静岡で石を拾う——富士川・大井川・天竜川・伊豆、地質が生む多様な石

静岡の川(イメージ)

静岡で石を拾うなら、砂のガーネットは天竜川、南アルプスの赤いチャートは大井川、富士山の溶岩は富士川、火山の石は伊豆の海岸だ。

静岡は、一つの県にしては石の顔ぶれが多すぎる。

富士川・大井川・天竜川という三本の大河と、本州とは成り立ちの違う伊豆の海岸。この記事は、その入口だ。川ごと・エリアごとに、どこが面白いかだけを短く書く。

目次

静岡で石拾いができる場所一覧

エリア河原・海岸で目につく石地質のひとこと詳しい記事
富士川砂岩・泥岩・チャート・緑色岩/穴だらけの富士山の溶岩/安山岩・花崗閃緑岩糸魚川-静岡構造線が流域を縦断。三大急流。硯になる石も富士川の記事へ
大井川砂岩・泥岩が大半/赤褐色や淡緑色のチャート/濃い緑の緑色岩流域の大部分が四万十帯大井川の記事へ
天竜川チャートが多め/花崗岩・変成岩/砂にガーネット中央構造線が水窪・佐久間を通る。諏訪湖から遠州灘へ天竜川の記事へ
伊豆半島玄武岩・安山岩・凝灰岩など火山の石約2000万年前の海底火山が北上し、本州に衝突伊豆の記事へ
安倍川砂岩・泥岩が大半/蛇紋岩・緑色岩/花崗岩類源流に日本三大崩の大谷崩この記事の下で
狩野川火山岩・火山噴出物の石天城山系から北へ流れ、沼津で駿河湾へこの記事の下で

静岡の地質——なぜこれほど石が多様なのか

静岡の石がこれほど多様なのは、三つの地質が一つの県で重なるからだ。

フォッサマグナ・南アルプス・伊豆——三つの地質

ひとつは、日本を東西に分ける大断層帯フォッサマグナ。もうひとつは、南アルプス(赤石山脈)という高い山が生む大量の土砂。そして、南の海から北上して本州に衝突した伊豆半島。三つがそれぞれ別の石を持ち込むから、河原ごとに顔が変わる。

石好き次郎
地質図の静岡は、色鉛筆の箱をひっくり返したような色をしている。西から天竜川、大井川と安倍川、富士川、そして伊豆。地図の色が変わるたびに、河原の石も入れ替わる。

1平方メートルに100個——小学生が数えた4本の川

「川ごとに顔が変わる」を、本当に数えた人がいる。静岡市の小学5年生だ。段ボールで1メートル四方の枠を作り、天竜川・大井川・安倍川・富士川の河原で、枠の中の石を100個ずつ拾って調べた。山崎賞を取った研究だ。

結果は、きれいに割れた。大井川と安倍川は、堆積岩が95%。大井川は4本の中でいちばん種類が少なく、安倍川では蛇紋岩が目立った。

富士川には、富士山に近いぶん玄武岩が混じる。天竜川はチャートが3割ほどで、変成岩も2割近い。中央構造線の両側から石が集まるからだ。それが本人の結論だ。

大人が地質図をにらんで言うことを、枠と根気で確かめてしまった。100個を4回。こちらは1個拾って満足している。

富士川——フォッサマグナを流れる三大急流

富士川は、日本三大急流のひとつだ。フォッサマグナの西縁に沿って流れ、上流と下流で違う地質の石を運ぶ。硯の原料になる石で知られる場所もあるが、それは特定の場所の話。本流の河原で拾える石とは、分けて考える。硯の石の場所と本流の河原は、富士川の一本で分けて書いた。

源は、長野・山梨県境の鋸岳。糸魚川-静岡構造線という大断層が、流域を縦に貫く。地質は「複雑で脆弱」らしい。石好きの言葉に直すと、いろんな石が崩れて落ちてくる川、になる。

下流の河原で見られる石

下流の富士川橋あたりで河原の石の点呼をとると、大きく三つに分かれる。海の底から来た玄武岩・チャート・砂岩・泥岩。富士山の溶岩。そして陸の火山の安山岩や、花崗閃緑岩だ。

いちばん見分けやすいのは、富士山の溶岩だ。黒っぽくて、小さな穴がたくさんあいている。支流の芝川の流域から転がってくる。穴だらけの石を見つけたら、たぶん富士山の欠片だ。

大井川——南アルプスが運ぶ石

大井川は、南アルプスを源流に持つ。高い山が崩れてできた石が、長い距離を下って河原に届く。「越すに越されぬ大井川」と歌われたとおり、昔は人を通さなかった大河だ。いまは石好きを河原に通してくれる。源流から河口まで、川の表情が大きく変わる。

石好き次郎
大井川の赤いチャートの話を読むたびに、赤石岳の名前が気になる。石の色が山の名前になった川は、そう多くない。

赤いチャートと、緑の緑色岩

大井川の河原は、灰色だ。流域の大部分が四万十帯で、並ぶのはほとんどが砂岩と泥岩。地層の名前はいくつもあるが、覚えなくていい。

その灰色の中に、ときどき色がある。赤褐色や淡い緑のチャートは、放散虫という小さなプランクトンの殻が積もった石。濃い緑の緑色岩は、海底の溶岩が変わったものだ。灰色の河原で赤が目に入ると、手より先に足が止まる。

南アルプスの赤石岳。この名前は、赤石沢の赤いチャートから付いた。赤いのは酸化鉄のせいだ。山の名前を、沢に転がる石の色が決めた。石好きとしては、これ以上うれしい話はない。

下流の島田大橋の砂は、半分が石英だ。河口近くの丸い石と、上流の角ばった石を見比べると、運ばれた距離が手で分かる。

天竜川——砂にガーネットを探す

天竜川は、長野の諏訪湖から静岡の遠州灘まで流れる。この川の見どころは、砂に混じる赤いガーネットだ。白いトレイに砂をすくって水で洗うと、赤い粒が残ることがある。

中央構造線をまたぐ川

天竜川を大きく曲げているのは、中央構造線だ。県内では青崩峠から水窪、佐久間を経て浦川へ、まっすぐな谷が抜ける。川を曲げるほどの傷が、地面を一本走る。

構造線の北西側には花崗岩や片麻岩。南東側には結晶片岩、緑色岩、秩父古生層が並ぶ。天竜川は、この両側の石をまとめて下流に運ぶ。小学生の枠に変成岩が2割近く入ったのも、うなずける。

浜北大橋あたりの砂で、重い鉱物のうちいちばん多いのはチタン鉄鉱だ。トレイに残る黒い粒は、たいていこれ。赤い粒は、その黒の中に紛れる。黒ばかりの皿を見て、がっかりするのはまだ早い。黒の中から赤を拾い分ける手順は、天竜川の砂のガーネットで追える。

伊豆半島——本州とは違う、海底火山の石

伊豆は「よそ者」の大地だ。約2000万年前は南の海にいて、フィリピン海プレートに乗って北上し、本州にぶつかって今の半島になった。だから伊豆で拾える石は、玄武岩・安山岩・凝灰岩といった火山の産物で、本州の石とは生まれが違う。半島がどこから来たのかは、フィリピン海から来た半島の話になる。

海底火山の跡を見に行くジオサイト

伊豆半島は、まるごとユネスコの世界ジオパークだ。ジオサイトは15の市町に散らばる。石好きが見て楽しいものを、四つ選ぶ。

西伊豆の一色には、枕状溶岩がある。水の中に流れ出た溶岩が、枕の形で積み重なった断面だ。伊豆でいちばん古い時代の地層に入る。崖はもろい所があるので、近寄りすぎない。枕と呼んだ人の気持ちは、見れば分かる。本当に、枕が積んである。

同じ西伊豆の堂ヶ島では、海底火山の土石流の上に、白い軽石と火山灰の層が折り重なる。波がうがった天窓洞は、白い細かな凝灰岩でできた国の天然記念物だ。

南の爪木崎の俵磯では、柱のような岩が整然と積み重なる。溶岩が冷えて縮むときに割れてできる、柱状節理だ。中伊豆の浄蓮の滝にも、約1万7000年前の溶岩がつくった柱状節理がある。

四つとも、見る場所だ。拾う場所ではない。崖を叩くより、写真を一枚撮って帰るほうが、伊豆とは長くつきあえる。

安倍川・狩野川——街に近い川

静岡市を流れる安倍川、伊豆半島の付け根を流れる狩野川も、河原を歩ける川だ。大河ほどの規模はないが、街から近く、気軽に行ける。行く前に地質図で、その川がどんな山から石を運んでくるかを見ておく。それだけで、河原で拾う石の見当がつく。

安倍川——日本三大崩を背負った川

安倍川の源流には、日本三大崩のひとつ、大谷崩がある。崩れた岩は1億2000万立方メートル。川はそれを、今も少しずつ下へ運んでいる。

安倍川の礫も、三つに分かれる。蛇紋岩や緑色岩のような深い海の底の石、砂岩や礫岩、そして花崗岩類や火山岩。つやのある暗い緑の蛇紋岩は、手に取ると少しすべすべする。

狩野川——北へ流れる伊豆の川

狩野川は天城山系から北へ流れ、沼津で駿河湾に注ぐ。伊豆の真ん中から、本州の方へ向かう川だ。よそ者の大地の水が、せっせと本州に挨拶に行く。

まわりを囲むのは、箱根山・愛鷹山・富士山・天城山・達磨山。流域はほとんどが火山の石で、河原に転がるのも火山の石が中心になる。大井川の灰色の河原とは、材料からして別物だ。

石を見に行ける博物館

雨の日や、河原で拾った石の名前が分からない日は、博物館がいい。答え合わせは、本物の標本とするのがいちばん早い。

ふじのくに地球環境史ミュージアム(静岡市駿河区)

高校の校舎で、石を見る。旧県立静岡南高校を使った県立の自然史博物館で、展示室6「ふじのくにの成り立ち」に県内の岩石や鉱石、化石が並ぶ。考えてみれば、理科室の続きのような場所だ。

観覧料は、大学生以下と70歳以上なら無料だ。10時から17時30分(入館は17時まで)、月曜休館(祝日なら次の平日)。駐車場は無料だ。JR静岡駅北口から直通バスで約30分、大人450円。私はもう、どう見ても一般料金の顔だ。

伊豆半島ジオパークミュージアム ジオリア(伊豆市修善寺)

修善寺総合会館の中にある。伊豆半島がどう生まれ、どう動いてきたかを見せる施設で、入館は無料。9時から17時(入館は16時30分まで)、水曜休館(祝日なら翌平日)。ジオサイトを回る前に寄っておくと、崖の前で迷わない。

大河の増水と、拾ってはいけない場所

富士川・大井川・天竜川は、三大急流を含む大河で、水量が多く流れも速い。晴れていても上流の雨で増水する。晴れていても川は増水するは、出かける前に一度読んでおく。山あいや南アルプス側では、クマ・マムシ・ハチにも気を配る。大河の県では、石より先に水を見る。

拾ってはいけない場所は、ここだけ覚える

個人が手で拾うぶんには、法律で禁止された場所以外は気にしなくていい。静岡で気をつけるのは、富士箱根伊豆国立公園の特別地域だ。富士山と、伊豆半島の海岸や山の一部が入り、ここで土石を採るには許可が要る(自然公園法)。

もう一つは天然記念物。堂ヶ島の天窓洞のような場所は、石ころ一つ持ち出せない。ジオサイトの露頭も、叩いたり削ったりしない。私有地は持ち主のもの。それ以外の河原や海岸で、転がる石を手で拾うぶんには、構えなくていい。

拾っていい場所といけない場所のルールは石拾いのルールと危険にまとめてある。出かける前の準備は石拾いに行く前にで確認できる。

よくある質問

Q. 静岡で初心者におすすめの川は? A. 天竜川だ。白いトレイと水があれば、砂からガーネットを探せる。赤い粒が残れば当たり、と分かりやすい。火山の石を手に取りたいなら、伊豆の海岸もいい。本州と違う石が、足元にふつうに転がる。

Q. 河原の赤い石は、全部チャート? A. 全部ではない。ただ大井川や天竜川なら、チャートのことが多い。とても硬く、割れ口がガラスのように鋭いのが目印だ。

石好き次郎から

静岡は、一日では回りきれない。西の天竜川でガーネットを洗い、真ん中の大井川で南アルプスの石を拾い、東の富士川を眺め、伊豆で海底火山の石を手に取る。全部やろうとすると、静岡を端から端まで走ることになる。欲張るほど、河原にいる時間が減る。

だから欲張らなくていい。フォッサマグナ、南アルプス、ぶつかってきた伊豆。日本列島のでき方が、河原の石でそのまま分かる県だ。教科書の図を眺めるより、一個拾うほうが早い。小学生がもう、100個ずつ数えて証明してくれた。

石好き次郎
まず一本、近い川から行けばいい。天竜川のガーネットでも、伊豆の海岸でもいい。静岡の石は、一個では終わらない。二個目を拾いに、また同じ県へ来ることになる。

公式確認先

料金・開館時間・規制など変わる可能性がある情報は、次の資料で確認した。

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伊豆の石を、見るだけでなく手に取るなら河津の浜だ。白い石英にメノウが混じる菖蒲沢海岸は、ジオサイトの崖と違って拾っていい浜になる。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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