長野の黒曜石は、霧ヶ峰から和田峠にかけての峠道で出る。拾えるかは場所しだいで、縄文の採掘跡の星糞峠と星ヶ塔は国の史跡だから拾えない。峠に光る「星のかけら」の正体は、縄文人が黒曜石を掘ったときの割りくずだった。星が降り積もったと、土地では言い伝えられてきた。本当に降っていたのは、昔の作業場のくずだ。
長野は、黒曜石の県だ。3万年前から、ここの石が人の刃物になってきた。霧ヶ峰と和田峠の黒曜石は、割るだけで刃になる。研ぐ手間すら要らない。だから人は遠くから、この峠を目指した。長野の石拾いは、黒曜石とガーネットの二本立てで歩く。
黒曜石だけではない。天竜川沿いや川上村からは、ガーネットや水晶の報告もある。
拾える場所と、拾えない場所を分けて書く。最初に寄る価値がいちばんあるのは、拾えない場所のほうだったりする。

長野で石拾いができる場所一覧
| スポット名 | 採れる石 | アクセス | 料金 | 難易度 |
|---|---|---|---|---|
| 和田峠周辺(下諏訪町・長和町) | 黒曜石(遺跡と川は不可・ほかは土地による) | 長野道・岡谷ICから車30分ほど | 無料 | 中級 |
| 天竜川(伊那市・駒ヶ根市) | ガーネット(報告あり)・変成岩・チャート | JR飯田線・伊那市駅 | 無料 | 初級 |
| 釜沢川(白馬村) | ガーネット(報告あり)・変成岩 | JR大糸線・白馬駅から車20分 | 無料 | 中級 |
| 星糞峠(長和町) | —(史跡で拾えない・割る体験あり) | 中央道・諏訪ICから車で約45分 | 施設は有料 | 観察 |
| 諏訪湖周辺 | 黒曜石の転石 | JR中央本線・上諏訪駅 | 無料 | 初級 |
まず行きやすいのは、天竜川だ。河原が広く、駅から歩ける。ガーネットの報告もある。本当に拾えるのかは、天竜川の章で正直に書く。
黒曜石なら、和田峠のあたりになる。ただ、峠ならどこでも拾えるわけではない。長和町は、遺跡と川では黒曜石を持ち帰れないとはっきり書いている。いちばん気楽なのは、諏訪湖のほとりの転石だ。ただし数は少ない。黒曜石の県なのに、気安く拾える黒曜石は案外少ない。
星糞峠と、下諏訪町の星ヶ塔では拾えない。どちらも縄文人が黒曜石を掘った跡で、国の史跡だ。そのかわり星糞峠には体験施設があって、本物の黒曜石を割らせてもらえる。拾った一個より、たぶん長く覚えている。
長野の地質——なぜ黒曜石とガーネットが出るのか
長野の「県の石」は何か。岩石は黒曜石で、鉱物はざくろ石(ガーネット)。産地は、どちらも和田峠だ。
ガーネットといえば変成岩、が河原の常識だ。和田峠のざくろ石は、その外にいる。火山の流紋岩のすき間に、面のきれいな赤い粒が育つ。黒い石の隣に、赤い宝石が住んでいる。
黒曜石のほうは、流紋岩質のマグマが急に冷えてガラスになったものだ。
マグマがゆっくり冷えると、結晶ができる。急に冷えると、原子が並ぶ暇がない。並びそこねたまま固まったのが、ガラスだ。
和田峠の黒曜石を生んだ噴火は、100万年前後の昔のことだ。年代は資料によって数十万年ずれるので、細かい数字はここでは書かない。人が拾いはじめたのは、3万年前から。石から見れば、人はつい最近来た客にすぎない。
河原のガーネットは、もう一つの国の話になる。県の南を、中央構造線に沿って変成岩の帯が走る。外側には埼玉・群馬から続く三波川変成帯、内側の伊那谷には領家帯の岩がある。
三波川は高い圧力で、領家は高い温度で、岩が焼き直された帯だ。焼き直し方はちがっても、どちらの岩にもガーネットは育つことがある。河原の赤い粒が、どちらから来たのか。粒は名乗ってくれない。
だから同じ長野でも、場所で出る石が違う。火山のほうでは黒曜石、変成帯のほうではガーネット。一つの県の中に、石の国が二つある。赤い粒だけは、どちらの国にも顔を出す。ややこしい。そこが面白い。
県の西の縁を、糸魚川-静岡構造線が通る。フォッサマグナの西の端だ。この断層が長野の石をどう分けたかは、長野の石とフォッサマグナの一本で追える。
和田峠——三万年、選ばれ続けた黒曜石
和田峠のあたりは、旧石器時代から続く黒曜石の産地だ。車も電車もない時代に、この峠の石は300キロより先まで運ばれた。どうやって。
答えは、人の手だ。長野の黒曜石は、関東一円の遺跡から出てくる。さらに遠くの遺跡まで渡った石もある。手から手へ、峠の石が遠くへ歩いていった。
どこの石か分かるのは、ごく微量の元素の組成が産地ごとに違うからだ。和田峠産と霧ヶ峰産も、成分で区別できる。石のほうが、人よりよほど正直に出身を名乗る。
黒曜石は、割ると貝殻のような曲面が出る。コンコイダル破断という。舌をかみそうな名前だが、要は断面が鋭い、ということだ。
黒曜石の見分け方
黒い石を拾ったら、光沢を見る。ガラス質で、割れた面が鋭ければ有力だ。
次に、光にかざす。縁が透ける。厚いと透けないが、薄い破片なら光を通す。
硬度は5〜5.5。ナイフの刃とほぼ同じ硬さで、こすると傷がつくこともある。水晶よりは柔らかい。
割れたガラス瓶と間違えることがある。黒くて光れば、まず期待する。石好きの目は、だいたい甘い。角が取れて丸くなったガラスは、黒曜石に似る。
迷ったら、面を見る。表と裏が平らで、厚みがそろっていれば、瓶のかけらだ。黒曜石は、どの向きに割れても貝殻のような曲面が出て、厚みもまちまちになる。
峠道で黒曜石はどう見えるか
峠道の黒曜石は、黒く光るとは限らない。地面に長く転がっていた欠片は、表面がくもって、灰色のすりガラスのようになる。目印は割れ口だ。新しく欠けた縁だけが、そこだけ急に黒く光る。雨のあとは泥が流れて、その縁を見つけやすい。
黒い粒がやけに目につく斜面に出ることもある。そういう場所は、たいてい昔の人の作業場だ。つまり遺跡で、拾えない。拾いたくなる場所ほど、拾えない。石の見分けより、土地の見分けのほうがよほど難しい。

星糞峠——採集はできないが、黒曜石を割れる
長和町の星糞峠には、拾えない代わりに、割れる場所がある。
「黒耀石体験ミュージアム」に入れば、本物の黒曜石を割れる。
石器づくりの体験もできる。3万年前と同じ方法で、刃を作る。
石を持って、打つ。狙った方向に、まず割れない。もう一度打つ。やっぱり割れない。縄文人の腕がどれだけ確かだったか、頭より先に手が納得する。
ここで割れ方を手で覚えてから和田峠へ行くほうがいい。河原で黒い石を拾ったとき、どこが刃になるかが分かる。割る手順と峠の縦穴は、星糞峠で石器づくりの一本で順に追える。
人は三万年、黒曜石を求めてきた——星糞峠に残る縄文の鉱山
星糞峠の森の地面には、直径10メートルほどのくぼみが200ほど並ぶ。全部、縄文人が黒曜石を掘った穴の跡だ。日本でも数少ない石器時代の鉱山で、国の史跡でもある。
「星糞(ほしくそ)」は、この地方で黒曜石を指す方言だ。峠に光る石が散らばり、星のかけらが降り積もったと言い伝えられてきた。私はこの名前がかなり好きだ。宝石みたいに光る石に、平気で糞と付ける。その遠慮のなさに、毎日この石を踏んで暮らした人の目が見える。
なぜそこまでしたのか。金属のない時代、割った黒曜石は外科用のメスより鋭い刃物だった。そんな刃が、山に埋まっていた。だから人は標高1500メートルの峠まで登り、穴を掘った。
穴の一つは、「星くそ館」で断面ごと見られる。星くそ館が開くのは5月から11月までだ。地下5メートルに、土砂崩れを防ぐ木の柵が当時のまま残っていた。採掘の無事を祈った、漆塗りのお守りまで出ている。石のために穴に入り、無事を祈った人たちだ。石好きの後輩として、頭が下がる。
拾えないと分かっていても、峠道では足元ばかり見てしまう。石好きの癖は、史跡でも抜けない。
天竜川——ガーネットの報告がある河原
天竜川は、諏訪湖から始まる。湖を出て伊那谷を南へ下り、太平洋まで行く。伊那のあたりの河原は、その途中だ。
河原で1〜3ミリの赤い粒が見つかった、という報告がある。変成岩に入るガーネットだ。ただ、安定して見つかるとまでは、私はまだ確かめていない。粒が小さく、チャートの赤い部分とよく見間違える。
どこの岩から来た粒かは、言い切れない。はっきりしているのは重さだ。比重が4あるので、流れが緩む場所に沈む。
流れの速い真ん中じゃない。見るのは、カーブの内側だ。流れが遅くなって、重い粒が溜まる。水に入るなら、その前に足場を確かめる。川底の石は、見た目よりよく動く。
しゃがんで、砂を白いトレイに載せる。赤い粒が、白の上に浮く。トレイは100円で買える。これがないと、砂の中のガーネットはまず見えない。安い道具で、目が一段よくなる。
伊那市駅から歩ける河原がある。天竜川の河原は、白っぽい花崗岩と黒っぽい変成岩がまじって、遠目には全体が灰色だ。その灰色の中で赤を探す。乾いた石の上では、赤い粒も茶色にくすむ。だから水際で、濡れた砂をすくう。
赤い粒とチャートの見分けや、粒が溜まる場所は、天竜川のガーネットでもっと細かく追った。ほかの県の赤い粒と見比べるなら、全国のガーネット産地が早い。
釜沢川——白馬村のガーネット
スキー場で知られる白馬村にも、赤い粒の噂がある。北アルプスの東のふもとを流れる、釜沢川だ。
ここにもガーネットの報告がある。天竜川より粒が大きい、という声もある。
JR大糸線・白馬駅から車で20分ほどだ。山あいなので天気が変わりやすく、夏でも冷える。雨具は持つ。
冬は雪で入れない。11月から4月は、林道が閉鎖されることがある。雪の林道で引き返すのは、石が出ない日よりこたえる。開いているかどうかは、出る前に調べる。
諏訪湖周辺——黒曜石の転石
諏訪湖のほとりでも、黒曜石の転石が見つかることがある。霧ヶ峰から流れ出たものだ。
ただし数は少ない。確実さを取るなら、和田峠へ行く。
JR中央本線・上諏訪駅から歩ける範囲に、河原や岸辺がある。湖の黒曜石は、波と砂にもまれて角が取れ、つやの消えた黒い小石になる。見た目は、そこらの黒い石とほとんど変わらない。拾ったら日にかざす。縁がうっすら透ければ、当たりだ。
諏訪大社が近い。御柱祭で知られる神社だ。石を見に行くついでに寄れる。ついでのほうがずっと立派なのは、気にしないでおく。
拾った黒曜石をどうするか
黒曜石は、刃物のくせに割れやすい。新聞紙で一個ずつ包む。
洗うのは、水とブラシだ。柔らかいので、金属ブラシは使わない。
持ち帰ったら、一個ずつ透明な袋に分けて入れる。ぶつかると欠ける。
割った断面は、鋭い。子どもに触らせるときは、先に大人が縁を確かめる。本当に手を切る。
磨かなくていい。もともと光沢がある。割れたままの面が、いちばん黒曜石らしい。
産地と拾った日のラベルを付ける。黒曜石は、産地まで分かる石だ。店先でも同じで、産地の書いていない石は、話が半分で終わる。
拾っていい場所・だめな場所と、季節と道具
決まりの話は、ここにまとめる。拾えないのは、星糞峠と下諏訪町の星ヶ塔。どちらも国の史跡だ。長和町は、遺跡と川では黒曜石も石器も持ち帰れないと書いている。打ち欠いた跡のある石は、どこで見つけても置いていく。
和田峠のあたりは、国有林・県有地・私有地がまだらに入り組む。見た目はどれも同じ山だ。拾うつもりで入るなら、土地のことを長和町か下諏訪町に聞いてからにする。ここだけは面倒がらない。
北アルプスは国立公園、八ヶ岳や霧ヶ峰は国定公園に入る。公園の特別地域では、石は持ち出さない。天竜川や諏訪湖のほとりのような、ふつうの河原で趣味の石を少し拾うぶんには、手続きは要らない。
季節と気候
季節は、山と川で分けて考える。和田峠と釜沢川は、5月から10月。天竜川は標高が低く、冬も入れる。むしろ水の減る10月から4月のほうが、河原が広く出て歩きやすい。
夏の山は、天気が変わりやすい。午後に雷雨が来ることがある。早めに切り上げる。夏は、私は必ず帽子をかぶる。頭が煮えると、判断から先に鈍る。
必要な道具と服装
要るのは、軍手、袋、ルーペ(10倍)、濡れてもいい靴だ。ガーネットを探すなら、白いトレイとパンニング皿が要る。トレイや皿の選び方は、石拾いの道具の一本で比べられる。赤のほかに皿へ残る粒は、重い鉱物の正体で見当がつく。
熊が出る地域がある。熊鈴を持つ。一人で奥まで入らない。虫のいる沢では、暑くても袖はまくらない。
長野での石拾いに関するよくある質問
Q. 子どもと行ける?
A. 天竜川なら河原が広い。星糞峠のミュージアムも子ども向けだ。和田峠は山道なので、小さい子には向かない。
Q. 長野の次はどこへ?
A. 変成岩のガーネットなら、埼玉の長瀞。水晶なら、山梨・甲府の荒川だ。荒川は花崗岩の川で、長野の峠とはまるで違う石が出る。

長野のほかの都道府県のスポットは、47都道府県から探すから選べる。
川原で拾った石が何なのか気になったら、川原で拾える石の種類一覧で色や模様から見分けられる。
石好き次郎から
黒曜石は、急いで固まったせいで刃物になった石だ。急いだものほど鋭い。人間だと、たいてい逆になる。
縄文の人は、良い石にかける手間を惜しまなかった。値段の話ばかりの今より、よほど石を分かっていたのかもしれない。今の私に、その根気があるかは怪しい。
長野は、火山と変成帯を両方持つ欲張りな県だ。全国の黒曜石産地は日本で黒曜石が拾える場所にまとめている。冬のあいだ、峠は雪で閉じる。天竜川の河原なら入れる。雪が解けたら、次は和田峠だ。黒い石より先に、流紋岩のすき間の赤い粒を探してしまいそうだ。

公式確認先
行き方や料金のもとにしたページを置いておく。変わっていたら、こちらが正しい。
- 黒耀石体験ミュージアム アクセス
- 黒耀石体験ミュージアム
- 日本地質学会:「県の石」中部・甲信越(長野県)
- 文化遺産オンライン:星糞峠黒曜石原産地遺跡
- 黒耀石体験ミュージアム:星くそ館
- 長和町観光協会:長和町黒耀石・縄文文化に触れる
- 長野県:長野県の自然公園の紹介
最終公式確認:2026年7月23日



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