一の等級ではない。GIAの評価は色・透明度・カット・サイズ。考え方は重なるが、物差しは別だ。二本とも持っておけば、話がかみ合わなくなったときに困らない。
まず、「翡翠」には二種類ある。硬玉のジェダイトと、軟玉のネフライト。種・色・水で語られ、値段の桁が跳ねるのは、ほぼジェダイトのほうだ。最高品質はミャンマー産とされ、「玉之王(玉の王)」と呼ばれる。
中国、メソアメリカ、縄文の日本。互いを知らない文明が、別々に翡翠を大事にした。緑の石に手が伸びるのは、どうも人間の癖らしい。
日本では、新潟県糸魚川が国内最大の産地だ。グアテマラやロシアでも出る。
翡翠の正体——二種類の「翡翠」
ジェダイトとネフライト——同じ翡翠でも全く別の石
ジェダイトは硬度6.5〜7で、独特の半透明のつやがある。ネフライトはマグネシウム・鉄・カルシウムのケイ酸塩で、硬度6〜6.5、色はやや暗め。中国、カナダ、ロシア、ニュージーランドで出て、昔の中国の「玉」はほぼこちらだ。日本では両方まとめて翡翠と呼ぶこともある。名前は同じでも、中身は別の石だ。
糸魚川の翡翠は、日本で出るジェダイトだ。沈み込み帯の深いところでできた石が、姫川の上流から運ばれて浜で拾える。地球の奥で生まれた石に、海辺で手が届く。そういう産地は、世界でも珍しい。
「种(種)」——翡翠の透明度と結晶の細かさ
「種」は、透明さと結晶の細かさ。緑が同じでも、種が違えば値段は大きく変わる。最上の玻璃种(ガラス種)はガラスのように透けて、結晶が見えない。次が冰种(氷種)で、氷のような透明感。糯种(もち種)は半透明で、もち米のような質感になる。
豆种(豆種)になると、粒のような結晶が見えてくる。干青种(乾青種)は不透明で、結晶が粗い。光を通すほど高い。理屈は単純だ。目で見分けるのが、むずかしいだけで。
比重は3.2〜3.4と重め。ガラスの偽物(2.5程度)より、手にずしりと来ることが多い。ただ、重さや冷たさで本物は決まらない。手のひらで言えるのは「怪しいかも」までだ。

「色(色)」——翡翠の色の評価
最上の色は帝王绿(インペリアルグリーン)。深く鮮やかで、むらのない緑。清朝の皇帝が好んだ「皇帝の緑」とされる。値段は処理の有無、大きさ、彫り、来歴で大きく動く。相場を一言で言う人がいたら、少し距離を取る。
满绿(満緑)は全体が均一な緑で、帝王绿の次。阳绿(陽緑)は明るい緑、豆绿(豆緑)は中くらい、黄绿(黄緑)は黄みがかった緑。紫は「紫罗兰」、白は種が高ければ「冰种白翡翠」と呼ばれて値が上がる。黑翡翠は「墨翠」で、光に透かすと緑がかる。染色品との見分けの一つだ。
緑は、写真では覚えられない。私なら、まず糸魚川の浜で原石の白や淡い緑を見る(文化財に指定された場所は採取禁止なので、そこは見るだけ)。次に博物館で種・色・水を実物で比べ、鑑別書付きのA貨を一つ手元に置く。最後に処理石と無処理石を並べる。四つ目で、翡翠の緑が急に立体になる。
困ったことに、「帝王緑」にはっきりした基準は無い。GIAも翡翠の色に標準のグレードを設けておらず、業界の慣習の呼び名だ。同じ「帝王緑」でも、売り手によって指す緑が違う。名前が立派な緑ほど、実物を見るまで信じない。
磨き方でいちばん多いのはカボション。丸く磨いたほうが、ファセットより中の緑が豊かに見える。翡翠には、角より丸が似合う。
「水(水)」——翡翠の潤い感
「水头好(水気が良い)」は、翡翠が中から光るような潤いのこと。種の高い翡翠は、たいてい水頭もいい。光が中を通り抜けて、石の中で泳ぐように見える。「有水」は上、「干涩(乾いた)」は下。日本語にも英語にも、ぴったり合う言葉が無い。
英語の透明度に近いが、それだけではない。内側からにじむような潤い、という感覚まで含む言葉だ。数字にできないから、人によって物差しが少しずれる。ずれるから、二人で同じ石を見ると話が長くなる。
ミャンマーの現場では、原石の「皮(外皮)」の色や手触りから、中の種と水を読む。磨くまで中は見えない。皮一枚の向こうを当てる商売は、話を聞くだけで胃が痛くなる。
A貨・B貨・C貨——翡翠の処理区分
処理の区分は三つ。A貨(A Jade)は無処理で、ロウ(蝋)で表面を磨いただけ。B貨(B Jade)は酸で汚れやひびを抜き、樹脂を詰めて光沢を上げたもの。C貨は染色。これは品質の順位ではない。A貨の中にも、いい石とそうでもない石がある。
B貨は最初はきれいだが、樹脂が傷んで白く濁ったり、細かいひびが出たりする。何年で、とは一律に言えない。A貨との値段の差は数倍から数十倍。そもそも翡翠でないガラスや染めたアベンチュリンもある。見分けるには、GIAやNGTC(中国国家宝玉石質量検験センター)などの鑑別書が要る。
手入れは柔らかい布で拭く。処理の分からない石は、超音波も蒸気もやめて、ぬるま湯と中性洗剤でそっと洗う。迷ったら、処理不明として扱う。大事に扱いすぎて損をする石は無い。

28億円のネックレスと、値段の決まり方
いちばん高い翡翠の話をしておく。ハットン=ムディヴァニ・ネックレス(2014年4月6日、サザビーズ香港)。清朝宮廷由来とされる帝王緑のジェダイトビーズ27個(直径15.4〜19.2mm)に、カルティエ製のルビーとダイヤの留め金。約28億円で落札された。
翡翠ジュエリーの世界最高記録として、Guinness World Recordsに認定された。落札したのはカルティエ・コレクションだ。28億円。ビーズ一粒あたり一億円を超える。計算してみて、少し笑った。
原石はミャンマー政府が管理するオークションで売り買いされる。採掘業者から商人、加工、小売へ。段を一つ上がるごとに値が積まれ、最後は原石の数倍〜数十倍になることも珍しくない。
最後に値段を決めるのは、誰がいくら払うかだ。希少さに、買い手の目と思い入れが混ざる。だから同じ緑に、二つの値段がつく。
A貨を見分ける目は、見続けるしか育たない。ミネラルショーで「A貨です」と言われた石を、鑑別書と突き合わせて見る。近道は無い。見るだけならタダだ。
値段を聞く前に、私は翡翠を光に透かして「水」を見る。同じ緑でも、光を通す石と通さない石では、手に持った感じがまるで違う。値札は、そのあとでいい。
| 評価軸 | 内容 | 最高評価の例 |
|---|---|---|
| 種(しゅ) | 透明度と結晶の細かさ | 玻璃種(ガラスのような透明感) |
| 色(しょく) | 色の鮮やかさ・均一さ | 帝王緑(鮮やかな緑) |
| 水(すい) | 潤い感・光の内部反射 | 水感が高い=内部で光が泳ぐ |
| 処理区分 | A貨B貨C貨の別 | A貨=無処理(品質ランクではない) |
| 産地 | 産地ごとの傾向 | ミャンマー・カチン州は高品質帯が多い |
石好き次郎から
種・色・水。言葉にすると三つだが、手に取ると全部いっぺんに目に入る。分けて見られるようになるまでが長い。私も、ずいぶんかかった。翡翠の値段の幅を思えば、それくらいかかって当たり前だと今は思う。
帝王緑の正体は、ほんの少し入ったクロムだ。わずかな混ぜ物で、値段の桁が変わる。人間が勝手に桁を変えているだけで、石のほうは何も知らない。
糸魚川の翡翠は、白と淡い緑が多い。ミャンマーのような濃い緑は、まず出ない。それを負けだとは思わない。地質が違えば、石の顔も違う。違うから、並べて比べる意味がある。

公式確認先
書くときに当たったページを置いておく。
- GIA「Jade Description」(ジェイダイト/ネフライトの鉱物学的解説)
- Guinness World Records「Most expensive jade jewellery sold at auction」
- 糸魚川市「文化財指定地でのヒスイ等の採取は禁止されています」

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