
横須賀でメノウを探すなら、相模湾岸の秋谷(あきや)海岸と立石(たていし)海岸だ。東京から1時間30分で着く。岩場の際の潮だまり。その縁で、白っぽいものが一瞬光る。つまみ上げて、空にかざす。端のほうが、ぼんやり青白く透ける。ただの白い石なら、光はそこで止まる。止まらない石が、この浜にはある。
「東京の隣でめのうが拾える」。半信半疑で聞く話だが、この浜には本当にカルセドニーが落ちる。JR逗子駅からバスに乗り、降りると目の前が海岸だ。
東京の隣の神奈川で、宝石の原石が足元に転がる。考えると、なぜか少し笑えてくる。
| 場所 | 神奈川県横須賀市・立石海岸〜秋谷海岸(立石公園) |
|---|---|
| 駐車場 | 県営立石駐車場(無料・62台。夏の週末は早朝に満車) |
| トイレ | 公園内にあり |
| 採集可否 | 可。干潮の前後2時間が狙い目 |
| 子ども向け | ○ 整備された公園。岩礁の際は大人が付き添う |
| 最終確認日 | 2026年7月 |
採れる石・料金・地図は、記事の最後の「スポット情報まとめ」に置いた。
なぜ三浦半島の海岸にめのうがあるのか
立石のあたりの岩をよく見ると、白い筋が走る。岩の割れ目に、あとから鉱物が詰まった跡だ。めのうも、この「あとから詰まる」側の石になる。三浦半島は、海の底に積もった砂や泥、火山灰が固まり、持ち上がってできた土地だ。その割れ目や空洞にシリカ(珪酸)を含む水がしみこみ、ゆっくり固まって、めのう・カルセドニー・碧玉になった。
カルセドニーとめのうが形成される仕組み——三浦半島の地質
カルセドニー(玉髄)は、目に見えないほど細かい石英の結晶が、ぎっしり集まった石だ。結晶の一粒ずつは見えない。見えないのに、光は少し通す。浜で「ぼんやり透ける」のは、この少しのせいだ。地層が持ち上がって削られ、その石がいま、海岸に転がり出てくる。
めのう(瑪瑙)は、カルセドニーに縞が入ったものだ。縞の一本一本は、シリカが何度かに分けて染みこんだ跡で、層ごとに色や透け方が違う。秋谷では、赤みがかった橙色のめのうが目を引く。色を決めるのは鉄分だ。元の地層の鉄分にむらがあるので、拾う場所や時期で色の出方が変わる。縞は、石が一度では出来上がらなかった証拠だ。
ここの石は、川沿いの採集地で拾う花崗岩由来の石英とは、手ざわりからして違う。いま踏んでいる砂利は、千万年以上前は海の底だった。そう思って足元を見ると、ただの砂利がやけに年寄りに見えてくる。
海の底で生まれた地層は、葉山・逗子・横須賀・三浦市と広く続く。なかでも秋谷・立石のあたりは、三浦・房総でいちばん古い岩や地層が集まる帯に入る。採集地として強いのは、岩盤がむき出しで、波がそれを削り続けるからだ。新しい石が、休みなく浜に補充される。いちばん古い岩が、いちばん新しい石を出してくる。
カルセドニーの硬度はモース硬度6〜7。石英とほぼ同じで、鉄でひっかいても傷がつかない。磨けば、よく光る。
川の採集地では、石は山から運ばれてくる。ここでは、いま削られている岩盤を横目に拾える。波打ち際に立つ立石(高さ12m・周囲30mの巨岩)は、その地層の親玉のような存在だ。
立石の岩は凝灰岩だ。割れたばかりの面は濃い緑、風雨に当たった面は茶色くなり、そこに白い鉱物の脈が走る。浜で拾ったカルセドニーを手に乗せたまま見上げると、白い脈と手の中の白が、同じ系統の色に見えてくる。同じ石だとまでは言えない。それでも、つい見比べたくなる。
久留和海岸は、秋谷から北へ車で数分の小さな入り江だ。石好きの間では穴場として知られる。観光客が少なく、静かに探せる。湾が奥にひっこんだ地形なので石が長くとどまり、丸く磨かれた石が多い傾向がある。秋谷・立石・久留和の三つを一日で回る人も多い。欲張りだが、気持ちは分かる。
立石海岸 vs 秋谷海岸——どちらで探すか
同じ「立石・秋谷」でも、二つの浜は性格が違う。どちらから歩き始めるかで、一日の組み立てが変わる。
| 海岸 | 特徴 | 石の溜まり方 | 初心者向け |
|---|---|---|---|
| 立石海岸(立石公園内) | 岩礁帯に囲まれた小さな浜。「立石」の真横。観光客が多い | 岩の隙間・岩礁脇にカルセドニーが挟まる | ◎ |
| 秋谷海岸(立石から徒歩10〜15分) | 砂礫の長い海岸線。観光客が少なく採集しやすい | 石が庭砂利のように溜まるポイントがある | ○ |
定番は「立石公園の駐車場→立石海岸(岩礁帯を確認)→秋谷海岸へ浜を歩く」という流れだ。立石海岸は観光地として整備されているので初心者でも迷わない。秋谷海岸は砂礫浜が長く続き、松が生えている方向に歩いていくと「小さな石が庭砂利のように積もるエリア」が現れる——これが石の溜まるスポットだ。
立石海岸から秋谷海岸までは、歩いて10〜15分。途中の小さな岬は、波の当たり方が変わって石がたまりやすい。潮が引いた時間に、岬の根元の岩礁をていねいに見る。岩の隙間に挟まったカルセドニーが見つかることがある。移動の10分を、移動だけで終わらせないほうがいい。
秋谷海岸の北端は、観光客の少ない静かな磯浜だ。転石の中にカルセドニーが混じることがある。立石・秋谷を歩いたあとで足が残っていれば、そこまで行く価値はある。人の少ない浜ほど、いい石が残る。理屈は単純で、拾う人がいないからだ。
岬の根元の岩礁では、石は転がるより挟まる。岩のくぼみに、波が置いていった小石が溜まる。乾いた岩の上では、どれも白く粉をふいたように見える。引き波がかかった瞬間だけ、奥がぼんやり透ける石が出てくる。その一瞬を見逃さないように、次の波が来るのを待つ。

アクセスと基本情報
電車+バス:JR逗子駅から京急バスの長井行きで約30分、「立石」で降りてすぐ。東京・品川からは乗り換え1回で来られる。車:横浜横須賀道路・逗子ICから逗葉新道経由で国道134号へ。逗子ICから約15分。駐車場:県営立石駐車場(無料・普通車62台)。トイレは公園内にある。
夏(7〜9月)の週末は、県営立石駐車場が朝7〜8時に満車になることがある。7〜8月は夜8時から朝6時まで閉まるので、夜明け前に着いても入れない。秋〜冬(10〜3月)は空いていて、干潮に合わせた日を選びやすい。帰りに葉山や逗子で食事をすれば、石に付き合わせた連れへのお礼になる。
干潮を狙う——採集の絶対条件
秋谷・立石でいちばん大事なのは、干潮の時刻だ。満潮のときは石浜が海に沈み、探せる範囲がぐっと狭くなる。干潮になると岩礁の下が出て、ふだん波の下にある石が顔を出す。狙うのは、そこだ。
干潮の時刻は、潮見表で事前に調べる。気象庁の潮位情報(無料)か、釣り情報サイトの潮汐表で「横須賀」の干潮を見て、逆算して家を出る。干潮の前後2時間が勝負だ。季節は秋から冬(10〜2月)がいい。波が荒れた翌日は新しい石が上がり、晴れた日は光で石が見つけやすい。
いちばん効くのは、満潮から干潮へ向かう引き潮の時間だ。潮が引きながら石を洗うので、濡れたカルセドニーの半透明がいちばん目立つ。濡れた石を光にかざしながら、波打ち際をゆっくり歩く。秋谷での基本の動きは、これだけだ。
浜には、波が届いた高さごとに石の段ができる。いちばん上の段は、前の大潮や時化で上がった石で、乾いて白っぽい。波打ち際の段は、いま動いている石だ。めのうを探すなら、まず下の段。上の段の石は、手ですくって波をかけてから見る。
冬(12〜2月)は人が少なく、浜が静かだ。石好きにとっては、いちばんいい季節だ。防水のウインドブレーカー、手袋、濡れても滑りにくい靴を用意する。冬の相模湾は波が荒いぶん石はよく動くが、足もさらわれやすい。石を見る目の半分は、波のほうに残しておく。
岩礁の上は、いつも濡れて滑る。海藻の付いた岩はなおさらだ。岩に乗らず、際に立って、波が引いた後を素早く見る。見たら下がる。次の波は、だいたい一つ前より大きい気がする。海の石拾いも、私はたいてい一人だ。だから、転んでも誰も見ていない場所には上がらない。
晴れた日は、光が石の半透明を浮かせてくれるので選びやすい。曇りでも、岩礁帯の石ならよく見える。雨・強風・高波の日は行かない。風が10メートルを超える予報や、波の高さが1.5メートルを超える予報の日は、岩礁に近づかない。めのうは、来週も同じ浜にある。
めのう・カルセドニーの見つけ方——4つのコツ
① 半透明の白〜青白色を狙う
秋谷・立石のカルセドニーは、乳白色から青みがかった白が多い。光にかざすと、中がぼんやり透ける。チャートや砂岩は、似た色でも光を通さない。見分けは、ほぼそれだけでいい。
② 岩礁の際・石が積もる場所を優先する
重さでは選べない。カルセドニーの重さは、まわりの石とほとんど変わらない。だから、溜まる場所で選ぶ。波の流れが変わる場所——岩礁の際、大きな石の背後、波が緩む浜の境目。砂だけの平らな浜より、砂利と砂が混じる「境目」を歩く。「庭砂利のように石が積もるエリア」を見つけたら、そこで腰を落ち着ける。
③ 濡れている状態で探す
カルセドニーは、乾くと光沢が落ちて、ほかの石に紛れる。濡れているうちは、半透明とつやが戻る。波打ち際を中心に歩き、気になる石は波で濡らして見る。乾いた浜で選ぶのは、目をつぶって選ぶのに近い。
④ 縞模様(めのう)を見逃さない
カルセドニーの上位品が「めのう(瑪瑙)」だ。縞模様や斑(ぶち)模様が入るものを探す。縞はルーペ(10倍)で見ると分かりやすい。
最初の1時間、何も見つからないのはふつうのことだ。都市近郊の浜は拾い尽くされた、と決めるのはまだ早い。足元の砂利でオレンジ色の半透明が光れば、それがめのうだ。
浜でいちばん紛らわしいのは、シーグラスと白い石英だ。シーグラスは色がどこまでも均一で、角の欠け方がガラスの貝殻状になる。中に小さな泡が見えたら、まず瓶のかけらだ。白い石英は透けるが、光り方がぎらっと硬い。カルセドニーの光は、もっと鈍い。ろうそくのろうのような、内側から曇った光り方をする。
濡れた浜で迷ったら、石を二つ並べて同じ光にかざす。片方だけ、光がぼやけて石の奥にたまる。それがカルセドニーだ。一つだけ見て決めようとすると、だいたい迷う。比べれば、浜のほうが答えを出してくれる。シーグラスや石英まで含めて見比べるなら、海岸で拾える石の種類一覧が手元にあると早い。
採集できる石の種類と市場価値
| 石の種類 | 見つかりやすさ | 特徴 | 市場価値 |
|---|---|---|---|
| カルセドニー(玉髄) | 高(★★★) | 乳白色〜青白色・半透明。最もよく見つかる | ほぼゼロ(欠片)〜500円 |
| めのう(瑪瑙)・縞めのう | 低(★☆☆) | 縞模様入り。赤味がかった「みかんめのう」が特産 | 500〜5,000円(研磨済み) |
| 碧玉(ジャスパー) | 中(★★☆) | 不透明の赤茶〜緑色。産出量多い | ほぼゼロ〜500円 |
| チャート | 高(★★★) | 緻密な暗色の石 | ほぼゼロ |
| セラドン石 | 極低(特レア) | 美しい緑色 | 1,000〜10,000円 |
赤い石を見つけたら、まず光にかざす。透ければめのう、透けなければ碧玉(ジャスパー)だ。碧玉は濡れると赤茶や深い緑が沈んだ色で光り、乾くとれんが色に戻る。めのうと同じ玉髄の仲間でも、光を通さないぶん、色だけで勝負する石だ。並べると、こっちのほうが落ち着いて見える日もある。
値段の話は、一度だけしておく。浜のカルセドニーは、欠片ならほぼ値がつかない。磨いて縞の出ためのうでも、高い石ではない。仕入れ値と売り値を長く見てきた目で言えば、こういう石の値を支えるのは石そのものより、「どの浜で、いつ拾ったか」の一行のほうだ。秋谷は、値段で拾う浜ではない。
持ち帰った石は、その日のうちに真水で洗う。海水の塩が乾いて結晶になると、石の表面を傷めることがある。乾かしたら一個ずつ小袋に分け、採集日と浜の名前を書いた紙を一枚入れる。これを省いた石は、いずれ、どこの浜の石だったか分からなくなる。石は、自分からは名乗らない。持ち帰るのは、ポケットに入るくらいまで。浜の石は、次に来る人のぶんでもある。
採集した石の楽しみ方——研磨・コレクション・交換
拾って終わりにしない手もある。磨く、並べる、交換する。帰ってからの楽しみを一つ決めておくと、浜での石の選び方まで違ってくる。磨くつもりなら、ひびの少ない石。並べるつもりなら、形のいい石。同じ浜でも、拾う手が変わる。
磨く作業に、カルセドニーとめのうはいちばん向く石の一つだ。原石のうちは白く濁って地味な石が、磨くと内側の半透明と縞と色を出す。拾った時点では、その石が何を隠しているか分からない。道具は耐水サンドペーパー(#400→#800→#1500)と酸化セリウム研磨剤で、1,000円以下で始められる。
#400で表面の白い曇りが取れはじめ、#800、#1500と番手を上げるうちに、奥の透けが戻ってくる。最後に酸化セリウムを布につけて磨くと、濡れていたときの顔が、乾いても残るようになる。浜で一瞬だけ見えた色を、家で取り戻す作業だ。手間のわりに、地味に報われる。番手ごとの手の動かし方は、河原の石の手磨きで一つずつ追った。
並べるなら、浜ごとに分ける。秋谷の袋、立石の袋、久留和の袋。並べてみると、同じ半島の浜でも石の顔が少しずつ違って見えてくる。何十年かたって引き出しを開けても、袋の一つずつがその日の浜を覚えている。
交換という楽しみ方もある。鉱物愛好会やミネラルショー、SNSでは、産地別の採集石の交換が盛んだ。「秋谷産カルセドニー」と「久慈川産めのう」を取り替える。自分では行けない産地の石が、向こうからやって来る。
東京から日帰りで何度でも来られる距離に、本物のカルセドニーが落ちている。全国を見ても珍しい条件だ。一回で決めつけず、季節や潮を変えて何度か来る。同じ浜が、来るたびに違う顔をする。

三浦半島1日コース——採集と観光の両立
秋谷・立石は、三浦半島の観光とつなげやすい。石だけ拾って帰るのは、少しもったいない。
午前は立石から秋谷へ浜を歩き、昼は三崎港のマグロか、逗子・葉山まで戻って食べる。午後は三浦半島の南端、城ヶ島の断崖と灯台を見に行くか、葉山の森戸海岸を歩く。石を拾って、絶景を見て、旨いものを食べる。三浦半島なら、それが一日で片づく。
夕方は立石公園に戻る。立石は昔から「三浦七石」の一つに数えられ、江戸の広重も、この岩のある景色を描いた。描かれてきたのは、いつも岩と海のほうだ。足元の石は、たぶん一度も絵になっていない。昼に拾った石を、夕日に透かしてみる。昼の浜では見えなかった色が出る。
よくある質問
Q. 子供と一緒に楽しめる?
楽しめる。立石公園は整備された公園なので、子供連れに向く。探す前に、透ける石を一つ見せておくといい。見本があると、子どもの目はすぐ合う。岩礁の際は滑るので、大人がそばにつく。夏の秋谷海岸は海水浴客が多いが、石浜のあたりは比較的静かだ。
Q. ルーペは要る?
あれば便利、くらいだ。10倍のルーペがあると、縞模様(めのうの証拠)の確認や、カルセドニーと石英の区別に役立つ。ただ、基本の選別は「光に透かして半透明かどうか」を目で見れば足りる。スマートフォンのカメラを最大倍率にした「スマホルーペ」でも代わりになる。
Q. 何も見つからないことはある?
ある。満潮時や波の静かな時期は石が動かず、成果が出にくい。空振りの日も、その日の潮の高さと浜の段の位置は覚えて帰る。次の一回が、それだけ楽になる。
石好き次郎から
秋谷は、東京からいちばん近いメノウの海岸の一つだ。それでいて、拾える石は本物のカルセドニーになる。
秋谷・立石は、季節で顔が変わる。春は霞のかかった海、冬は透き通った空気の向こうに富士山。拾った石を手に取ると、その日の海の色まで一緒に出てくる。石だけ持ち帰ったつもりが、景色もついてくる。
初めての日が空振りでも、それでいい。この浜は、通うほど目が育つ。帰りの電車で次の干潮の日を調べ始めたら、もう手遅れだと思っていい。私はとっくに手遅れだ。
浜のカルセドニーに、値段はほとんどつかない。ただ、潮を読んで、濡れているうちに自分で選んだ一個だ。値札より、そっちのほうが重い。
それで足りる。

スポット情報まとめ
| 採れる石 | めのう・カルセドニー |
|---|---|
| 難易度 | 初心者向け |
| 料金 | 無料 |
| Googleマップ | 地図・経路を開く |
| 最終確認日 | 2026年7月 |
公式確認先

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