徳島で石を拾うなら、吉野川の河原だ。中流の川島あたりには、「阿波の青石」と呼ばれる緑の片岩が川沿いに広がる。手で数個拾う分には、ふつうの河原と変わらない。
そのうえで、外せない山が一つある。徳島市の眉山(びざん)だ。ロープウェイと遊歩道のある市民の山だが、ここで見つかった赤紫の石が、世界に名前を知られた。ただ、いまの眉山は拾う山ではない。標本が採られすぎて、露頭が大きく掘られてしまった。徳島は、吉野川で拾って、眉山は見る県だ。
見る場所なら、徳島は多い。吉野川をさかのぼれば大歩危の渓谷、北へ行けば阿波の土柱、東の端には鳴門の渦潮。南の勝浦町では恐竜の歯まで出た。拾う袋は小さくていい。目のほうを大きくして行く。
| 採集可否 | 眉山の露頭は採りすぎで大きくくぼんだまま。見るだけにする。吉野川の青石は個人・少量なら自由使用が基本。大歩危・阿波の土柱・徳島城跡は採らない |
|---|---|
| 子ども向け | 博物館・眉山の遊歩道は向く。露頭での採集は控える |
| 最終確認日 | 2026年9月 |
場所ごとの持ち帰りの可否と料金は、下の早見表に並べた。

徳島の地質——三波川変成帯の結晶片岩の島
徳島の石を決めているのは、三波川変成帯(さんばがわへんせいたい)だ。プレートに引きずられて地下深くに潜った岩が、高い圧力と低い温度で焼き直された帯だ。四国を東西に貫く。眉山も、吉野川の南岸も、この帯の上にある。薄く板のようにはがれる片理(へんり)が、徳島の石の共通の顔だ。
県の北側には、別の顔がある。吉野川の北、讃岐山脈から鳴門にかけては和泉層群だ。白亜紀後期の海底にたまった礫岩・砂岩・泥岩で、片理ではなく、砂と泥の縞で見分ける。片岩の県だと思って来ると、ここで一度つまずく。
南の勝浦町では、1億3000万年ほど前の地層から恐竜の歯が出る。北と南で、石の年齢も生まれ方もまるで違う。狭い県なのに、地質の話だけは広い。三波川帯を西へたどると、愛媛の関川には地下80キロの岩まで転がる。愛媛で石を探すと並べると、帯の深さが分かる。
徳島の石スポット早見表
持ち帰りの欄が×ばかりなのは、徳島がそういう県だからだ。拾えるのは吉野川の河原と、博物館の化石発掘体験くらいになる。料金は2026年9月に確かめた数字だ。
| 場所 | 見られるもの | 料金など | 石の持ち帰り |
|---|---|---|---|
| 眉山(徳島市) | 紅簾石石英片岩の露頭(中腹の遊歩道ぞい)・緑色片岩 | ロープウェイあり | ×(露頭は過去の採りすぎで大きくくぼむ) |
| 徳島城跡(徳島市) | 阿波の青石の石垣・一部に紅簾石石英片岩 | — | ×(国の史跡・2006年) |
| 徳島県立博物館(文化の森総合公園) | 眉山の鉱物・三波川帯の結晶片岩・勝浦町の恐竜化石 | 一般400円・高大生200円・小中学生100円/9:30-17:00/月曜休 | ×(展示) |
| 文化の森の化石発掘体験 | 勝浦町の化石層から運んだ岩を割る | 2025年は一般1,000円・小中学生500円/60分・事前予約 | ○(植物と貝の化石を1人1個) |
| 吉野川中流(川島周辺ほか) | 阿波の青石(緑色片岩) | — | ○(個人・少量) |
| 大歩危(三好市) | 砂質片岩・礫質片岩・背斜構造 | — | ×(国の天然記念物・名勝) |
| 妖怪屋敷と石の博物館(道の駅大歩危) | 礫質片岩・蛍光鉱物・隕石・アカスタ片麻岩 | 大人800円・小中学生350円/9:00-17:00 | ×(展示) |
| 阿波の土柱(阿波市) | 砂礫層が削られた土の柱(大天柱は高さ18m) | 駐車場あり | ×(国の天然記念物・1934年) |
| 渦の道(鳴門市) | 渦潮・和泉層群の砂岩の岬 | 大人510円・中高生410円・小学生260円 | —(橋の上から見る) |
| 恐竜の里(勝浦町棚野) | 恐竜のモニュメント・恐竜大権現 | — | —(発見の記念地) |
眉山——紅簾石片岩が世界に知られた山
眉山をつくるのは、三波川帯の結晶片岩だ。その中に、赤紫の紅簾石(こうれんせき)をたっぷり含む石英片岩がある。淡いピンク色の、きれいな石だ。1887年(明治20年)、眉山の片岩から紅簾石が見いだされて記載された。
この石は、地元では古くから使われてきた。徳島城の石垣の一部にも、紅簾石石英片岩が積まれている。世界に知られた石が、城では当たり前のように石垣に収まる。
露頭は中腹の遊歩道ぞい
紅簾石石英片岩が顔を出すのは、眉山中腹の遊歩道ぞいの一角だ。紅色から淡い赤色の縞の岩で、いちばん赤い部分が大きく掘られてくぼみ、落ち葉と雨水がたまる。露頭の説明が、そのまま反省文になる。
眉山の紅簾石を記載したのは、東京大学で地質学を教えた小藤文次郎だ。眉山(大滝山)の結晶片岩に、紅簾石が入ることを見いだした。広域変成作用でできた紅簾石の報告としては、これが世界初になる。石好きとしては、この一行だけで少し胸を張りたくなる。自分は何もしていないのに。
紅簾石は、徳島の「県の鉱物」でもある。マンガンを含む細長い柱の鉱物で、見る向きで桃色から黄色に色が変わる。あの赤紫は、この小さな柱の集まりの色だ。
眉山の鉱物は紅簾石だけではない。石英脈に入った長い柱状のルチルや、黒っぽく光る満ばんざくろ石(マンガンを含むガーネット)も出た。ただ、ルチルの産地はもう残っていない。観察も採集もできない。採り尽くすと、こうなる。同じ道をたどった産地は、もう拾えない宝の山にいくつも並ぶ。
徳島城跡の石垣で答え合わせ
国の史跡、徳島城跡の石垣は、ほとんどが阿波の青石で積まれた。その一部に、紅簾石石英片岩が混じる。緑の壁の中から、赤紫を一つ探す。石拾いより、よほど目が鍛えられる。

阿波の青石——吉野川の緑色片岩
紅簾石が赤紫なら、徳島を代表するもう一つの片岩は緑だ。「阿波の青石」と呼ばれる緑色片岩で、三波川帯の緑泥石などが緑を出している。吉野川の中流域、川島の周辺には、この青石の露頭が川沿いに広がる。
阿波の青石は、庭石や石垣の石として全国に名前が通ってきた。その名石が、吉野川の河原ではごく普通の顔で転がる。平たく薄く、手に取ると、面の片側がしっとり光る。緑泥石の、真珠のような光だ。名石の正体は、河原でいちばん踏まれている石だった。
名前は青石だが、色はどう見ても緑だ。学術名は緑泥片岩(緑色片岩)。片理にそって板のように割れるので、河原の青石はたいてい平たい。濡らすと緑が一段深くなり、白い筋の入った一枚も混じる。選ぶなら、その筋がまっすぐ通った一枚だ。
ややこしいのは、徳島の「県の石」の岩石が青色片岩であることだ。藍閃石を含む本当に青い片岩で、眉山や吉野川市の高越山に出る。阿波の青石よりずっと深く、地下20〜40kmまで沈み込んでできた、別の岩石だ。
緑の「青石」と、青い「青色片岩」。徳島には青い石が二つある。河原で見分けがつかなくても、恥ずかしがることはない。名前を付けた人に、一度わけを聞いてみたい。二つの青を河原と渓谷で見比べる話は、藍と青石、徳島の二つの青で。
大歩危小歩危——国の天然記念物の渓谷
吉野川をさかのぼって三好市に入ると、大歩危の渓谷になる。河床と両岸に、三波川変成岩がむき出しで並ぶ。両岸の岩場500mほどが、国の天然記念物で、名勝でもある。
ここの岩は、並び順がひねくれている。片岩がドーム状に曲がった背斜構造で、中心ほど新しく、変成の弱い砂質片岩や礫質片岩が出る。外側ほど古く、変成の強い泥質片岩や緑色片岩になる。見かけの上で、新しい岩と古い岩の位置が逆になる。岩の前に立ったら、どっちが新しいのか、三回は聞き直す自信がある。
礫質片岩は、7000万〜9000万年前の浅い海底にたまった礫の地層だ。地下十数kmまで運ばれ、礫が平たく引き伸ばされた。この含礫片岩は県の天然記念物でもある。河原の丸い石を見慣れた目には、平たく伸びた礫が一番効く。
妖怪屋敷と石の博物館(道の駅大歩危)
大歩危の岩を手元で見たいなら、道の駅大歩危の中の石の博物館(ラピス大歩危)だ。天然記念物の礫質片岩のほか、紫外線で光る蛍光鉱物、ギベオン隕鉄、約40億年前のアカスタ片麻岩まで並ぶ。
入館は妖怪屋敷とセットで、大人800円、小中学生350円、幼児無料(2026年4月からの料金)。9時から17時で、12月〜2月は火曜休館。妖怪と隕石が同じ建物にある。子ども連れには、この組み合わせが強い。
阿波の土柱——砂利が立ち上がった柱
吉野川の北岸、阿讃山脈のふもとの阿波市に、土と砂利でできた柱が何本も立つ。阿波の土柱だ。古い大きな扇状地を雨が細い谷に刻み、残った部分が柱や屏風の形になった。国の天然記念物だ。
いちばん大きい柱は大天柱で、高さ18m。砂利の塊が、ビル6階ほどの高さで立つ。理屈を知ってから見ても、やはり不思議だと思う。
地元では、アメリカのロッキー山脈、イタリアのチロルと並ぶ世界三大奇勝と呼ぶ。三大の数え方は、どこでも地元びいきになる。それでも、18mの砂利の柱なら名乗っていい。所在地は阿波市阿波町北山540。脇町ICからもJR阿波山川駅からも車で約15分で、駐車場がある。
鳴門の渦潮と、砂岩の岬
鳴門海峡の岸をつくるのは、和泉層群の砂岩と泥岩の互層だ。白亜紀後期、約7000万年前の海にたまった地層で、眉山や大歩危の片岩とは、生まれも見た目も違う。
門崎から孫崎にかけては、砂岩の多い層が斜めに傾き、削られ残って稜線のような地形になり、海底まで続く。海峡ができたのは、少なくとも21万年前より前らしい。渦のほうが、人よりずっと先輩だ。
渦の道
大鳴門橋の中の遊歩道「渦の道」は、海面から45mの高さを450m歩く。料金は早見表に載せた。石の記事なのに、ここだけは水が主役だ。たまには譲っていい。
勝浦町の恐竜——四国で初めての恐竜化石
1994年、勝浦町の立川層の泥岩から、イグアノドン類の歯の化石が見つかった。四国で初めての恐竜化石だ。町の棚野には「恐竜の里」があり、恐竜のモニュメントと恐竜大権現が立つ。恐竜を神様にした町を、ほかに知らない。
化石は、その後も出る。竜脚類ティタノサウルス形類の歯、獣脚類のすねの骨。毎年のように新しい恐竜化石が見つかり、発掘ボランティアがカメやワニの化石を見つけた例もある。毎年のように出る、という言葉の軽さがうらやましい。
化石を割れるのは、文化の森
勝浦町の岩は、県立博物館の「化石発掘体験」で割れる。発掘現場から文化の森総合公園に運び込んだ岩で、恐竜、ワニ、カメ、貝、植物の化石が入る。2025年は夏の土日祝を中心に開かれ、1回60分の事前予約制だった。
料金は一般1,000円、高校・大学生800円、小中学生500円、未就学児は無料。4歳以上で、小学生以下は大人と一緒に参加する。見つけた化石は1人1個まで持ち帰れるが、植物と二枚貝・巻貝だけだ。恐竜やワニ、カメの骨は置いていく。そこが一番悔しくて、一番正しい。ほかの県で岩を割れる場所は、全国の化石発掘体験に。
まず行く所——徳島県立博物館
徳島で一か所だけ、と言われたら、私はたぶん県立博物館を選ぶ。眉山の紅簾石も、勝浦の恐竜も、実物がここにそろう。場所は徳島市八万町の文化の森総合公園。常設展は一般400円、高校・大学生200円、小中学生100円。9時30分〜17時、月曜と年末年始が休み。無料駐車場があり、JR「文化の森」駅からは歩いて約35分。
拾う所と、見るだけの所
法律で守られた場所は、ここにまとめておく。大歩危小歩危(国の天然記念物・名勝)と、そこの含礫片岩(県の天然記念物)、阿波の土柱(国の天然記念物)、徳島城跡(国の史跡)は、石を採らない。見る場所と決めておけば、迷うことはない。
吉野川の青石は、ふつうの河原の石だ。気をつけたいのは足元のほうで、片岩は薄くはがれやすく、濡れるとよく滑る。平たい石ほど、踏むと逃げる。水量と天気を見て、無理をしない。川の機嫌は、石より先に読む。
長瀞の赤紫の石は、徳島でデビューした
荒川をホームにしていると、上流の長瀞の赤紫の片岩は見慣れた石になる。あれが紅簾石片岩だ。ここでいう「デビュー」は、石が徳島から運ばれたという意味ではない。この種類の片岩が、学問の世界に名前を知られた場所の一つという意味だ。紅簾石片岩は、三波川帯にそって関東から四国、九州まで各地で見つかる。
長瀞の側にも「秩父が最初」という話がある。どちらが先かは、ここでは決めない。眉山の紅簾石は、広域変成作用でできた紅簾石の世界初の報告とされる。関東の川で見かける赤紫の石も、由緒をたどれば四国の山とつながる。長瀞で見慣れた石に四国の親戚がいると思うと、少し得をした気分になる。
よくある質問
Q. 眉山で紅簾石片岩は拾える?
A. 拾わない。露頭は採りすぎでくぼんだままだ。赤紫は、遊歩道と博物館で見る。
Q. 吉野川で青石は拾える?
A. 拾える。手で持てる数個なら、ふつうの河原と同じだ。
Q. 子どもと化石を掘れる所はある?
A. ある。文化の森の化石発掘体験で、植物と貝の化石なら1人1個持ち帰れる。
石好き次郎から
徳島は、拾う県というより、由緒をたどる県だと思う。石に名前と歴史があって、その名前が土地に残る。徳島はそれを、城の石垣ごと見せてくれる。
赤紫と緑の片岩、大歩危の平たい礫、18mの砂利の柱、渦の下の砂岩、勝浦の恐竜の歯。並べてみると、袋に入るのは吉野川の青石くらいだ。それで損をした気がしないのが、この県の不思議なところだ。
眉山は、いつか遊歩道から結晶片岩の輝きを見てみたい山だ。そのあと徳島城の石垣で、同じ赤紫の石を探す。拾うためではない。石の「デビューの地」に立つためだ。

スポット情報まとめ
| 主なテーマ | 眉山(紅簾石片岩が世界に知られた山)・吉野川の「阿波の青石」(緑色片岩) |
|---|---|
| 見られる石 | 紅簾石石英片岩(淡紅色)・緑色片岩(青石)・ざくろ石・ルチルなど三波川帯の結晶片岩 |
| まず行く所 | 徳島県立博物館(三波川帯の結晶片岩・眉山の鉱物を展示) |
| 難易度 | 中級(採集向きより観察向き) |
| Googleマップ | 地図・経路を開く |
| 最終確認日 | 2026年9月 |
公式確認先
料金や開いている日、道の具合は変わる。下は、書くときに開いた公式のページだ。
徳島の石(公的機関)
- 徳島県立博物館:徳島市眉山の鉱物(館蔵品紹介)
- 徳島県立博物館:青色片岩と阿波の青石(Q&A)
- 徳島県立博物館:和泉層群
- 日本地質学会:県の石(四国・中国)
- 徳島県:徳島の青石について
- 阿波学会紀要:地形・地質から見た鳴門海峡の成立(PDF)
文化財
施設・観光
- 徳島県立博物館:ご利用案内
- 徳島県立博物館:化石発掘体験
- 徳島県立博物館:徳島の恐竜
- 道の駅大歩危:妖怪屋敷と石の博物館
- 三好ジオパーク:大歩危小歩危・祖谷渓エリア
- 阿波ナビ(徳島県観光情報サイト):阿波の土柱
- 渦の道:総合案内
- 勝浦町観光情報サイト:恐竜の里
最終公式確認:2026年9月25日

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