
ティール・サファイアは、青と緑のあいだの色をしたサファイアだ。石が新しいわけではない。新しいのは名前のほうだ。「ティール(Teal)」は英語で青緑のこと。この色のサファイアが、ここ数年の宝石の市場で急に注目されている。
「インスタグラムが作った宝石」と呼ばれる。2016年前後、SNSに婚約指輪の投稿が急に増え、青緑の石が「#tealsapphire」のタグで広まった。タグの名前が、そのまま売り場の棚の名前になった。
ブルーサファイアの代わりに選ばれることが多く、値段は同じ大きさの上質なブルーより手ごろだ。青に手が届かない人の逃げ道、と言うと怒られそうだが、色で選ぶ人にはむしろこっちが本命だ。
「インスタグラムが生んだ新しいカテゴリー」
売る側ではなく、買う側が付けた名前
先に言っておくと、「ティール・サファイア」は宝石学の正式な用語ではない。SNSが作った売り場の名前だ。
誰が決めたわけでもなく、青緑の石を探す人たちがこの言葉を使い始め、市場があとからついてきた。宝石の売り場の名前は、ふつう売る側が付ける。これは買う側が付けた名前だ。
「なぜこの色なのか」——ティールの科学
サファイアの色を決めるのは、主に鉄(Fe)とチタン(Ti)だ。コランダム(Al₂O₃)の中で、この二つの割合が産地と地質の条件で変わる。
鉄とチタンが一定の割合で一緒にいると、ふつうの青。鉄が勝つと、緑に寄る。チタンが多ければ、青が強まる。そのちょうど中間で止まったのがティールだ。言ってしまえば、配合の加減ひとつの話だ。
同じ石でも、光の種類で青く見えたり緑に見えたりする。ここがティールのいちばん面白いところで、いちばん厄介なところでもある。
向きでも色が変わる。多色性だ。石を90°回すと、別の色が出てくる。一度気づくと、同じ石で二度遊べる。
カットは、色の深さに効く。オーバル、クッション、ラディアントは色が出やすく、婚約指輪でもよく選ばれる。ラウンドは少し薄く見えやすい。
上から見て、真ん中が白っぽく抜けて見える石がある。「窓(window)」と呼ばれる。パビリオン(石の下半分)の角度が浅すぎて、光が素通りしているしるしだ。全体に色が乗った石を選ぶ。
GIAの鑑別書では、色を「Greenish Blue」か「Bluish Green」と書く。この言葉の順番で値段が変わることがある。緑の割合が高いほど、評価は低めに出やすい。
加熱処理は、ブルーと同じく広く行われる。色が安定し、中のシルク(絹のような内包物)が消える。無処理(アンヒート)のティールは数が少なく、そのぶん値段が上乗せされる。鑑別書に「No indication of heating」の一行があれば、加熱の跡は見つからなかったという意味だ。
値段の幅は広い。小粒の加熱品なら手の届く値段から始まり、大粒で無処理の上物になると一気に跳ね上がる。色石としては、手の届く側にいる。
主要産地——オーストラリア・モンタナ・マダガスカル
オーストラリア(クイーンズランド州・ニューサウスウェールズ州):量でいえば主力。鉄が多めで、暗めの深い青緑になりやすい。かつては見向きもされにくかった色が、SNSで見直された。一つの石にブルー、グリーン、イエローが同居する「パルチカラー(parti color)」も、ここに多い。
アメリカ・モンタナ州は、ロック・クリークやミズーリ川沿いが主な産地。深いティールから、鋼のような青まで出る。米国内で採れる数少ない宝石で、「モンタナ・ティール」として米国の婚約指輪で人気が高い。
マダガスカルは近年の大産地で、量が多く値段が手ごろ。色の幅も広い。スリランカ産は明るく澄んだ色で、鑑別書に「Ceylon」とあれば評価が高い。タンザニア産は、量は少ないが色の鮮やかさで勝負する。ナイジェリアからも出る。
| 産地 | 色の特徴 | 値段の目安(同じ大きさで) |
|---|---|---|
| モンタナ(米国) | 深いティール・スチールブルー | 高め(希少・産地プレミアム) |
| オーストラリア | 濃いめの青緑・パルチカラーあり | 中〜高め |
| スリランカ | 明るく澄んだ青緑 | 中程度(鑑別書あり) |
| マダガスカル | 幅広い色域・流通量多い | 比較的手頃 |
| タンザニア | 鮮やかな青緑・産出量少なめ | 中〜高め |
高い石を買うなら、鑑別書の産地(Origin)の欄を見る。AGL、GIA、GRS、Gubelinなどが出している。鑑別書のない安い石は、産地を知らないまま買うことになる。
似た色の石もある。ブルーグリーンのトルマリン、アクアマリン、マダガスカルの標準的な青緑のサファイア。硬度・比重・屈折率で分けられるが、目で見ただけで当てるのは難しい。
婚約指輪の石として、どこまで来たか
色石を真ん中に据えた婚約指輪は、2010年代から少しずつ増えた。ティールはその中で「人と違う指輪の石」として浮かび上がってきた。
磨く前の原石にも、ちゃんとファンがいる。六角柱の形を残したコランダムの結晶は、標本として持つ値打ちがある。拾う側の人間としては、指輪より先にこっちへ目が行く。
選ぶときは、自然光、蛍光灯、暖色のLEDの三つで見る。光で青緑が大きく動くからだ。三つとも気に入った石なら、家に帰ってからがっかりしない。
指輪に仕立てるなら
台は、ベゼル(縁で囲む留め方)でもプロング(爪留め)でも映える。相性がいいのはゴールド、特にローズゴールドとイエローゴールドで、金の色が青緑を引き立てる。
年月で色が変わらないのも強みだ。何年はめても同じ色でいる。地味だが、指輪にはそのほうがありがたい。
硬さはモース9。ダイヤモンドの10に次ぐ。毎日はめる指輪でも傷がつきにくく、エメラルドやアレキサンドライトより気をつかわずに済む。
手入れは、水で洗って柔らかい布で拭けば足りる。超音波洗浄もたいてい平気だが、ひびや内包物の多い石には使わない。

最初の一石を選ぶなら
最初の一石なら、マダガスカル産、1ct前後、鑑別書付き、加熱済み。この組み合わせが値段と質の釣り合いがいい。ティールの物差しが、手の中に一つできる。
ピアス用に、同じ大きさ・同じ色の二石をそろえるのは難しい。だからそろったペアは、一石ずつより高くなる。
よくある質問
ティールサファイアは投資対象になる?
向かない。SNSの流行で値段が上がった石なので、流行が変われば下がることもある。カシミールサファイアやビルマルビーのように、産地証明と希少さで裏打ちされた石と比べると、長い目で見た値打ちは読みにくい。
石好き次郎から
モンタナ産が有名だが、同じ産地でも色はばらつく。そのばらつきが、そのまま「一点物」の値打ちになる。工場なら不良品と呼ばれるものが、石だと売り文句になる。


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