長野県の山の中に、石器工場の跡がある。
3万年前、旧石器時代の人間がここに集まり、黒い石を割り、削り、矢じりを作っていた。その石が今も地面に埋まっている。「星糞峠(ほしくそとうげ)」——キラキラ光る黒い石が星の糞のように地面に散らばっていたことから、江戸時代頃から地元の人々がそう呼ぶようになった場所だ。
長野県長和町の「星くずの里 黒耀石体験ミュージアム」は、国史跡に指定された「星糞峠黒曜石原産地遺跡」の麓にある体験型博物館だ。矢じりを割って作る・勾玉を磨く・縄文土器を作る——3万年前の技術を現代で体験できる。さらに2021年開館の「星くそ館」では、熊鈴を持って実際の採掘跡が残る山道を歩くことができる。「石の博物館」ではなく「石を使う博物館」——それがこの施設の本質だ。

黒曜石とは何か——約87万年前の噴火が作った天然ガラス
黒曜石(こくようせき)は火山岩の一種で、天然ガラスだ。マグマが急速に冷却されてできる。成分は主に二酸化ケイ素(SiO₂)——水晶・瑪瑙と同じだが、結晶化する前に固まるため、ガラス状の光沢と鋭い割れ口(貝殻状断口)を持つ。
星糞峠の黒耀石は、約87万年前の噴火でできた。この鋭く割れる特性が石器材料として最適だった——打撃点から放射状に割れが広がり、鋭い刃が一瞬で生まれる。縄文人はこの性質を見抜き、3万年にわたってここへ黒耀石を採りに来続けた。
長和町の黒耀石は縄文時代に本州各地へ広く流通していた。元素分析(産地鑑定)によって関東・東北の遺跡から出土した黒耀石が長和町産と特定されている。東京都の弥生時代の遺跡からは黒耀石でつくられた勾玉が見つかっており、産地を調べると和田峠の黒耀石であることが判明している——長和町の石が古代の装身具として東京まで届いていた証拠だ。
施設概要と基本情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 入館料 | 大人300円・子供(小中学生)100円・高校生300円 |
| 体験料 | 300円〜(所要30分〜) |
| 営業時間 | 9:00〜16:30(体験最終受付15:00・入館最終受付16:00) |
| 休館日 | 毎週月曜日(月曜祝日の場合は翌日)・年末年始(12/28〜1/3)・8月は無休 |
| 体験室収容 | 最大180名・食事スペースあり(150名) |
| 駐車場 | 乗用車40台・バス10台(無料) |
| TEL・住所 | 0268-41-8050 / 長野県小県郡長和町大門3670-3 |
アクセス
車:JR・しなの鉄道上田駅から車70分。JR茅野駅から車40分。中央自動車道・諏訪ICから車45分。上信越自動車道・佐久ICから車60分。上信越自動車道・東部湯の丸ICから約38km・60分。ブランシュたかやまスキーリゾートの看板を目印に進む。電車:最寄り駅から直通バスがないため上田駅・茅野駅でのレンタカーが一般的だ。
体験メニュー全ガイド——20種類の縄文体験
黒耀石体験ミュージアムの体験メニューは約20種類。「石を使う体験」が中心で、大人も子供も夢中になれる内容が揃っている。
【矢じりづくり(初級・所要30〜45分)】
最も人気の体験。縄文人は黒耀石の薄いカケラの縁に鹿の角を押し当てて、プチプチと割って三角形の矢じりを作っていた。ミュージアムでは鹿の角の代わりに先端に銅線を装着した「ペンシル」という道具を使う——縄文人と同じように黒耀石の縁をプチプチと割っていくと、鋭い三角形が現れる。完成した矢じりは台紙に貼り付けてお持ち帰り。
【キーホルダーづくり(初級・所要30〜45分)】
矢じりと同じ「プチプチ割る」技法で、好みの形の黒耀石キーホルダーを作る。形が出来たら縁を石でゴリゴリとこすって刃を潰すため、普段使いもできる安全な仕上がりになる。
【勾玉づくり(初級〜中級・所要60〜90分)】
縄文時代から作られた装身具・勾玉。翡翠の勾玉は非常に硬く1mmの穴を開けるのに2時間かかるほどだが、ここでは「高麗石(こうらいせき)」という非常に柔らかい石を使う。砥石で角を取り、2種類のサンドペーパーで水研ぎをして光沢が出るまで磨く——完成した瞬間に縄文人の感覚が分かる体験だ。
【骨角器・ボーンネックレス(初級・所要30〜60分)】
骨を削ってペンダントを作る縄文の技術。「骨角器(こっかくき)」という縄文時代の代表的な道具を現代で体験できる。
【縄文織り・編布(あんぎん)コースター(初級・所要60分)】
縄文時代の布の作り方「編布(あんぎん)」でコースターを織る。ひもを交互に組んでいく単純な技法だが、縄文人の日常生活の知恵が詰まっている。
【上級メニュー(石槍・釣り針・黒耀石の鏡づくり等)】
矢じりより難しい「石槍」、繊細な技術が必要な「釣り針づくり」、黒耀石の光沢を利用した「黒耀石の鏡づくり」は上級向けメニューだ。縄文土器のパズルも人気がある。毎年8月開催の「黒耀石のふるさと祭り」では普段できない屋外体験にも参加できる。

星くそ館——縄文の採掘跡を熊鈴を持って歩く
2021年開館の「星くそ館」は、ミュージアムから山に入った星糞峠の斜面にある展示施設だ。縄文人が黒耀石を採掘した様子と、地下に埋もれていた鉱山の地層を実際に見学できる。ミュージアムの受付で無料申込(受付15時まで)をすると、大きな熊鈴を渡される——クマが出ることもある山道のためだ。チリンチリンと鳴らしながら山道を歩いていくと、足元に黒くキラキラした黒耀石の破片が散らばっているのが見える。3万年前の石器工場の跡だ。持ち帰りは禁止だが、旧石器時代の採掘跡に立つ体験は格別だ。
謎解きアクティビティ「星降るムラの謎解き探検」
2025年以降、新しいアクティビティとして「周遊謎解き・星降るムラの謎解き探検」が始まった。ミュージアムと周辺を巡りながら謎を解いていく体験型コンテンツで、石器体験に合わせて楽しめる。家族連れ・カップルに特に人気だ。詳細は公式HP(hoshikuso.jp)で確認してほしい。
蓼科・白樺湖・山宮河川公園との組み合わせコース
黒耀石体験ミュージアムを中心に、信州の魅力を1日で味わうコースが組める。午前:ミュージアムで矢じりづくり体験(所要約1時間)。昼前:星くそ館で縄文採掘跡を歩く(所要約40分、受付15時までなので午前中がベスト)。昼:ミュージアム周辺または白樺湖畔で昼食(食事提供なし・持参か付近の食事処を利用)。午後:白樺湖・蓼科の散策(女神湖・ピラタスロープウェイからの北アルプス眺望)。
山宮河川公園(甲府市・水晶採集)との組み合わせも魅力的だ。長和町から山宮河川公園まで車で約1時間30分——「黒曜石の体験と水晶の採集」という石の「作られ方」の違いを1日で体感できる。黒曜石は急冷されたガラス(非結晶)、水晶はゆっくり結晶化した石英——同じSiO₂が全く異なる条件でできる地質の面白さを実感できるルートだ。
よくある質問
Q. 子供は何歳から参加できますか?
勾玉づくり・縄文織り・ボーンネックレスは幼児から参加可能。黒曜石の石器づくり(矢じり・キーホルダー)は刃物を扱うため保護者同伴の小学生以上を推奨。最大180名が同時に体験できるため学校の遠足・課外学習にも対応している。事前予約(TEL:0268-41-8050)が望ましい。
Q. 体験メニューはどれがおすすめですか?
初回なら「矢じりづくり(黒耀石をペンシルでプチプチ割る)」が最も縄文体験の核心に触れられる。子供連れなら「勾玉づくり(砥石で磨く)」が達成感があり持ち帰り品として形が残る。時間があれば「星くそ館」の山道歩きも必ずセットにすることを強くすすめる。
Q. 黒曜石を持ち帰れますか?
体験で作った矢じり・勾玉・キーホルダー等は持ち帰れる。星糞峠(野外遺跡)での採取は国史跡保護のため禁止されている。ミュージアムの売店で黒耀石の原石・加工品を購入することは可能(要現地確認)。
Q. 山宮河川公園(水晶採集)と同日に回れますか?
長和町から山宮河川公園まで車で約1時間30分。「午前:黒耀石体験ミュージアム→午後:山宮河川公園で水晶採集」という1日コースは十分に成立する。黒曜石(87万年前の噴火)と水晶(地殻内でゆっくり成長)という対照的な「石の生まれ方」を体感できる贅沢なルートだ。
石好き次郎から

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