須佐ホルンフェルスの縞はどうできた——海底の砂泥をマグマが焼いた崖

石好き次郎
須佐の崖を初めて見たとき、巨大な縞瑪瑙が海から突き出しているのかと思った。近づいてみると、瑪瑙のような透明感はどこにもなかった。縞は、まったく別の理由でできていた。

須佐の海岸には、黒と淡灰色の縞が崖一面に走る。巨大な縞瑪瑙のように見えるが、縞は鉱物が空洞の中で成長したものではない。海底へ交互に積もった砂と泥の層が、後から近づいたマグマの熱で硬く焼かれてできた。

「ホルンフェルス」は模様の名前ではなく、熱によって作り変えられた岩の名前だ。この記事では、須佐の崖で何が起きたのかを、現地で確かめられる順番で書く。縞模様の石全般の見分け方は河原の縞模様の石の見分け方にまとめた。

目次

須佐の縞は何の縞なのか

濃い色の帯は泥の層、薄い色の帯はかつて砂だった層——須佐ホルンフェルスの縞は、鉱物が結晶成長してできたメノウの縞とは根本的に別物だ。半透明ではなく、緻密で不透明な岩肌に、堆積した順番がそのまま焼き付いている。

崖の高さは約12m。北長門海岸国定公園の海岸沿いにそびえ、日本の地質百選に加えて「21世紀に残す日本の風景遺産100選」にも選ばれている。日本海の荒波を受ける昼の姿と、西日が当たり黄金色に染まる夕方の姿とでは、同じ崖でもまるで印象が違う。

砂岩と泥岩が海底へ交互に積もった

須佐層群と呼ばれるこの地層は、約1500万年前(資料により1400万〜2000万年前)、日本海が形成されていく時期に、砂と泥が交互に海底へ積もってできた。ゆっくりと時間をかけて堆積した砂泥互層が、須佐の崖の土台だ。

この時代、日本列島はまだユーラシア大陸の縁にくっついていた。約2000万年前から大陸の縁が引き裂かれ始め、間に海が広がり、約1500万年前ごろに日本海の拡大がほぼ終わった。須佐層群の砂と泥は、大陸から切り離されて日本列島が今の位置へ動いていく、まさにその途中の海底に積もったものだ。崖の縞は、日本という島が生まれかけていた時代の記録でもある。

マグマの熱でホルンフェルスになった

その後、地下から高温の火成岩体(高山はんれい岩)が地層に貫入した。マグマ本体そのものではなく、その熱が周囲の砂泥互層を焼き、鉱物を再結晶させた。これが接触変成作用で、できた岩がホルンフェルスだ。

変成の強さは崖の場所によって違う

貫入したマグマ(高山はんれい岩)に近いほど強く焼かれ、遠いほど元の地層の様子を残す。縞模様がくっきり残っている部分は、比較的変成温度が低く、元の須佐層群に近い状態を保っている場所だ。1つの崖の中に、焼かれ方の強弱が帯状に分布している。

強く焼かれた部分では、もとの泥岩に含まれていた鉱物が高温で分解し、紅柱石や菫青石といった新しい鉱物が結晶として育つことがある。同じ菫青石は、京都府亀岡市の桜石(菫青石仮晶)を作った鉱物でもある。焼かれ方の強さによって、須佐の岩は縞を保つ場合と、新しい鉱物を育てる場合の両方に枝分かれする。

須佐石——墓石になったマグマの塊

ホルンフェルスを作った張本人である高山はんれい岩そのものにも、名前がついている。「須佐石」と呼ばれ、黒く重厚な質感から古くから墓石や石材として利用されてきた。焼いた側(マグマ)と焼かれた側(砂泥互層)、両方が地名を背負った石として今に残っている。

高山の磁石石とスサノオ伝説

高山山頂付近には、方位磁針を狂わせるほど磁力を帯びた岩「磁石石」がある。磁鉄鉱を多く含むはんれい岩で、こちらも国の天然記念物に指定されている。須佐の地名は、日本神話のスサノオにちなむという伝承がある。航海中に方角が分からなくなったスサノオが、船に積んでいた磁石が高山の磁石石の方角を指したことを頼りに須佐湾へ入港できた、という話だ。焼かれた地層と、方位を狂わせる岩——1つの山に、科学と神話の両方の理由が重なっている。

須佐湾のもう2つの奇岩——畳が淵と龍鱗郷

須佐湾一帯には、ホルンフェルス以外にも柱状節理の名所がある。「畳が淵」は河床に亀甲状の岩石が並ぶ柱状節理で、「龍鱗郷」は六角形の石柱が立ち並ぶ玄武岩の柱状節理で山口県の天然記念物に指定されている。ホルンフェルスが「熱で焼かれてできた縞」なら、こちらは「冷えて固まる過程で割れた柱」——同じ須佐の地質でも、でき方がまったく違う地形が近くに並ぶ。

畳が淵はJR須佐駅から車で20分、無料駐車場が10台分ある。駐車場から遊歩道を約7分、約180段の階段を降りると河床に出る。亀甲模様の敷石の間を清流が流れ、山口県自然百選にも選ばれている。石段は滑りやすいため、歩きやすい靴で向かう。

アクセスと萩ジオパーク

萩市街から車で約40分。駐車場から遊歩道を約500m・徒歩8分ほど歩くと崖の下まで降りられる。須佐ホルンフェルスは2018年に日本ジオパークへ認定された「萩ジオパーク」の一部だ。萩ジオパークには、約40万年前に噴火した伊良尾山をはじめ、過去1億年間の火山活動の跡が広く分布し、萩焼や萩城下町といった文化もこの土地の地質と深く結びついている。

石好き次郎
黒い層と白っぽい層の厚さを見比べていたら、砂と泥が交互に積もった順番がそのまま読めることに気づいた。焼かれても、積もった順番は消えなかった。

現地で縞、硬さ、節理を見る順番

①黒い層と淡色層、それぞれの厚さを見る。層の厚さの違いは、堆積した砂と泥の量の違いをそのまま示す。②縞が崖の表面だけでなく、内部まで連続しているかを確認する。③波で削られて丸くなった面と、新しく割れた面の色・質感の違いを見比べる。④縞瑪瑙とは違い、半透明ではなく緻密で硬い岩肌であることを確かめる。⑤マグマ本体(高山はんれい岩)の分布と、周囲の焼かれた地層(ホルンフェルス)の境界を意識して歩く。

崖に近づくほど波しぶきがかかることがあり、天気が良くても波は荒い日がある。写真を撮るのに集中していると足元や波に気づきにくいため、撮影と観察は少し離れた場所からのほうが安全に楽しめる。

「日本一」「世界一」を使わず価値を書く

須佐ホルンフェルスは日本の地質百選に選ばれ、国の名勝・天然記念物に指定されている。それで十分に価値のある場所だ。「日本一」「世界唯一」といった裏付けの弱い表現を使わなくても、縞1本1本が海底に積もった年月と、マグマに焼かれた瞬間を記録している事実だけで、見る価値は揺るがない。

須佐は活イカ料理でも知られる漁港の町だ。ホルンフェルスを見た後、須佐漁港周辺で新鮮なイカを食べて帰る、という組み合わせが定番だ。地質を見る目的地と、地元の味を楽しむ目的地が、車で数分の距離に両方そろう。

須佐ホルンフェルスに関するよくある質問

Q. 縞模様の石を持ち帰れますか?
この記事では崖からの採取を案内しない。国指定天然記念物・名勝のジオサイトであり、露頭を削る行為はできない。

Q. メノウと同じ石ですか?
違う。メノウは鉱物が空洞の中で層状に結晶成長した縞で、須佐ホルンフェルスは堆積した砂泥層が熱で焼かれてできた縞だ。成因がまったく異なる。

Q. 崖のどこまで近づけますか?
駐車場から遊歩道が整備されており、崖下まで降りられる区間がある。岩場は足元が悪いため、現地の案内表示に従う。

Q. 見学にどれくらい時間がかかりますか?
遊歩道の往復だけなら短時間で済むが、縞の厚さや境界を観察しながら歩くと、想定より長く滞在することが多い。

Q. 須佐石とは違うのですか?
須佐石はホルンフェルスを作った側のマグマ由来の岩(高山はんれい岩)で、ホルンフェルスは焼かれた側の地層だ。同じ現場で生まれた石だが、指しているものが逆になる。

Q. 萩市街から他に立ち寄れる場所はありますか?
須佐湾内には畳が淵・龍鱗郷という別の柱状節理の名所がある。萩城下町・萩焼の窯元も車で回れる距離にある。

石好き次郎
波で削られた面と、割ったばかりの新鮮な断面では、同じ石でも色の見え方が違う。崖を見るときは、削られていない部分を探すようになった。

石好き次郎から

須佐の崖を最初に見たとき、巨大な縞瑪瑙が海から突き出しているのかと思った。近づいて分かったのは、これは結晶が育った跡ではなく、砂と泥が積もった順番がそのまま焼き付いた跡だということだった。

黒い層と白っぽい層の厚さを見比べると、堆積した砂と泥の量の違いがそのまま読める。焼かれて別の石に変わっても、積もった順番は消えなかった。石が履歴を残したまま姿を変える瞬間を、崖の縞の中に見た気がした。

波で削られた面と、割ったばかりの新鮮な断面では、同じ石でも色の見え方が違う。崖を見るときは、削られていない部分を探すようになった。

須佐の縞は、海底に積もった順番を残したまま、マグマの熱で別の石になった。

石好き次郎
「日本一」と言いたくなる景色だったが、そう書かなくても、目の前の縞の厚さを数えるだけで十分に時間が過ぎた。

スポット情報まとめ

場所山口県萩市須佐高山(須佐湾)
見られる地質須佐層群の砂泥互層が熱変成したホルンフェルス。黒(泥岩起源)と淡灰色(砂岩起源)の縞
難易度初心者向け(駐車場から遊歩道約500m、崖下まで徒歩約8分)
採集可否不可(国指定天然記念物・名勝のジオサイト)
子ども向け○(ジオガイドツアーで地層観察・化石探し等の体験あり)
料金見学は無料。ガイドツアーは要問い合わせ
最終確認日2026年7月

公式確認先

設備・アクセス・ツアー情報は、次の公式ページで確認している。訪問前に最新情報を確認するのが確実だ。

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石好き次郎

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