石の中に桜が咲く——京都・亀岡の桜石と「仮晶」の不思議

桜石(イメージ)

京都・亀岡の桜石は、断面に六枚の花びらのような模様が出る石だ。花の正体は、菫青石(きんせいせき)という鉱物の結晶の形。割ると中から桜が出てくる石。話だけ聞くと、できすぎだ。

もちろん本物の花ではない。約9300万年前の地下でできた、六角形の結晶模様だ。しかも中身は、もう菫青石ですらない。そこがこの石のいちばん面白いところで、順に書く。

目次

桜石とは——石の中の六枚の花びら

桜石は、正式には「薭田野(ひえだの)の菫青石仮晶」という。京都府亀岡市薭田野町の柿花地区から湯の花温泉にかけての、およそ2キロメートル四方の狭い地域でだけ産出する。形は六角柱で、断面は5〜10ミリ、長さは10〜30ミリほど。ときに淡いピンクを帯びる。小指の爪くらいの桜だ。

項目内容
正式名称薭田野の菫青石仮晶
産地京都府亀岡市薭田野町(約2km四方)
もとの鉱物菫青石(アイオライト)
できた時代約9300万年前(白亜紀)
指定1922年 国の天然記念物/2016年 京都府の石

もとになった菫青石は、英語でアイオライト。青みを帯びたすみれ色のケイ酸塩鉱物で、名前も「菫の青」から来ている。青い鉱物が、桜色の花の石になる。名前から中身を当てようとしたら、まず外す。

なぜ石の中に桜が咲くのか

できたのは約9300万年前、恐竜がいた中生代白亜紀。地下から上がってきた高温の花崗岩マグマが、泥岩や粘板岩に触れた。その熱で泥岩の成分(マグネシウム・アルミニウム・ケイ素など)が再結晶し、菫青石の結晶が生まれた。恐竜の足の下で、花の支度が始まっていたことになる。

菫青石の結晶が三つ組み合わさった双晶になると、全体が六角柱になり、断面が六枚の花びらの形になる。これが桜に見える正体だ。誰も桜に似せようとはしていない。結晶の決まりごとが、たまたま桜の形に落ちた。偶然にしては、花の選び方がうますぎる。

「仮晶」——形は残して、中身が入れ替わった石

桜石をもう一段ふしぎにしているのが「仮晶(かしょう)」だ。外側の形を保ったまま、中身だけが別の鉱物に入れ替わること。桜石では、もとの菫青石が長い年月のあいだに絹雲母や緑泥石へ変わった。形は菫青石の六角柱のまま、中身は別物だ。宝石として出回る透明なアイオライトとも、もう違う石になる。

つまり桜石は、菫青石だったころの形の抜け殻だ。入れ物の形だけが、9300万年ぶん生き残った。

石好き次郎
石が形はそのままで中身だけ入れ替わる、というのが最初はうまく飲み込めなかった。でも桜石を見て腑に落ちた。骨格だけ残して、材料が全部差し替わった建物みたいなものだ。自然は、そういう気の長いことを平気でやる。

桜石は採れるのか——国の天然記念物

自分で割って桜を出してみたい。そう思うのが石好きだ。でも、ここははっきり書く。桜石の名所は、1922年(大正11年)に国の天然記念物に指定された。ここでは採れない。

とくに有名な桜天満宮(積善寺)の裏山・天神山は、かつて地表に桜石の破片が多数見られたことから指定された。今は境内で桜石が見つかることはほとんどなく、背後の山に入るにも寺の許可がいる。拾う場所ではなく、拝む場所だと思っておく。

石好き次郎
日本の面白い石には「あるけど採ってはいけない」ものが多い。桜石もそうだ。悔しいが、それでいい。採り尽くされて消えるより、誰でも見られるほうがいい。

桜石はどこで見られるか

採れないなら、見に行けばいい。桜石の実物は、亀岡市役所の1階エントランスホールに展示されていると紹介されることが多い。遠くから行くなら、今も置いてあるかを市に聞いてから出ると空振りしない。5〜10ミリの花だ。顔を近づけて見る。

亀岡には保津川もある。チャートなどの石を観察できる川で、河原歩きは保津川でチャートは拾える?にまとめた。採れない桜を見たあとで、拾える石の河原に降りる。この順番なら、石好きの気が済む。

京都のほかの川原なら、木津川も鴨川も京都の石拾いスポットに並べてある。

よくある質問

Q. 桜石は買える? A. 流通はある。指定範囲の外や、過去に採集された標本が、鉱物標本として出回ることがある。数は限られる。

石好き次郎から

桜石を知ったとき、石の中に季節がしまってあるようで、いいなと思った。恐竜の時代に、桜の形の石が黙ってできていた。花見の歴史より、だいぶ長い。

しかも中身は、とっくに入れ替わった。石は固まったら終わり、ではない。何千万年もかけて、ゆっくり姿を変える。それを拾えない石に教わるのは、少し悔しい。

石好き次郎
採れない石は、見に行くしかない。顔を近づけて、花びらが本当に六枚あるかを数えて帰る。
石好き次郎のおすすめ
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桜石は、拾えない石だ。次は手に取れる石を、欲しい石の名前から選ぶ。拾いたい石から日本を歩くで、水晶やメノウの行き先が引ける。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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