北海道に、ゴールドラッシュがあった。明治31年、道北のウソタンナイ川で砂金が見つかると、わずか5ヶ月で全国から5万人が押し寄せた。枝幸一帯で採れた金は、推定2.6トンと言われる。
鉱山は昭和29年に閉じた。だが川は今も流れていて、砂金も、まだ流れている。★北海道は「砂金を体験できる川」が現役で複数ある、日本で一番恵まれた土地だ。
この記事では、北海道で砂金採りができる3つの川——ウソタンナイ川(浜頓別)・ペーチャン川(中頓別)・歴舟川(大樹)——を、行き方から道具、ヒグマの現実まで込みでまとめる。

北海道の砂金体験・3つの川の早見表
| 場所 | 町 | 時期 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ウソタンナイ砂金採掘公園 | 浜頓別町 | 6月2日〜9月30日(2026年) | ★本場。ゆり板とカッチャの伝統道具・川掘り500円(水槽掘りは1,000円/30分) |
| ペーチャン川砂金掘体験場 | 中頓別町 | 7月下旬〜8月下旬・道具貸出500円(2026年砂金まつりは8月7〜16日) | 指導員同伴で気軽に。夏だけ開く川 |
| 歴舟川 | 大樹町 | 6月20日〜9月27日予定(2026年) | ゆり板・カッチャ各500円。★2026年はガイド付き体験が休止中、道具レンタルのみ |
北の2つ(ウソタン・ペーチャン)は車で30分ほどの距離にあり、セットで回れる。歴舟川は十勝の南、帯広方面からのアクセスになる。★いずれも営業期間・料金は変わることがあるので、行く前に町の公式ページで確かめる。
本州の砂金体験(山梨の湯之奥金山博物館や栃木の武茂川)が「施設の中の体験」だとすれば、北海道は「本物の川がそのまま体験場」だ。規模も歴史も、川の水の冷たさも、全部が一段本物寄りにできている。
ウソタンナイ砂金採掘公園——ゴールドラッシュの本場で掘る
浜頓別町の山あい、宇曽丹川のほとりにある。ここが明治のゴールドラッシュの現場そのものだ。5ヶ月で5万人——当時の北海道で、これだけ人を動かした川は他にない。
体験は2種類ある。川に入って掘る「川掘り」(500円)と、水槽で練習する「水槽掘り」(1,000円・30分)。★川掘りには時間制限がなく、ゆり板・カッチャ・長靴を借りて、閉園まで粘れる。時間無制限の砂金掘りは、実は全国でも希少だ。営業は例年6月上旬〜9月下旬、定休日は月曜(祝日を除く)。
管理棟の「ゴールドハウス」には砂金掘りの資料展示もあり、掘る前に5分だけ見ておくと、川での手つきが変わる。毎年8月には砂金フェスティバルが開かれ、この日は川が一番にぎわう。
道具が特別だ。パンニング皿ではなく、「ゆり板」という一枚板と「カッチャ」という鍬を使う。日本古来の砂金掘りの道具で、これで本格的に掘れる場所は全国でもここくらいになる。インストラクターが常駐していて、初めてでも振り方から教えてもらえる。
採れるのか
採れることが多い。ただし粒は小さく、量は天候・川底のコンディション・その日の腕前でかなり変わる。うまく洗えれば数粒、金額にすれば数十円ほどになることが多いが、保証された数字ではない。それでも、ゆり板の隅で光る点は本物の金で、明治の5万人が追いかけたものと同じ川から出てくる。
採れる人と採れない人の差は、経験よりも根気だと現地では言われる。同じ場所を、丁寧に、繰り返し洗えるかどうか。子供の方が採れることがあるのは、たぶんそのせいだ。
ペーチャン川——夏の1ヶ月だけ開く砂金の川
浜頓別の隣、中頓別町のペーチャン川も、明治の砂金掘りで栄えた川だ。こちらは7月中旬から8月中旬の夏だけ、道具の貸し出しと指導員の同伴つきで砂金掘りが開かれる。
8月には川を会場に砂金まつりも開かれる。ウソタンと合わせて回れば、道北の「金の谷」を1日で体験できる。
中頓別もまた、明治の砂金で栄えた町だ。今は静かな酪農の町だが、川の名前と体験場に、金の時代の記憶が残る。にぎやかなウソタン、静かなペーチャン——性格の違う2つの川を比べるのも、この谷の楽しみ方になる。

歴舟川——日本一の清流で砂金を洗う
十勝の南、大樹町を流れる歴舟川は、「日本一の清流」に選ばれたことのある川だ。日高山脈から流れ出す水は夏でも冷たく、カヌーの町としても知られる。
この川にも砂金が流れ、夏には道具レンタルでの砂金掘りができる。ただし2026年は事情が違う。令和7年の大雨の影響で、2026年6月時点、川に残る砂金の量がかなり少なく、大樹町自身が「慣れていない人が見つけるのは難しい」と案内している。インストラクター付きのガイド体験も休止中で、いま動いているのは道具レンタルのみだ。
歴舟川の砂金は、日高山脈の金鉱脈が源流で削られて流れ着いたものだ。山が高く、削られる量が多いほど、川の砂金は補充され続ける。日高山脈という日本屈指の若い山脈を背負う——それがこの川の強みになる。
2026年度は6月20日〜9月27日の予定で、道の駅コスモール大樹でゆり板・カッチャを各500円でレンタルできる(予約不要、9時〜17時、道具は当日17時までに返却)。増水やヒグマの出没で予告なく貸出が止まることもあるので、遠方から向かう日は道の駅(01558-6-5220)に電話で確かめてから出るのが確実だ。
明治31年、北の山に5万人——ゴールドラッシュの記憶
明治31年(1898年)、ウソタンナイ川で砂金が発見されると、話は電信より速く広がった。5ヶ月で5万人。当時の札幌の人口に迫る数の人間が、鉄道もない道北の山奥へ、歩いて向かった。
枝幸一帯で採れた金は推定550貫——約2.6トン(地元資料による推定値)。今の金価格なら数十億円の規模になる。川底を掘り当てて、娘の嫁入り道具を一式そろえた者がいた、という話が今も語られている。
だが、砂金は掘れば減る。楽に採れる場所から順に空になり、人は散り、昭和29年に鉱山は閉じた。56年間の金の時代だった。
★いま体験場で借りる「ゆり板」と「カッチャ」は、その5万人が使ったのと同じ形の道具だ。道具ごと歴史が残っている場所は、全国でもここくらいになる。
なぜ川に金があるのか——比重19の物理
金の比重は約19。同じ大きさの石の7倍近く重い。山の金鉱脈が風化して川に流れ込むと、金だけが流れずに、川底の岩盤の割れ目や、流れの緩む場所に沈んで溜まる。
だから砂金掘りは「重いものだけ残す」作業になる。ゆり板を揺すると、軽い砂が先に流れ、重い黒い砂(砂鉄)が残り、その一番下に金が残る。★黒い砂が見えたら、そこからが本番だ。
狙う場所にも物理がある。川がカーブする内側、大岩の下流側、岩盤の割れ目——流れが緩む場所、遮られる場所に、重いものは沈む。石拾いで「カーブの内側を見ろ」と言われるのと同じ理屈が、金では極端に効く。
この理屈は全国どこでも同じで、東京の多摩川の砂金も、栃木の武茂川も、同じ物理で溜まった金だ。違うのは、北海道は「産業になった量」が流れた川だということだ。
ゆり板とカッチャ——皿ではなく、板で洗う
パンニング皿は、縁の溝で金を引っかける「点」の道具だ。対してゆり板は、一枚の木の板の上で水と砂を波のように往復させ、重いものだけを板の上に居残らせる「面」の道具になる。
カッチャは先の曲がった鍬で、川底の岩盤の割れ目をこそげる。金は岩盤の割れ目に溜まる——比重19の物理を知っている道具の形だ。
最初はゆり板の方が難しい。だが、コツを掴んだときに板の上へ一直線に残る黒砂と金の筋は、皿では見られない景色だ。インストラクターに振り方を習えるのは、ウソタンの一番の贅沢だと思う。
金の見分け方——キラキラは疑う
川で金色に光るものの大半は、金ではない。雲母は角度でキラキラと点滅するように光り、水に流すとひらひら舞う。黄鉄鉱は真鍮のような硬い光で、角ばっている。
★本物の金は、鈍く、常に、同じ色で光る。角度を変えても点滅しない。そして重い——ゆり板の上で、最後まで動かない。「光り方が地味で、態度がふてぶてしいのが金」と覚えておけばいい。
北海道で砂金を採る際の注意事項
体験場の外で掘らない
川の土石を掘って鉱物を採ることには、本来、法律上の手続きの話がついて回る。体験場は、その心配なしに堂々と掘れる場所として開かれている。★北海道で砂金をやるなら、体験場が正解だ。案内の外の沢に勝手に入るのは、法律の面でもヒグマの面でも割に合わない。
ヒグマ
道北も十勝も、ヒグマの生息地だ。体験場は人の出入りがあるぶん安全側だが、それでも朝夕の単独行動は避ける。鈴より、複数人の会話が一番の対策になる。行く日の朝は出没情報を確認し、足跡や糞などの痕跡を見たらその場で切り上げる。施設が「今日は中止」と言ったら、それに従う——粘っていい場面ではない。
地元で趣味の砂金掘りをする人たちも、熊と隣り合わせの沢には慎重だ。「山奥ほど残っている」のは事実でも、山奥ほど危ない。体験場の枠の中で掘る——北海道では、それが一番賢い線引きになる。
水と天気
川掘りは増水時・悪天時は中止になる。北海道の川は雨で一気に増える。中止の判断は施設に従う——粘る場所は川ではなく、また来る日程の方だ。

旅程の組み方——道北セットと十勝ルート
道北ルートは、ウソタンとペーチャンをセットで回る。2つの体験場は車で30分ほどの距離だ。アクセスは稚内から約1時間半、旭川から約3時間半。近くのクッチャロ湖は白鳥の飛来地で、家族旅程の観光にちょうどいい。
十勝ルートは歴舟川(大樹町)を軸に、帯広方面と組み合わせる。★十勝には黒曜石(十勝石)の川もあるから、砂金と黒曜石の「二毛作」の遠征が組める——これは別の記事で詳しく書く。
どちらのルートも、砂金は半日で足りる。北海道旅行の全部を砂金にする必要はない。旅程に半日、金色の点を差し込む——それくらいの配合が、家族の平和にもちょうどいい。
持ち物は少なくていい。着替えと帽子、水筒。それに小さなガラス瓶を1本——採れた金を入れて持ち帰る容れ物だ。現地でも用意があるが、家から持って行った瓶に入れる金は、なぜか少し良く見える。
北海道の砂金に関するよくある質問
Q. 子供でもできますか?
A. できます。ウソタンには水槽掘りがあり、小さい子はここから始められます。川掘りも流れの緩い場所なので、長靴があれば小学生から本番に入れます。
Q. 採った砂金は持ち帰れますか?
A. 基本的に持ち帰れます。小さな容器(ガラス瓶など)を持って行くと、その場で「自分の金」を封入できます。持ち帰り方の細かいルールは施設によって違うことがあるので、受付で一声確認すると確実です。大樹町では、採った砂金でしおりを作ってもらえる年もあります(1枚300円)。
Q. どのくらい採れますか?
A. 天候や川底の状態、その日の腕前で大きく変わります。うまくいけば数粒、金額にすれば数十円ほど——それでも値段で行く場所ではありません。明治の人たちと同じ川で、同じ重さの物理で金を残す。それが商品です。
Q. 冬は?
A. 全施設が雪で閉まります。北海道の砂金は夏の遊びです。6月から9月、旅程に半日足すのが現実的です。
Q. 道具は買うべきですか?
A. 最初は不要です。全施設で借りられます。ハマってから、パンニング皿を1枚買えば十分です。
Q. 雨の日は?
A. 川掘りは増水・悪天で中止になります。その日は無理をせず、帯広方面なら博物館へ切り替えるのが北海道の正しい雨宿りです。
石好き次郎から
金の比重は約19。この数字だけが、明治の5万人を道北の山奥まで歩かせ、2.6トンの金を掘らせ、そして今も、ゆり板の隅に点を残す。重いものは、流れずに残る。それだけの物理だ。
56年で閉じた鉱山と、今も夏ごとに開く体験場。同じ川の同じ金でも、追いかけ方で寿命が変わる。産業の金は尽きたが、遊びの金は尽きない——見つかる日も、砂だけの日もある。それでも川はまた明日も流れている。
うまくいって数粒、数十円。割に合うかどうかで言えば、まったく合わない。明治の人たちの多くも、たぶん合わなかった。それでも5万人が来た。
私はウソタンで、最初の1時間を砂だけ見て過ごした。金が出た瞬間より、その1時間の方をよく覚えている。何も出ない時間の長さが、点の光り方を決める。
多摩川の粉金も、武茂川の砂金も、北海道の点も、瓶に入れてしまえば見分けはつかない。それでも私は瓶ごとに産地を書いたラベルを貼る。金は同じでも、川と時間は全部違うからだ。
北海道の川は、産業だった金を、遊びとして返してくれるようになった。5万人の熱狂の跡地で、子供がゆり板を振る。悪くない結末だと思う。
掌の点は米粒の何分の一かで、値段は数十円だ。それでも、あの点をつまらないと言った人を、私は川で見たことがない。

公式確認先
営業期間・料金・砂金の量は年によって変わる。訪れる前に次の公式ページで確認するのが確実だ。
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