北海道で砂金採りができるのは、道北のウソタンナイ川(浜頓別)とペーチャン川(中頓別)、十勝の歴舟川(大樹)の3つの川だ。
769グラム。明治33年、道北のウソタンナイ川の支流から、小判の形をした砂金が出た。手のひらに乗る大きさの、金のかたまりだ。いま同じ川で板を振って残るのは、目をこらしてやっと見える点だ。その差のあいだに、百年あまりの話がある。
北海道に、ゴールドラッシュがあった。明治31年に砂金が見つかると、全国から人が道北の山へ押し寄せた。鉱山は昭和29年に閉じた。だが川は今も流れ、砂金も、まだ流れてくる。「砂金を体験できる川」が現役で複数ある。その一点で、北海道は日本で一番恵まれた土地だ。本州で皿を振る身としては、少しうらやましい。
ここでは、その3つの川の行き方と道具、それからヒグマの現実まで書く。金の話だけして熊の話をしないのは、北海道では不親切だ。
北海道の砂金体験・3つの川の早見表
| 場所 | 町 | 時期 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ウソタンナイ砂金採掘公園 | 浜頓別町 | 夏の季節営業。川掘りと水槽掘りの2通り | 本場。ゆり板とカッチャの伝統道具を使う |
| ペーチャン川砂金掘体験場 | 中頓別町 | 8月上旬〜中旬の10日間ほど・利用料500円、道具は有料で貸出(2026年は8月7〜16日。砂金まつりは8月9日) | 皿とスコップを借りて気軽に。夏だけ開く川 |
| 歴舟川 | 大樹町 | 6月20日〜9月27日(2026年度・終了) | ゆり板・カッチャ各500円。ガイド付き体験は休止中で、道具レンタルのみ |
北の2つ(ウソタン・ペーチャン)は車で30分ほどの距離で、セットで回れる。歴舟川は十勝の南、帯広方面から入る。営業期間や料金は、年によって動く。行く前に、町の公式ページで確かめる。
本州の砂金体験の多く(山梨の湯之奥金山博物館など)が「施設の中の体験」なら、北海道は「本物の川が、そのまま体験場」だ。規模も歴史も、一段本物寄りにできている。川の水の冷たさは、特に本物だ。
ウソタンナイ砂金採掘公園——ゴールドラッシュの本場で掘る
ゴールドラッシュの現場に、いまは受付がある。浜頓別町の山あい、宇曽丹川のほとりだ。冒頭の小判型の砂金も、この川の支流から出た。明治の人が人生を賭けて入った川に、いまは体験料を払って入る。
体験は二通りある。園内を流れるウソタン川に入る「川掘り」と、水槽で気軽に試す「水槽掘り」だ。いきなり冷たい川が不安なら、水槽で手を慣らしてからでいい。金は、どちらで見つけても同じ色だ。
管理棟の「ゴールドハウス」には、砂金掘りの資料展示がある。掘る前に少しのぞいておくと、川での手つきが変わる。昔の人の道具を見たあとだと、板を持つ手に少し気合いが入る。夏の「山の日」のころには、砂金公園の夏祭りが開かれる年が多い。
道具が特別だ。パンニング皿ではなく、「ゆり板」という一枚板と「カッチャ」という鍬を使う。日本古来の砂金掘りの道具で、これで本格的に掘れる場所は全国でも珍しい。皿しか知らない本州の人間には、ここが一番の見どころになる。指導員がつくかどうかは、行く前に聞いておくと安心だ。
採れるのか
採れることが多い。ただし粒は小さく、量は天気・川底の具合・その日の腕前でかなり変わる。うまく洗えれば数粒、金額にすれば数十円ほどが多いが、保証された数字ではない。ただ、ゆり板の隅で光る点は本物の金だ。明治の人たちが追いかけたのと、同じ川から出てくる。
採れる人と採れない人の差は、経験より根気だと現地では言われる。同じ場所を、丁寧に、何度も洗えるかどうか。子供のほうが採れることがあるのは、そのせいだろう。大人は、すぐ場所を変えたがる。
ペーチャン川——夏の10日間だけ開く砂金の川
一年のうち、10日ほどしか開かない川がある。浜頓別の隣、中頓別町のペーチャン川だ。夏のあいだだけ、パンニング皿やスコップを借りて砂金を探せる。日程は上の表のとおり。短い。うっかりすると、夏が先に終わる。
8月には、川を会場に砂金まつりも開かれる。ウソタンと合わせれば、道北の「金の谷」を1日で回れる。一日に二つの川で板を振る。なかなか欲張りな一日だ。
中頓別もまた、明治の砂金で栄えた町だ。今は静かな酪農の町で、川の名前と体験場に、金の時代の記憶が残る。にぎやかなウソタン、静かなペーチャン。同じ谷でも、川の性格はまるで違う。

歴舟川——日本一の清流で砂金を洗う
源流から海まで、ずっと同じ町の中を流れる川がある。十勝の南、大樹町の歴舟川だ。日高山脈の山から出て、64.7キロ、一度も町の外へ出ない。国の水質調査で、何度も日本一きれいな川に選ばれてきた。水は、夏でも冷たい。
この川にも砂金が流れ、夏には道具を借りて砂金掘りができる。ただ、令和7年の雨のあと、インストラクター付きのガイド体験は休止が続き、再開は決まっていない。いま動いているのは道具の貸し出しだけだ。教わる川から、一人で板を振って自分で探す川になった。川そのものをもっと知りたくなったら、歴舟川で砂金を探すへ。
歴舟川の砂金は、日高山脈の金鉱脈が源流で削られ、流れ着いたものだ。山が削られ続けるかぎり、川の砂金は少しずつ補充される。その日高山脈は、2024年に国立公園になった。陸の広さでは、日本でいちばん大きい国立公園だ。今年の川は寂しくても、山のほうには、まだ金がある。
2026年度は6月20日から9月27日まで、道の駅コスモール大樹でゆり板・カッチャを各500円で貸し出した(予約不要、道具は当日17時までに返却)。7・8月は上流のカムイコタン公園キャンプ場でも借りられる。増水やヒグマの出没で予告なく貸出が止まる日もあるので、遠くから向かう日は道の駅(01558-6-5220)に電話してから出る。
明治31年、北の山に5万人——ゴールドラッシュの記憶
5ヶ月で5万人が来た、という話が残る。山にひしめいた砂金掘りは4,000人あまり、という記録もある。数字は割れる。ただ、どちらにしても、鉄道もない道北の山奥へ、みんな歩いて向かった。足の痛さだけは、どの記録でも同じだったはずだ。
枝幸一帯から出た金は、推定で2トンを超える。今の値段に直せば、数百億円になる。川底を掘り当てて、娘の嫁入り道具を一式そろえた者がいた、という話も残る。
熱のてっぺんは、小判型の砂金が出た年だった。だが、砂金は掘れば減る。楽に採れる場所から順に空になり、人は散り、昭和29年に鉱山は閉じた。半世紀あまりの、金の時代だった。
いま体験場で借りる「ゆり板」と「カッチャ」は、明治の砂金掘りが使ったのと同じ形の道具だ。道具ごと歴史が残る場所は、全国でもここくらいだろう。借りる板は、ただの板だ。ただ、形が明治のままだと思うと、振り方が少し丁寧になる。
なぜ川に金があるのか——比重19の物理
金の比重は約19。同じ大きさの石の7倍近く重い。山の金鉱脈が風化して川に流れ込むと、金だけが流れずに、川底の岩盤の割れ目や、流れの緩む場所に沈んで溜まる。
だから砂金掘りは「重いものだけ残す」作業になる。ゆり板を揺すると、軽い砂が先に流れ、重い黒い砂(砂鉄)が残り、その一番下に金が残る。黒い砂が見えてからが本番だ。ここで手を早めると、全部流れる。
狙う場所にも物理がある。川がカーブする内側、大岩の下流側、岩盤の割れ目——流れが緩む場所、遮られる場所に、重いものは沈む。石拾いで「カーブの内側を見ろ」と言われるのと同じ理屈が、金では極端に効く。
この理屈は全国どこでも同じで、東京の多摩川の砂金も、栃木の武茂川も、同じ物理で溜まった金だ。違うのは、北海道は「産業になった量」が流れた川だということだ。
ゆり板とカッチャ——皿ではなく、板で洗う
パンニング皿は、縁の溝で金を引っかける「点」の道具だ。対してゆり板は、一枚の木の板の上で水と砂を波のように往復させ、重いものだけを板の上に居残らせる「面」の道具になる。
カッチャは先の曲がった鍬で、川底の岩盤の割れ目をこそげる。金は、岩盤の割れ目に溜まる。比重19の物理を、道具の形のほうが先に知っていた。
最初はゆり板のほうが難しい。だが、コツを掴んだときに板の上へ一直線に残る黒砂と金の筋は、皿では見られない景色だ。振り方を人に習える日に当たったら、それが一番の贅沢だと思う。
金の見分け方——キラキラは疑う
川で金色に光るものの大半は、金ではない。板を少し傾けてみる。キラキラと点滅して、水の中でひらひら舞うなら、それは雲母だ。黄鉄鉱は真鍮のような硬い光で、形も角ばる。
本物の金は、鈍く、常に、同じ色で光る。角度を変えても点滅しない。そして重い——ゆり板の上で、最後まで動かない。「光り方が地味で、態度がふてぶてしいのが金」と覚えておけばいい。
北海道の砂金採りの線引き——体験場・ヒグマ・増水
体験場の外で掘らない
川で鉱物を掘るには、本来ややこしい手続きがついて回る。体験場なら、そこを気にせず堂々と掘れる。北海道で砂金をやるなら、体験場が正解だ。案内の外の沢に勝手に入るのは、法律の面でもヒグマの面でも割に合わない。
ヒグマ
道北も十勝も、ヒグマの生息地だ。体験場は人の出入りがあるぶん安全側だが、それでも朝夕の単独行動は避ける。鈴より、複数人の会話が効く。出かける朝は出没情報を見て、足跡や糞を見たらその場で切り上げる。施設が「今日は中止」と言ったら従う。ここは粘る場面ではない。
地元で趣味の砂金掘りをする人たちも、熊と隣り合わせの沢には慎重だ。「山奥ほど金が残る」のは本当でも、山奥ほど危ない。金は逃げないが、熊は向こうから来る。
水と天気
川掘りは、増水や悪天で中止になる。北海道の川は、雨で一気に増える。中止と言われたら、素直に従う。粘るなら川ではなく、次に来る日程のほうだ。

旅程の組み方——道北セットと十勝ルート
道北ルートは、ウソタンとペーチャンをセットで回る。アクセスは稚内から約1時間半、旭川から約3時間半。近くのクッチャロ湖は白鳥の飛来地で、家族連れの観光にちょうどいい。
十勝ルートは歴舟川(大樹町)を軸に、帯広方面と組み合わせる。十勝には黒曜石(十勝石)の川もあるから、砂金と黒曜石の「二毛作」の遠征が組める。十勝石の来歴は、北海道の黒曜石とアイヌの十勝石で追った。
どちらのルートも、砂金は半日で足りる。北海道旅行の全部を砂金にする必要はない。旅程に半日、金色の点を差し込む——それくらいの配合が、家族の平和にもちょうどいい。
持ち物は少なくていい。着替えと帽子、水筒。それに小さなガラス瓶を1本——採れた金を入れて持ち帰る容れ物だ。現地でも用意があるが、家から持って行った瓶に入れる金は、なぜか少し良く見える。
北海道の砂金に関するよくある質問
Q. 子供でもできる?
A. できる。ウソタンには水槽掘りがあり、小さい子はそこから始められる。川掘りも、濡れてもいい靴があれば小学生から本番に入れる。
Q. 採った砂金は持ち帰れる?
A. 持ち帰れる。大樹町の道の駅では、採った砂金でしおりも作れる(1枚300円)。
Q. 道具は買うべき?
A. 最初はいらない。どこでも借りられる。ハマってから、パンニング皿を1枚買えば十分だ。
石好き次郎から
金の比重、約19。この一つの数字が、明治の人たちを道北の山奥まで歩かせ、今もゆり板の隅に点を残す。重いものは、流れずに残る。それだけの物理だ。
56年で閉じた鉱山と、今も夏ごとに開く体験場。同じ川の同じ金でも、追いかけ方で寿命が変わる。産業の金は尽きた。遊びの金は、まだ尽きない。見つかる日も、砂だけの日もある。川はどちらの日も、同じ顔で流れる。
うまくいって数粒、数十円。割に合うかで言えば、まったく合わない。明治の人たちの多くも、合わなかったはずだ。なのに何千人も来た。理由は、板の隅の点を一度見れば分かる。
最初の1時間は砂だけ、という日は珍しくない。何も出ない時間の長さが、点の光り方を決める。待った分だけ、板の隅の点は明るく見える。
多摩川の粉金も、武茂川の砂金も、北海道の点も、瓶に入れてしまえば見分けはつかない。金は同じでも、川と時間は全部違う。それを覚えているのは、瓶ではなく私のほうだ。
掌の点は、米粒の何分の一かだ。それでも、あの点をつまらないと言った人を、私は川で見たことがない。
雪が来れば、北の川は全部閉まる。次に板を振れるのは、6月だ。それまでは、机の上の小瓶を、ときどき光にかざして待つ。

公式確認先
営業期間・料金・砂金の量は年によって変わる。下は、書くときに開いた公式のページだ。
- 大樹町「砂金掘り体験」公式
- 浜頓別町「ウソタンナイ砂金採掘公園」公式
- 中頓別町「観光・イベント」公式
- なかとんべつ観光まちづくりビューロー「ペーチャン川砂金掘体験場」
- 北海道警察「ヒグマに注意」
- 大樹町観光WEB「歴舟川」
- 環境省「日高山脈襟裳十勝国立公園」の誕生
- 江別市情報図書館「北海道150年 ゴールドラッシュのころ」(PDF)

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