拾った石は、台所の茶碗と10円玉と磁石で、かなりのところまで調べられる。名前まで届かない石も多い。それでも、持ち帰ってからの扱い方ひとつで、ただの石ころか標本かが分かれる。
流れは早見表に並べた。ここで粘るのは、家でできる見分けとラベルと保管だけ。金色の石を茶碗の底にこすると、黒い線が出る。話はそこから始まる。

採集後の流れ、10ステップ早見表
| ステップ | 内容 | 詳細記事 |
|---|---|---|
| ①記録する | 場所・日付をメモする | 本記事内 |
| ②写真を撮る | 濡れた状態と乾いた状態、両方 | 本記事内 |
| ③観察する | 色・模様・透明感を見る | 海岸で拾える石の種類一覧 |
| ④安全に確認する | 硬度・磁石・条痕 | 川原で拾える石の種類一覧 |
| ⑤洗う | 泥と鉄分を落とす | 拾った石の洗い方 |
| ⑥磨く | 手磨きかタンブラーか | 河原の石が宝石のように光る |
| ⑦ラベルを付ける | 産地・採集日を残す | 本記事内 |
| ⑧保管する | ケースと湿度管理 | 本記事内 |
| ⑨鑑別を依頼する | 必要なら専門機関へ | 拾った石にはどんなレポートが取れる? |
| ⑩売る・譲る | 価値を調べてから | この石、何円になる? |
①②記録する・写真を撮る
拾ってすぐやるのは、磨くことではなく書くことだ。場所(地図のピンで十分)・日付・天気。希少な産地の座標は人に見せない。メモを怠ると、1か月後には「どこで拾ったか思い出せない石」が箱にたまる。私の箱にも、ある。
写真は濡れた状態と乾いた状態、両方を撮る。河原で光っていた石は、家で乾くと別人になる。写真が無いと、自分の記憶のほうを疑うことになる。
③④観察する・安全に確認する
色・透明感・縞・光り方から候補を絞るなら、海岸で拾える石の種類一覧と川原で拾える石の種類一覧が早い。見るときは、石を一度濡らす。乾いた石は色を隠し、濡れた石は色を盛る。本当の色は、だいたいその間にある。当たりをつけたら、次の章の台所の実験に進む。
家でできる見分け——茶碗の底、10円玉、磁石
金色に光る石を拾ったら、台所の茶碗をひっくり返す。底の、うわぐすりのかかっていない輪(糸底)に石をこすると、粉の色が線になって残る。これが条痕(じょうこん)だ。タイルの裏でもいい。
金色の石の多くは黄鉄鉱で、条痕は黒になる。黄銅鉱なら緑がかった黒。本物の金なら、条痕も黄色のままだ。逆に、黒っぽい赤鉄鉱をこすると暗い赤が出る。見た目の色と粉の色が、ひっくり返る石がある。石は、粉にすると本音を言う。雲母や磁鉄鉱まで並べた金色の見分けはキラキラする石は金かで。
河原の石をつくるケイ酸塩鉱物の多くは、白い条痕になる。白い線しか出なくても、失敗ではない。むしろ、それが普通だ。
硬さは、爪と10円玉とガラスで比べる
モース硬度は、どちらがどちらに傷をつけるかで決める10段階の硬さだ。身近な道具での目安を表にした。
| 道具 | 硬さの目安 | この道具で傷がつけば |
|---|---|---|
| 爪 | 2〜2.5 | とても軟らかい石 |
| 銅貨(10円玉) | 3〜3.5 | 爪では無理でも、銅貨で傷がつく程度 |
| 軟鉄(鉄くぎなど) | 4〜4.5 | 中くらい |
| ガラス・縫い針・押しピン | 5〜6 | ガラスで傷がつくなら5〜6より軟らかい |
| 鋼のヤスリ | 6.5 | ヤスリにも負けないなら、石英(7)の仲間かもしれない |
こすったあとは、布で拭いてから傷を見る。軟らかい石の粉が線になって付き、傷に見えることがあるからだ。それにしても、台所で石と10円玉をこすり合わせる大人は、はたから見るとだいぶ怪しい。
重さと磁石と、使わない薬品
比重は、キッチンスケールで出せる。水を入れたコップを載せて、表示を0に合わせる。糸で吊るした石を、底に付けずに水へ沈める。そのとき出た数字で、先に量った石の重さを割る。それが比重だ。
黒っぽい石ほど重い。これは、だいたい当たる。白っぽい火成岩の比重が2.5〜2.8ほどなのに対し、黒いほうは2.8〜3.1ほどになる。
黒くて重くて磁石に付けば、まず磁鉄鉱を疑う。砂鉄の正体だ。河原で磁石を転がすと、黒い粒がひげのように付いてくる。
方解石や石灰岩は、塩酸をかけると泡を出す。ただ、家ではやらない。薬品なしでも候補はかなり絞れる。泡を見るのは、博物館に任せておけばいい。
⑤洗う
拾ったばかりの石は、泥と鉄分の膜で本来の色が隠れていることが多い。鉄分の膜を、石を傷つけずに落とす手順は拾った石の洗い方で。
洗う前に、水と酸に弱い石だけは分けておく。岩塩は水に溶ける。方解石や石灰岩、貝殻は酸に弱い。クエン酸で鉄の汚れを落とそうとすると、汚れと一緒に石の表面まで溶ける。きれいにしたつもりで、一つ減らすことになる。
黄鉄鉱は、空気に触れると硫酸と酸化鉄に分解していく。洗ったら、すぐ乾かす。濡れたまま箱にしまうのが、この石にはいちばん悪い。
⑥磨く——手磨きかタンブラーか
磨き方は大きく2つ。手磨きは安く、力加減を石ごとに変えられるが、時間がかかる。ロックタンブラー(研磨機)は数日〜数週間、機械が磨いてくれるが、機材代が要る。
手で磨くなら手磨きのコツと手順、メノウだけならメノウの手磨きから入る。タンブラーは、手磨き派が調べた記事を関連記事に置いた。

⑦ラベルを付ける
ラベルの無い石は、標本の世界では「産地不明」になる。値打ちも、そこで落ちる。最低限、採集地・採集日・石の名前(分かる範囲で)を小さな紙に書いて、石と一緒にしまう。名前が分からなければ「未同定」でいい。当てずっぽうの名前より、ずっと正直だ。
市販のミネラルラベルを使うと、標本箱の仕切りと一緒に整理しやすい。手書きで十分だ。石に油性ペンで直接書くなら、見たい面は避ける。大事なのは、石とラベルが離ればなれにならないことだけだ。
⑧保管する
私は、拾った石を透明な袋に入れておく。仕切り付きのケースに並べる人も多い。日に当てると色があせる石もある。アメジストは紫外線で薄くなりやすいと言われる。置き場所は棚の中だ。窓辺に飾るのは、見せたい日だけでいい。
湿気は、鉄分を含む石をさびさせ、粘土質の石を崩す。乾燥剤を一つ入れておけば済む。数が増えたら、産地と日付をノートにまとめる。「あの石、どこで拾ったっけ」と箱をひっくり返す夜が、少し減る。
⑨鑑別を依頼する
「本当にその鉱物か」を専門機関に見てもらう手もある。鑑別書と査定の違い、費用は拾った石のレポートで比べた。全部の石に要るわけではない。ここぞという一個だけでいい。
名前だけ知りたいなら、博物館の鑑定がある。糸魚川のフォッサマグナミュージアムは、鑑定日に配られる鑑定券(抽選)があれば、1人5個まで無料。15センチ以上の石、濡れた石や汚れた石は見てもらえず、郵送も受けない。河原でいちばんきれいなのは濡れた石なのに、窓口では断られる。
京都の益富地学会館は、事前に連絡すれば肉眼鑑定を頼める(30分以内で3,300円)。宝石として鑑別書がほしいなら、中央宝石研究所の基本料金が4,400円。名前を知るだけなら、前者で足りる。
⑩売る・譲る
値打ちを先に知りたいなら拾った石の価値を調べる方法へ。売る前に一つだけ。天然記念物の指定地や国立公園の特別地域など、法律で採取が禁じられた場所の石は、そもそも持ち帰れない。

名前が分からない石と、どう付き合うか
博物館の「鉱物の調べ方」には、色、条痕色、硬度、比重、割れ方、結晶の形、磁性など、18の項目が並ぶ。家でできるのは、その半分もない。
しかも河原の石の多くは、一つの鉱物ではなく、何種類もの鉱物が集まった岩石だ。名前が決まらない石が箱に残るのは、腕のせいだけではない。半分くらいは、と自分に言い聞かせている。
だから「未同定」は、負けの札ではない。条痕は白、硬さはガラスより上、磁石には付かない。分かった性質を書き足していけば、ラベルはちゃんと太っていく。名前は、いちばん最後に来る客だ。
よくある質問
Q. 磨かないまま保管してもいい?
問題ない。拾ったままの姿にも、記録としての値打ちがある。
Q. ブラックライトを当てると何が分かる?
光る石が分かる。ただし、光らない蛍石もある。光らないから違う、とは言えない。
石好き次郎から
私の棚にも、名前の分からない石が並ぶ。それでも捨てない。捨てた石に限って、あとで名前が分かる気がする。
磨いてつるつるになった石より、採集したときのままの石のほうが、私は好きだ。角の取れ方、表面の傷——それも、その日その場所で拾ったという記録の一部だから。
名前は、分かる日が来れば来る。来なくても、メモがあれば石はその日の河原を連れてくる。忘れるのは、いつもこっちのほうだ。
公式確認先
鑑定の受付条件や料金は変わることがある。この記事の事実は、次の資料で確かめた。
- 倉敷市立自然史博物館:条痕色
- 倉敷市立自然史博物館:モース硬度
- 倉敷市立自然史博物館:鉱物の調べ方
- 倉敷市立自然史博物館:岩石の密度
- 徳島県立博物館:磁鉄鉱
- 徳島県立博物館:黄鉄鉱
- 徳島県立博物館:方解石
- 徳島県立博物館:蛍石が光る
- フォッサマグナミュージアム:石の鑑定
- 益富地学会館:鑑定・分析に関するご案内
- 中央宝石研究所:宝石鑑別・グレーディング料金表
次にどの石を狙うか決めるなら、拾いたい石から日本を歩くから産地を引ける。

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