栃木・那珂川町の武茂川では、砂金とガーネットが拾える。日本で最初に金が出た土地。その名乗りを上げる町が、二つある。宮城の涌谷と、栃木の那珂川町だ。
涌谷には、奈良の大仏のために金を献じた記録が、国の正史に残る。那珂川町は、東大寺の古い記録に下野の金が出てくる、と返す。どちらが先かは、ここでは決めない。決める力もない。
那珂川町を流れるのが、武茂川だ。ただし砂金は、米粒より小さい。金色の粒が皿の底に一つ二つ残る、それが半日の答えになる。
簡単ではない。揺り板を半日振って、金が出ない日もある。だが、この川には確かに金がある。大仏の時代の名残が、今も川底に沈んでいる。
派手さのない川だ。背負う歴史だけが、やけに重い。

| 場所 | 栃木県那珂川町・武茂川(那珂川の支流) |
|---|---|
| 採集可否 | 可。個人の範囲。増水時・雨後は川に近づかない |
| 子ども向け | ○ 浅くて流れの緩い場所で。目を離さない |
| 最終確認日 | 2026年7月 |
場所と料金は、記事の終わりの表にもう一度置いた。
武茂川で何が採れるか
皿の底に残る色は、二つ。金と、赤だ。武茂川は那珂川町を流れて那珂川に合流する支流で、この水系は古くから砂金の産地として知られる。赤のほうはガーネットだ。本流の那珂川から鬼怒川・大芦川までは、栃木の清流の記事で川ごとに並べた。武茂川が流れ込む先、本流の河原は那珂川で石拾いへ。
アクセスは車が現実的だ。東北自動車道の矢板ICか西那須野塩原ICが入口で、一般道を40分ほど走ると那珂川町に入る。公共交通なら、JR宇都宮線の西那須野駅から馬頭車庫行きの関東自動車のバスが町の中心へ通じる。本数は少ない。時刻を調べずに行くと、河原よりバス停にいる時間のほうが長くなる。
| 採れるもの | 見た目 | 採り方 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| 砂金 | 金色の微細な粒。米粒より小さいことが多い | 揺り板・パン皿で砂を洗う | 高い |
| ガーネット | 赤〜赤褐色の小さな粒。角ばる | 砂を平らに広げて拾う | 中 |
| チャート・石英 | 白〜灰色の硬い石 | 河原で目で探す | 低い |
本命は砂金。ただし量には期待しない。半日で一粒から数粒、それも粉のような大きさだ。ガーネットのほうがずっと見つけやすい。初めての日は、赤い粒で目を慣らしてから金に行く。順番を逆にすると、たいてい金より先に心が折れる。
出る金は、髪の毛より細い金片か、砂粒ほどの粒がほとんどだ。まとまった塊は、まず出ない。だからこの川では、重さで数えない。皿の底で一回光るたびに、一つと数える。買った金より軽い。そのくせ、買った金よりよく覚えている。
皿の中で光るものが、全部金ならいい。実際は、ぎらつく粒の大半が雲母だ。雲母は皿を傾けると光が消え、指で押すと薄くはがれる。金は傾けても鈍い黄色のまま、底から動かない。派手なほうを疑う。それだけで、ぬか喜びが半分に減る。
なぜ武茂川で金が採れるのか——地質と歴史
川の砂金の出どころは、上流の岩だ。金を含んだ岩が崩れ、川がそれを下へ運ぶ。金は重いので、流れがゆるんだ所で真っ先に沈む。武茂川の金も、同じ道を下ってきた。理屈はこれで全部だ。あとは足で探す。
冒頭の東大寺の記録に出てくる下野の金も、那珂川町の一帯で採れたと伝えられる。もう一方の涌谷の言い分は、奈良の大仏を作った金で聞ける。
武茂川を見下ろして、健武山神社が建つ。この地の砂金が国の役に立ったとして、朝廷は位を贈った。人ではなく、川の上の神さまが出世したわけだ。
那須の砂金には、「ゆりがね」という呼び名があったらしい。揺って採る金。名前が、そのまま採り方の説明だ。今日の皿に残る一粒も、千年続いた列の、いちばん後ろに並んでいる。
金を出した土地は日本中にあった。多くは掘り尽くされ、鉱山も閉じた。武茂川に今も金が残るのは、川が上流の岩を削るのをやめないからだ。人の金山は店じまいしても、川のほうは休まず金を運んでくる。店じまいしない川は、歴舟川から球磨川まで日本の砂金の川にまだある。
砂金の採り方——パンニングの実際
砂金を採る道具はシンプルだ。揺り板かパン皿、砂をすくうスコップ、そして採れた金を入れる小瓶。この三つがあれば始められる。道具の揃え方は石拾いの道具ガイドに書いた。
揺り板は木の板を斜めに使い、大量の砂を手早くさばける。パン皿は金属や樹脂の丸皿で、最後の選別に向く。多くの人は、揺り板で砂を減らし、残りをパン皿で仕上げる。川底の岩の割れ目から、爪状の道具カッチャで砂を掻き出すと、そこに沈んだ金が出やすい。
狙う場所は、川の流れが緩むところだ。カーブの内側、大岩の下流、川底が段になった所。まずはそこの砂を、少し深めにすくう。
雨の翌日は、行かないほうがいい。水が濁って底が見えず、揺っても砂ばかりになる。増水した川は、砂も金もかき混ぜてしまう。晴れが続いて、水が澄むまで待つ。川の機嫌を読むのも、砂金採りのうちだ。
砂をすくったら、水の中で皿を回しながら軽い砂を流していく。金は重いので底に残る。何度も繰り返し、砂を少しずつ減らす。最後に皿を止めて、そっと傾ける。皿の縁に、金色の細い帯が残れば当たりだ。
揺り方の3つのコツ
- 流れの緩い場所の砂を狙う(金は流れが弱い所に沈む)
- 最後の一振りは弱く(強く回すと軽い金まで飛ぶ)
- 皿を水面から出さずに傾ける(乾くと金が張りついて見えなくなる)
よくある間違い
いちばん多い勘違いは、黄鉄鉱だ。角ばって光り、押すと砕ける。砂金は角がなく、押しても割れずに曲がる。皿の中で何か光ったら、喜ぶ前に形を見る。丸ければ金の見込みが高い。喜ぶのは、そのあとでいい。
重砂——黒い砂が金の合図
砂を揺っていくと、皿の底に黒い砂が残る。これは砂鉄で、金ほどではないが砂よりずっと重いので最後まで残る。この黒い砂を重砂と呼ぶ。重砂が皿にたまり始めたら、金が近い合図だ。逆に、いくら揺っても黒い砂が出ない場所は、金も期待できない。
川で金まで見分けるのは難しい。だから、重砂だけを小さな袋に取って持ち帰る手がある。家で乾かし、磁石を近づけると、砂鉄は磁石につき、金はつかない。砂鉄を抜いた残りをルーペで見る。川で全部を終わらせず、家で仕上げる。これが数粒を取りこぼさないコツになる。黒砂に何が混じるかはパンニング皿の底で。
岩盤の割れ目を狙う
川底が岩盤の所では、割れ目を狙う。流されてきた金は、岩の隙間に落ちると抜け出せない。長い年月ぶん溜まるから、割れ目の底の砂を掻き出すと、思わぬ量が出ることがある。砂の下の岩を意識するだけで、皿の中身が変わる。

ガーネットの拾い方
ガーネットは、砂金よりずっと素直だ。武茂川の砂を平らな皿に広げ、水をかける。それだけで赤い粒が顔を出す。
ガーネットも重い鉱物だ。だから金を狙って振った皿の底に、赤い粒が勝手に混じってくる。金が出なかった日の、残念賞のようなものだ。硬さもあるので傷がつきにくく、標本にも向く。
皿の底の赤は、日なたと日陰で別の石に見える。日陰では黒っぽい粒にしか見えない。日なたに皿を傾けると、奥からワインのような赤が透ける。拾うかどうか迷ったら、空にかざす。透けた粒だけ小瓶に入れればいい。この赤をほかの川でも見たくなったら、日本のガーネット産地へ。
見分ける3つのポイント
- 色——赤から赤褐色。濡らすと透けて見えることがある
- 形——角ばった粒。丸い石英とは形が違う
- 硬さ——硬く、爪では傷がつかない
赤いチャートの欠片は、ガーネットとよく取り違える。濡れた赤には、誰でも一度はだまされる。違いは透明感だ。ガーネットは光を通し、濡らすと内側が赤く光る。チャートは濡れても濁ったままだ。並べて見ると、すぐ分かるようになる。
初めてなら——なかがわ水遊園と周辺
川に立つ前の練習なら、なかがわ水遊園の砂金とり体験がある。水遊園は那珂川のほとりの淡水魚の水族館だ。その水遊園が武茂川で「川で本物砂金とり体験」を開く日がある。申し込み制で、増水や雨で川に入れない日は、なす風土記の丘資料館での疑似体験に切り替わる。
案内には「運が良ければ、本物の砂金がとれるかも」とある。かも、で止めてあるのが正直でいい。川の砂金に、保証の二文字はない。日程や料金は年ごとに変わるので、出かける前に水遊園の案内を見ておく。
時間があれば、水槽で那珂川の魚を先に見ておく。皿を揺る手元を横切る小さな影の名前が、一つくらいは分かるようになる。
子供と行くなら、砂金より先にガーネット探しをさせるといい。赤い粒はすぐ見つかり、達成感がある。私も子供を連れて行くと、金が出るより前に「赤いのあった」と喜ぶ。手を動かしてすぐ答えが出る石は、子どもに強い。浅くて流れの緩い場所を選び、目を離さない。それだけ守れば、川は子供にとって一番の遊び場になる。砂金が一粒でも出れば、その日は大成功だ。
武茂川に入る前に——場所・水量・服装
拾っていい場所
ふつうの河原で、個人が手で拾う程度なら問題はない。気をつけるのは土地のほうだ。川に接する土地が私有地や田畑のことがある。護岸工事の区域や立入禁止の表示がある場所には入らない。
季節と水量の確認
砂金採りは水に入る作業だ。水は思うより速く、冷たい。夏でも、半日水に手を入れていれば、指先から冷えてくる。晴れて水量が落ち着いた日を選ぶ。
道具と服装
濡れてもいい靴、着替え、帽子。夏は日差しが強い。砂金採りは前かがみが長いので、腰のためにも休憩はこまめに取る。金より先に、腰が音を上げる。虫と、川沿いの野生動物への備えも、一応は持っていく。
武茂川での石拾いに関するよくある質問
採れたガーネットは宝石になる?
ならない、と先に言っておく。武茂川のガーネットは小さく、宝飾品になる大粒はまず出ない。鉱物標本として楽しむものだ。透明感のある一粒が出たら、洗って手元に残す。指輪にはならないが、話の種にはなる。
一人で行っても大丈夫?
私は基本的に一人で行く。ただし川での一人作業には気をつける。増水や足を滑らせたときに助けがない。行き先と帰る時間を家族に伝え、深みには入らない。無理をしなければ、一人でも静かに楽しめる川だ。
拾った砂金と石をどうするか
砂金は、家に帰ったらまず水で洗い、砂を落とす。細かい粒なので、皿の上でそっと扱う。乾いたら小瓶に移す。この量を溶かして地金にする人はいない。武茂川の砂金は、金塊ではなく「自分で川から出した記録」として残すものだ。
ガーネットは、ブラシと水で泥を落とす。洗剤は使わない。透明感のある粒は、研磨して標本にしてもいい。磨くなら番手を飛ばさず、粗い番手から順に上げる。飛ばすと傷が残る。
そして、どちらも必ず記録する。産地は武茂川、採集日はその日。紙に書いて瓶や袋に添えるだけでいい。これがないと、金色の粒も赤い粒も、ただの砂粒に戻る。記録が、石を標本に変える。

石好き次郎から
結局、パンニングは重さ比べだ。金は水の十九倍重い。砂が先に流れ、金は最後まで皿にしがみつく。理屈はそれだけなのに、手が覚えるまでが長い。
最初のうちは、たいてい揺りが強すぎる。結果を早く見たい手が、金まで一緒に流してしまう。私も、皿を持つと気が急く。急く手を落ち着かせる揺り方は、皿を回す砂金の採り方で手順にした。
金塊は出ない。そこは最初から諦めていい。代わりに、千年前の誰かと同じ川で、同じ動きを繰り返す半日が手に入る。皿の底に残る一粒二粒は、その半日の領収書だ。
一番乗りの名乗りは、町に任せておく。
スポット情報まとめ
| 場所 | 栃木県那珂川町・武茂川(那珂川の支流) |
|---|---|
| 採れる石 | 砂金・ガーネット |
| 難易度 | 中級(パンニングに慣れがいる。ガーネットは初心者向け) |
| 料金 | 無料 |
| Googleマップ | 地図・経路を開く |
| 最終確認日 | 2026年7月 |
公式確認先
- 那珂川町観光パンフレット
- 那珂川町|史跡のご案内(馬頭)古代産金の里と健武山神社
- とちぎ旅ネット|健武山神社
- 涌谷町|奈良の大仏と涌谷の金
- CiNii|那須のゆりがね:産金の歴史(栃木県立なす風土記の丘資料館)
- なかがわ水遊園|川で本物砂金とり体験

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