
ある。奈良県香芝市の竹田川では、二上山から流れてきたガーネット(金剛砂)の赤い粒が、河原の砂に混じる。
手のひらに、濡れた砂が重い。指のすき間から水が抜けていく。残った砂の縁に、黒い粒と白い粒。その奥に一粒、色の違うものがある。まだ赤とは言い切れない。光に透かす。赤だ。足首ほどの水しかない、奈良の小さな川の話だ。
赤い粒はガーネット、地元の呼び名は金剛砂(こんごうしゃ)だ。奈良時代にはもう、この砂で玉を磨いた記録がある。のちには紙やすりの研磨剤にもなった。宝石が、紙やすりになっていた。黒くて薄いガラスのような破片は、叩くと「カン」と鳴るサヌカイト。数万年前から、刃物の材料だった。
青く透き通った粒が出たら、サファイア(鋼玉)だ。ただし、まれ。出ない日のほうがずっと多い。同じ鋼玉の赤、ルビーになると、見つかったという話が残るくらいだ。狙って出るものではない。それでも、青い点が一つ目に入っただけで、しゃがむ時間が10分延びる。
テレビでも何度か取り上げられた川だ。ガーネットとサヌカイトに、運がよければサファイアまで。一本の川でこの顔ぶれは、関西では珍しい。有名になっても、赤い粒は一粒ずつ探すしかない。
| 場所 | 奈良県香芝市・竹田川河川公園付近(穴虫) |
|---|---|
| 採集可否 | 可。個人の手拾い。農業施設・護岸工事の場所・私有地には入らない |
採れる石・料金・地図は、記事の最後のスポット情報まとめに置いた。先に山の話をする。河原の石は、みんな山から来るからだ。
二上山——千数百万年前の火山が残した4種の石
河原の石より先に、山の名前のほうが古い本に載っていた。二上山は古事記にも日本書紀にも出てくる。大津皇子が葬られた山として、万葉集にも詠まれた。地質でいえば4種の石の山、文学でいえば万葉の山だ。
二上山は、奈良と大阪の境に並ぶ二つの峰の山だ。昔は火山で、活動が盛んだったのは千数百万年前。麓の博物館は、この山の石を「3つの石」と呼ぶ。サヌカイト、凝灰岩、金剛砂(ガーネット)。河原ではこれに、碧玉と呼ばれる赤や緑の硬い石がときどき混じる。旧石器の人たちは、とうにこの山を「石の山」として使っていた。石好きは、だいぶ出遅れている。
では、赤い粒はどこから来たのか。答えは山の岩の中だ。ガーネットは、二上山の火山岩に埋まっていた。岩が長い時間をかけて風化し、崩れるうちに、粒だけがこぼれて低いほうへ流れ、積もった。竹田川の赤は、山が崩れた残りかすでもある。残りかすのほうが、宝石だった。
サヌカイトの名付け親は、明治の半ばのドイツ人学者だ。香川の旧国名、讃岐から取った。名前は香川の石でも、近畿のほぼ全域まで運ばれて石器になったのは、二上山のものだ。叩くとカンカンと金属のように鳴り、今は打楽器にもなる。二上山は金剛砥(こんごうと)という砥石の産地でもある。切れる石、鳴る石、研ぐ石。ここは道具の山だった。山の向こう、大阪・兵庫の川のサヌカイトも別に書いた。
標高は517m。高い山ではない。竹田川は、この山から下ってくる。低いのに、中身が濃い。河原が賑やかなのは、この山のせいだ。
4種のうち、まずガーネット(金剛砂・鉄礬柘榴石)。山から流れた赤い砂は麓の低い土地に積もり、南北朝のころには奈良の興福寺に納められていた。明治からは機械の部品やレンズを磨き、戦後は一度掘った土地の、さらに下の層まで掘って集めた。田んぼの下が、宝石の層だった。今は現地での採掘が止まり、研磨用の砂は輸入に頼る。河原の赤い粒を拾うのは、もう石好きくらいだ。赤い粒の出る川は、全国に散らばる。
サファイアとルビーは、どちらも鋼玉(コランダム)。酸化アルミニウムの結晶で、混じるものの違いで青にも赤にもなる。竹田川のまわりでは、青い鋼玉が見つかってきた。赤いほうの話も聞く。その一行だけで、人は河原に通う。
採集スポットとアクセス
決まりごとは、ここにまとめておく。竹田川の河原で、個人が手で拾うぶんには禁止はない。入らないのは、農業施設と護岸工事の場所、企業の敷地や田畑などの私有地。二上山は金剛生駒紀泉国定公園の山なので、山の石は見るだけにして、拾うのは川。石より、田んぼの持ち主のほうが大事だ。
川そのものの注意は二つ。竹田川には農業用水を取る区間があり、水の量が急に変わることがある。二上山にはイノシシがいるので、日の出前と日暮れのあとは河原に降りない。足首ほどの川でも、相手が水と獣なら、こちらが引く。
降りるなら「竹田川河川公園」付近の河原。駅は多い。近鉄の二上山駅・二上駅・関屋駅・下田駅、JR和歌山線の香芝駅。どこからでも、歩いて15〜20分ほどで河原に出る。大阪からも奈良からも電車で来られて、日帰りで帰れる。関西の石好きが、休みの朝にふらっと来る川だ。
時期は4〜11月の、水の少ない日。梅雨の増水が引いた7月中旬以降は、上から新しい石が届く。川が一度リセットされたあとだ。水位の低い晴れの日を選ぶ。乾いた砂利より、濡れた石のほうが色も光沢もよく見えるので、拾ったら水にくぐらせる。ただし増水の直後は入らない。水が落ち着くまで待つ。
| スポット | 特徴 | アクセス | 注意 |
|---|---|---|---|
| 竹田川・穴虫交差点下流の橋の下 | 川底が赤く染まるほどのガーネット密集地。水量は足首程度で安全。夏でも橋の下は涼しい | JR香芝駅・近鉄関屋駅から徒歩15〜20分 | 近くの企業敷地に立入禁止 |
| 竹田川がほかの川と合わさるあたり | 2流域からの重鉱物が集まる。種類豊富 | 近鉄関屋駅から徒歩15分 | 私有地・農地は厳禁 |
車なら、河川公園の隣の無料スペースか、橋の横に3台ほど。橋の下へは、ガードレールをまたいでブロックの階段を降りる。中年がガードレールをまたぐ姿は、あまり人に見せたいものではない。降りてしまえば、砂利の広がりが待つ。夏でも橋の下は日陰で、ここで一日しゃがんでいられる。

必要な道具リスト——竹田川は「洗う」川
基本の道具は、10倍のルーペ、軍手、水が入ってもいい靴、チャック付きの袋を何枚かと、油性ペン。ガーネットは1〜5mmしかない。ルーペなしだと、赤い粒の大半を見送ることになる。川に入って礫の中を探すなら、ウェーダーがあると楽だ。買う前に、レンズの枚数だけは見ておく。
サヌカイトを確かめるなら、金属の棒かスチールのハンマーが一本あると早い。叩けばカンカンと鳴るので、音で分かる。ただし割れると鋭い破片が飛ぶ。叩くならゴーグルは外せない。碧玉とガーネットはルーペだけで足りる。手に持った重さと、色と光沢で見当がつく。
ほかに、バケツと目の細かい網、白いトレイ。網で川砂をすくい、バケツの水で泥を流して、トレイに広げる。この三つがあると、竹田川の石拾いは「探す」から「洗う」に変わる。ガラス片があるので、裸足はだめ。タオルと着替えも一式。ここまでは、どこの川でも持っていくものだ。
ブラックライト(紫外線ライト)は、あれば楽しいが、サファイア探しの決め手にはならない。火山の岩から来る青い鋼玉は鉄を多く含み、紫外線を当ててもほとんど光らないとされる。光るのはルビーのほうで、赤く光る。ガーネットは光らない。結局、青は目で探す。河原で紫外線を当てている大人は、かなり怪しい。細かい粒をつまむピンセットは、あったほうがいい。
拾ったガーネットは、透明な小瓶に入れる。薬局の空き瓶でも、ネイル用の瓶でもいい。「奈良県香芝市竹田川産・ガーネット・採集した日付」とラベルを一枚。それだけで立派な産地標本になる。1mmの赤でも、瓶に並ぶと妙にえらそうに見える。
4種の石の見分け方
ガーネットは、川底の砂を手で払いながら赤い粒を探す。比重が重いので砂礫の底に沈み、流れのゆるい淵の内側にたまる。乾いた砂より、濡れた砂のほうが赤が立つ。手に水をかけながら払うと、急に粒が見えてくる。
濡れた砂の中の赤は、宝石らしくは光らない。黒っぽい点だ。ワインを一滴こぼした跡くらいの色しかない。乾いた日に見ると、さらにくすんで砂と区別がつかない。だから、手に水。指先に乗せて光に透かし、奥がじわっと赤くなれば金剛砂。くすんだまま濁れば、ただの赤い砂粒だ。最初のうちは、その見分けだけで半日が終わる。
トレイに残った黒い粒が気になったら、磁石を袋に入れて上からなでる。砂鉄(磁鉄鉱)が混じっていれば、袋に飛びついてくる。ただ、強いネオジム磁石だと、赤い粒まで少し寄ってくることがある。金剛砂は鉄礬柘榴石、名前のとおり鉄を含む石だ。黒だけを抜きたいなら、冷蔵庫に貼る弱い磁石でいい。道具は、強ければいいというものでもない。
二上山の石を狙うなら、上流側、山に近いほうを歩く。下流へ行くほどよその石が混ざり、どこから来た石か絞れなくなる。竹田川の上のほうは、二上山のすぐ下から転がってきた石が多い。4種が一度に拾える見込みも、そのぶん上がる。
狙うのは、砂利がたまる淀みだ。流れがぶつかって緩む場所に、比重の重いガーネットが沈む。カーブの内側を歩く。外側は流れが速く、軽い砂しか残らない。川の曲がり方を見るのが、赤い粒を探すいちばんの近道になる。
石ごとの、河原での決め手
ガーネットは、川底が赤く染まる場所を探し、白いトレイに川砂を入れて水で洗う。1〜3mmの小粒が中心だ。目を赤だけに合わせる。ほかの色は、その日は見なかったことにする。
サヌカイトは黒から暗い灰色で、ほかの石と軽く叩き合わせて「カン」「チン」と鳴れば候補だ。ふつうの石は「コン」と鈍い。表面はなめらかで、ガラスのような光沢がある。鋭い割れ口のものは、昔の石器かもしれない。打ち欠いた跡のある石は、拾わずに置いていく。
ほかに、玉髄も混じる。白く、蝋のような光沢があり、濡らすと半透明になる。石英と似ているが、玉髄のほうが緻密で、割れ口がなめらかだ。迷ったら両方持ち帰って、家で並べればいい。
4種のうち、ガーネットと凝灰岩はまず出る。サヌカイトは弾いてみるまで分からない。碧玉は運になる。4種がそろう日は、めったに来ない。一つ欠けた日のほうが、次に来る理由が残る。
二上山の石が使われてきた道
二上山の凝灰岩は、白くてやわらかく、切り出しやすい。山の石切場から出た石材は、飛鳥の高松塚古墳にも使われた。河原で軽くて白い石を拾ったら、それは同じ山の生まれだ。手のひらの地味な石が、古墳の壁と親戚になる。
サヌカイトは、叩いた音で産地が分かるとも言われる。二上山産は讃岐(香川)産より、やや音が低い傾向があるとされる。化学組成のわずかな違いのせいだという。音で産地を当てるのは専門家の芸だ。こちらは、拾った一個を叩いて「鳴った」と喜ぶくらいでちょうどいい。
二上山のふもとでは、サヌカイトを掘った古い穴が見つかった。一つの穴から出た石器は、7,000点を超える。日本列島でいちばん古い石材の採掘坑で、今のところ唯一のものらしい。河原で一個弾いて喜んでいる身としては、頭が上がらない。
碧玉は、宝石の質ではない。見た目も地味だ。それでも「二上山の麓・竹田川・自分で拾った」と書いたラベルを添えると、急に話し始める。大きさや質より、どこで誰が拾ったかが、この石の値打ちの中心だ。見た目が地味な石ほど、ラベルがよく働く。
| 石の種類 | 見つかりやすさ | 特徴 | 河原での決め手 |
|---|---|---|---|
| ガーネット(金剛砂) | 高(★★★) | 淀みの砂を洗うと赤い粒が残る。奈良時代から研磨に使われた | 濡らして光に透かす |
| サヌカイト | 中(★★☆) | 黒〜暗い灰色。叩くと金属のような音 | 弾いてカンと鳴るか |
| 凝灰岩 | 高(★★★) | 白〜灰色で軽い。高松塚古墳の石材と同じ山の生まれ | 持った軽さ |
| 碧玉 | 低(★☆☆) | 赤や緑の不透明で硬い石 | 濡らすと色が立つ |
| サファイア(鋼玉) | 極低(★☆☆) | 1mm前後の青く透ける粒。紫外線ではほとんど光らない | 目で探すしかない |
| ルビー(鋼玉の赤) | 極低(★☆☆) | 紫外線で赤く光る。見つかった話が残る程度 | 狙って出るものではない |
香芝市二上山博物館との1日コース
博物館から歩いて10分の「二上山ふるさと公園」は、春の桜と秋の紅葉で知られる。石拾いと花見、石拾いと紅葉。地元ではそういう組み合わせが人気だ。公園の石垣や踏み石には、二上山の凝灰岩が使われている。足元の石まで、山の石だ。
二上山の先には葛城山、金剛山と山が続き、金剛生駒紀泉国定公園の一部になる。この山地全体が、昔から石の出どころだった。竹田川のほかにも、石英・チャート・変成岩が拾える支流がある。どこかは、二上山博物館のスタッフに聞くのが早い。河原の話は、河原のそばに住む人が一番くわしい。
香芝市二上山博物館は、二上山の地質と、旧石器〜古墳時代の石の使われ方を見せる地域の博物館だ。入館料は大人300円・学生150円・小人100円。二上山のサヌカイトで作った石器の実物や、掘って加工した様子が並ぶ。河原で弾いた石と、ガラスケースの中の石器が、同じ石だと腹に落ちる。月曜は休みなので、河原の日程はそこを外して組む。
回り方の一例。近鉄二上山駅→二上山博物館(午前・展示)→竹田川河川公園(午後・2時間ほど拾う)→道の駅ふたかみパーク当麻(夕方)→帰る。博物館で予習して、河原で答え合わせをして、道の駅で地元のものを買う。電車賃と入館料300円で、一日が埋まる。
逆回りもある。午前に、水位の落ち着いた竹田川で2時間ほど拾う。昼を食べて、午後は二上山博物館へ。足が残っていれば、二上山に登る(山頂まで約1時間30分)。拾ったガーネットが埋まっていた山を、自分の足で確かめに行ける。帰りの足は棒になる。
よくある質問
Q. 二上山のサヌカイトは、なぜ鳴る?
結晶の粒がとても細かく、振動がよく伝わるからだ。花崗岩や砂岩では、こうはいかない。
Q. 竹田川のガーネットは、宝石の質?
宝石の質のものは、まれだ。大半は不透明で、傷があって、粒が細かい。質で負けても、来歴では負けない。
Q. 子どもと一緒に楽しめる?
楽しめる。水は足首ほどで、橋の下は夏でも涼しい。赤い粒の宝さがしに、サヌカイトのカンカン。気づけば、大人のほうが長くしゃがんでいる。
奈良・滋賀でもう一か所回るなら、行き先は奈良・滋賀の石拾いから選ぶ。
石好き次郎から
竹田川の面白さは、性質の違う石が同じ河原に出ることだ。赤いガーネット、黒いサヌカイト、白い凝灰岩、それに色のついた碧玉。これだけ顔ぶれの違う石が1本の川に集まる場所を、関西で私はほかに知らない。
理由は、上に立つ山一つだ。昔の火山が、鳴る石と赤い粒を同じ山に置いていった。雨と川がそれを少しずつ崩して、河原まで運んでくる。その配達は、今も止まらない。
サヌカイトは、耳で拾う石だ。見た目は地味な黒でも、弾けば答えが返ってくる。2万年前、同じ音で石器の材料が選ばれた。河原で鳴らすたび、その人たちと同じことをしている。
回るなら、博物館が先がいい。ガラスケースの石器を見てから河原に降りると、黒い石が、ただの破片に見えなくなる。刃物の切れ端に見えてくる。逆に河原が先だと、博物館で「さっき投げた石と同じだ」と気づいて、少し悔しい。どっちの順でも、損はしない。悔しいほうが、次も来る。
ガーネットは白いトレイで洗って探す。米粒より小さい。ルーペを当てて、やっと赤いと分かる。紙やすりにされてきた宝石だ。せめて私くらいは、宝石として扱ってやりたい。

スポット情報まとめ
| 場所 | 奈良県香芝市・竹田川河川公園付近(穴虫) |
|---|---|
| 採れる石 | ガーネット・サヌカイト・凝灰岩・碧玉、まれにサファイア(微小) |
| 難易度 | 初心者向け(水量は足首程度) |
| 駐車場 | 河川公園に隣接した無料スペース(橋の横は3台程度) |
| 子ども向け | ○ 橋の下は夏場も涼しい |
| 料金 | 無料 |
| 採集可否 | 可。個人の手拾い。農業施設・護岸工事の場所・私有地には入らない |
| Googleマップ | 地図・経路を開く |
| 最終確認日 | 2026年7月 |
公式確認先

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