菱マンガン鉱(ロードクロサイト)は、マンガンの炭酸塩でできた桃色から赤の鉱物で、磨いたものが「インカローズ」の名で売られる。その同じ石が、日本でも青森の尾太(おっぷ)鉱山や北海道の稲倉石鉱山から、鮮やかな桃色で出ていた。アルゼンチンの銘石と同じ鉱物が、東北と北海道の山の中にいたわけだ。
ただし、どれも閉山した鉱山だ。いま新しく採れる石ではない。会えるのは、鉱山が動いていた時代に掘られ、人の手を渡ってきた標本だけになる。
菱マンガン鉱(ロードクロサイト)とは
菱マンガン鉱は、マンガンを含む炭酸塩の鉱物だ。化学組成はMnCO3、硬度は3.5〜4。日本名の「菱」は、結晶が菱形になることから付いた。英名のロードクロサイトは、ギリシャ語の「薔薇色」から来た。見ればわかるが、名付けた人は迷わなかったと思う。
色は、混じりものの量で変わる。鉄やカルシウムが少ないほど鮮やかな桃色から赤に寄り、多いと白っぽく、褐色にくすむ。宝石に磨かれて「インカローズ」の名で店に並ぶのは、その桃色がきれいに出たものだ。白や茶色のほうは、たいてい名前も呼ばれずに終わる。
硬度は低く、傷つきやすい。日本産は、ぶどうの房のような丸い塊(腎臓状)で出ることが多く、透明感のある赤い結晶や、花のような形の標本も知られる。指にはめる石というより、棚に置いて眺める石だ。

日本の代表産地——すべて閉山した鉱山
日本の菱マンガン鉱は、金属を掘る鉱山の中から出てきた。代表は、青森と北海道の山だ。
| 産地 | 特徴 | 現状 |
|---|---|---|
| 青森・尾太鉱山 | 世界的に人気の”Oppu mine”。ぶどう状の良質な結晶 | 1978年頃 閉山 |
| 北海道・稲倉石鉱山 | 国内有数のマンガン鉱山。日本の代表産地 | 閉山 |
| 北海道・八雲鉱山ほか | 硫化鉱物を伴う菱マンガン鉱 | 閉山 |
とくに青森県西目屋村、白神山地の中にあった尾太鉱山は、海外の収集家にも人気が高い。標本のラベルでは「Oppu mine」で通る。近世には銀や銅を、昭和期には鉛や亜鉛を掘った鉱山で、石油危機のあと不振になり、1978年に閉じた。山奥の鉱山の名前が、ローマ字で世界の標本棚に並ぶ。
「操業時代の産出品」が今も伝わる
市場で見かける日本産は、どれも操業時代に掘られたものだ。尾太の良品は、いまも高く取引される。数が増えない石の値段は、そうそう下がらない。
日本の桃色は、インカローズとは顔がちがう
アルゼンチン産のインカローズは、縞模様の入った宝石として有名だ。日本産は顔がちがう。ぶどう状の塊、黄鉄鉱を連れた結晶、水晶と一緒に咲いた花のような標本。縞の美しさなら向こう、形のにぎやかさならこっち、というところだ。
北海道の稲倉石鉱山産は「シャコタンローズ」とも呼ばれ、鮮やかな桃色で知られた。土地の名前を背負った愛称が付くのは、それだけ欲しがった人が多かったということだ。

日本産の菱マンガン鉱を見るには
会うなら標本としてだ。鉱物ショー、標本を扱う店、博物館の鉱物展示で出会える。
尾太の良品は値が張る。いきなり買うより、まず博物館やミネラルショーで本物を何個か見ておく。桃色の幅を目に入れておけば、値札の高い安いが自分で読めるようになる。
よくある質問
Q. 尾太鉱山や稲倉石鉱山で、今も菱マンガン鉱は採れる? A. 採れない。どちらも閉山し、跡地は私有地や立ち入りの制限された場所だ。
青森でもう一か所回るなら、行き先は青森の石拾いから選ぶ。
石好き次郎から
日本にインカローズがあったと知ったときは、素直に嬉しかった。地味な石ばかりと思われがちな日本の山が、世界の収集家が欲しがる桃色を出していた。こっちの山も、やるときはやる。
ただ、その山はもう閉じた。いま見られるのは、誰かが捨てずに持っていてくれた分だけだ。拾うのが好きな人間としては、残す側の仕事にも頭が下がる。


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