香春町・金辺川は鉱物の宝箱?九州の川を歩く

金辺川(香春町)で鉱物が採——採集体験の写真
石好き次郎
金辺川は、欲ばりな川だ。白い方解石、チャート、黄鉄鉱、緑のスカルンのかけら。一つの川で、これだけ顔ぶれがそろう。石好きには、ありがたい欲ばりだ。

福岡県香春町の金辺川(きべがわ)は、鉱物の宝箱と呼んでいい川だ。銅の山として知られた香春岳のふもとで、生まれの違う石が一つの河原に集まる。ただ、「宝箱」と呼ばれる川を見ると、まず疑ってかかる。箱が立派なほど、開けたら空だったりする。

疑いたくなる材料は、そろいすぎている。この川のそばには「採銅所(さいどうしょ)」という地名があり、奈良の大仏の銅はここの香春岳から出た、と言われる。ひねりのない地名に、出来すぎた話。眉に唾をつけるには十分だ。

その香春岳の麓を流れるのが、金辺川だ。焼かれた石、海の底でできた石、熱い水が置いていった石。生まれの違う三種類のかけらが、一つの川へ流れ出る。話のとおりなら、中身はある。本当かどうかは、順に開けて確かめる。

場所福岡県香春町・金辺川の河川敷(採銅所駅周辺)
駐車場駅周辺は少ない。香春町農村環境改善センター近くの公共駐車場
採集可否河原の手拾いは可。一ノ岳の採掘場には入れない。神間歩は史跡なので見るだけ
子ども向け△
最終確認日2026年7月

先に白状しておく。金辺川には、まだ行けていない。この記事は、資料と地図で箱を一つずつ開けた記録だ。採れる石と地図は、末尾のまとめに置いた。

目次

東大寺大仏の銅はここから?——採銅所1,300年の歴史

聖武天皇が大仏建立を命じたのは743年。国を挙げて、大量の銅が要った。香春岳は、そのころすでに名の知れた銅の山だった。「銅を採るところ」という名前が、1,300年たっても大字の名として残る。国の大事業とこれほど真っすぐつながる地名を、私はほかに思いつかない。

今の採銅所は、人の少ない静かな農村だ。最寄りはJR日田彦山線の採銅所駅。大正モダンの木造駅舎が残る無人駅で、駅舎は町の有形文化財だ。鉄道好きにも知られる。石と歴史と鉄道。三種類の好き者が、同じ小さな駅で降りる。

大仏の話は、正直に書いておく。香春の銅が大仏に使われたというのは、土地の言い伝えだ。大仏殿の横で出た銅の塊を分析して、はっきり名前が挙がったのは山口の長登銅山のほうだった。香春の銅がどれだけ入ったかは、確かめようがない。宝箱の噂は、一つ目から少し怪しい。

それでも、記録に残る銅はある。三ノ岳の清祀殿(せいしでん)跡は、宇佐八幡宮に納める神鏡を鋳た場所と考えられ、そばには銅を掘った坑道「神間歩(かんまぶ)」が残る。「間歩」は坑道のことで、今は神間歩公園として見学できる。大仏より前から、この山の銅は神様の鏡になっていた。

香春岳の地質——なぜ多くの鉱物が採れるのか

香春岳の地質は、ひとことで言えば重ね塗りだ。古生代の石灰岩に、中生代の花崗岩が割り込んだ。そのときの熱で石灰岩が焼かれ(スカルン化)、あとから来た熱水が銅・鉄・亜鉛の鉱脈を置いていった。「焼かれてできた鉱物(スカルン)」と「熱水が置いていった鉱物」。成り立ちの違う2種類が一か所にそろう、めずらしい山だ。

三つの峰のうち、いま登れるのは三ノ岳だけだ。一ノ岳は、今も石灰石を掘る山だ。三ノ岳のまわりには採掘跡の露頭が残り、スカルンの岩肌が見られる。それでも、石を拾う舞台は川沿いの河原になる。山の中身は、川が少しずつ下まで運んでくれる。拾う側は、下で待っていればいい。

スカルンは、マグマが石灰岩に触れたところにできる熱変成の帯だ。マグマから来た珪酸と、石灰岩の炭酸カルシウムが反応して、多くの種類の鉱物が生まれる。ざくろ石・透輝石・珪灰石・灰鉄輝石・方解石。スカルンは、鉱物の見本市だ。香春岳の鉱物の多くも、元をたどればここに行き着く。

中身の点検は、昭和の半ばに一度されている。二ノ岳の西から三ノ岳の北にかけて、金属の小さな鉱山が並んでいた。名前は横鶴、宗丹、竜神、床屋。そして「水晶」。宝箱に、ちゃんと名札が付いていた。床屋で銅を掘る光景だけは、うまく想像できない。

中身には、目に見えないものまで入っていた。ある鉱山のスカルンには、灰重石というタングステンの鉱物がきわめて多く含まれていた。確かめた道具は、紫外線のランプだ。灰重石は、紫外線で青白く光る。昼の光では白っぽい石にしか見えない。拾った石を家で光らせてみる。私なら、一度はやる。石が光る仕組みは、鉱物の蛍光で先に読める。

一ノ岳は長いあいだ石灰石を掘られ、セメントの原料として削られ続けてきた。採掘は今も続く。500m近くあったという山頂は、元の半分ほどになった。山の形が、人の一生より短い時間で変わる。石好きとしては胸がざわつくが、目をそらす話でもない。

石好き次郎
削られた山は、セメントになって、どこかの町の壁や橋になった。山は減ったというより、引っ越したのかもしれない。

採れる鉱物一覧——石灰岩・スカルン・熱水鉱脈の産物

香春岳の石灰岩は、それ自体が拾う価値のある石だ。サンゴ・ウミユリ・フズリナなど、古生代の化石が入ることがある。フズリナ(紡錘虫)は石炭紀〜ペルム紀の示準化石で、石灰岩の断面を磨くと中の構造が見える。白い石の中に、米粒ほどの生き物の跡。地味だが、磨く手間をかけるだけの値打ちはある。

石灰岩の隣では、赤や灰色のチャートも転がる。チャートは、知らなければただの「赤い礫」だ。何億年もかけて海の底に積もった放散虫(ほうさんちゅう)の殻でできていると知ると、同じ石が別の重さを持つ。手に乗せた重さは、何も変わらないのに。

緑の石を見ると、つい手が伸びる。香春岳のスカルンなら、緑は透輝石や灰鉄輝石あたりを疑う。色は白っぽい緑〜暗い緑。方解石や白い石英とくっついて出ることが多い。ルーペで見て、細い柱が寄り集まっていたら当たりに近い。名前を一つに決められなくても、緑のスカルンを一個持ち帰れば、この山の「焼かれた側」の見本になる。

銅の鉱物なら、「孔雀石(マラカイト)」と「藍銅鉱(アズライト)」も、香春岳の二次鉱物として記録がある。銅の酸化帯にできる鉱物で、孔雀石は鮮やかな緑、藍銅鉱は深い青。並べるだけで絵になる。ただし良いものはめったに出ない。出たら、その日の運はそこで使い切ったと思っていい。

岩石タイプ別・採れる鉱物一覧

鉱物名起源特徴・見分け方見つかりやすさ
方解石(カルサイト)石灰岩白〜透明の菱形結晶。劈開(へきかい)が鮮明でキラキラ光る。酸(塩酸)に反応して泡を出す高(★★★)
石英(水晶含む)熱水鉱脈白〜透明。六角柱状の結晶が出ることも高(★★★)
黄鉄鉱(パイライト)熱水鉱脈金色に輝く完全な立方体結晶。「愚者の金」の異名。金とは違い、叩くと割れる中(★★☆)
磁鉄鉱(マグネタイト)スカルン黒色・磁石に強く引き付けられる。八面体結晶中(★★☆)
ざくろ石(スカルンのもの)スカルン緑〜褐色〜黒色のガーネット。スカルン特有の鉱物。菱形十二面体の結晶が見られることも低(★☆☆)
珪灰石(ウォラストナイト)スカルン白色の針状・繊維状鉱物。石灰岩とスカルンの境界部に多い中(★★☆)
透輝石(ダイオプサイド)スカルン緑白〜灰色の柱状結晶低(★☆☆)
孔雀石・藍銅鉱二次鉱物(銅の鉱物が地表で変わったもの)鮮やかな緑と深い青。銅の鉱脈のそばで、岩の表面に薄くつく極低(★☆☆)

採集方法のコツ——スカルン鉱物の探し方

香春岳の難しさは、岩がなかなか顔を出さないことだ。九州の山は緑が濃く、岩盤は土と草の下に隠れる。狙うのは、①川の切り岸(水が削って岩が出た所)②採掘跡の崩れた面③林道工事の切り通し。何かに削られて、岩の肌が見える場所を選んで歩く。

石英脈(クォーツベイン)は、香春岳まわりの岩によく走る。白〜灰色の石英の筋が黒い岩盤を切る模様は、熱水が岩の割れ目を埋めた跡だ。その近くには、黄鉄鉱・黄銅鉱・孔雀石など熱水から生まれた鉱物が出ることがある。白い筋を見たら、足を止める。めずらしい鉱物は、たいてい白い筋のご近所にいる。

装備は、ルーペ(10倍)・地質ハンマー・ゴーグル・軍手。スカルン鉱物は岩の割れ目や空洞(晶洞)にできやすいので、表面より割れ目と穴を見る。ハンマーで岩を割るなら、ゴーグルは必ずかける。欠片は、思った以上の勢いで飛ぶ。石は替えがきくが、目は替えがきかない。

金辺川の河原では、水で洗いながら見るのがいい。乾いた礫は、どれも同じ灰色に見える。濡らすと、スカルンのかけらの緑・方解石の白・黄鉄鉱の金属光沢が急に出てくる。河原では、水がいちばん安いルーペだ。パンニング皿を持っていけば、砂利を流して、重い鉱物(磁鉄鉱・黄銅鉱など)を皿の真ん中に残す手もある。残る顔ぶれはパンニング皿の底で。

【白い方解石・石英を入り口にする】
金辺川の河原でいちばん見つけやすいのは、白い石英と、透明〜白の方解石だ。これを拾いながら歩くと、どのあたりに石灰岩やスカルン系の石が多いか、頭の中に地図ができてくる。石灰岩のかけら(白色・貝殻状の光沢・酸に溶ける)が多い場所は、スカルン鉱物の見込みも高い。まずは白い石で、河原の地図を描く。

方解石は、透明なものを一個見つけたら、新聞の上に置いてみる。文字が二重に見える。複屈折という、光学の教科書に載る現象だ。それを河原で拾った石で確かめられる。石のほうが、こちらに二度見をさせてくる。

白い石が方解石か石英か迷ったら、鉄くぎで軽くこすってみる。方解石は硬さ3なので、くぎに負けて白い筋が残る。石英は7で、逆にくぎのほうが削れ、石の上に鉄の黒い跡が付く。日の当たる河原では、方解石の割れた平らな面が、角度によって一瞬だけ鏡のように光る。石英の割れ口は、貝殻の内側のような丸いくぼみだ。くぎ一本で、半日分の迷いが片づく。

【黄鉄鉱の立方体を狙う】
「愚者の金」こと黄鉄鉱(パイライト)は、金色に光る立方体の結晶で出る。自然が定規も使わずにこの形を作る。何度見ても、少し腑に落ちない。熱水鉱脈から来た石なので、灰色〜黒っぽい岩の割れ面に、金色の粒が見える石を探す。濡れた河原では、金色より先に、四角い光り方で目に入る。

黄鉄鉱は、石の売り場でもいつも人気者だ。安くて、光って、形がいい。値段で選ぶ石ではない。形で選ぶ石だ。それを河原で自分で拾えるのが、金辺川のいいところだ。

【緑色の岩石片を見逃さない】
スカルンのざくろ石は、緑〜褐色〜黒っぽい岩のかけらとして見つかる。「緑がかった塊」を見つけたら手に取り、ルーペで表面の細かい粒状の結晶を見る。よその産地では、同じ仲間の灰鉄ざくろ石が、宝石質のデマントイドガーネットになることもある。親戚に宝石がいる石だと思うと、河原の塊も少し品よく見える。その親戚の虹色はガーネットは赤い石ではないで見られる。

河原に着いたら、いきなりしゃがまない。まず全体を見渡す。白っぽい石が多い帯、黒っぽい石が多い帯、緑が混じる帯。金辺川の河原は、山のどの岩から来たかで、石の色がゆるく分かれるはずだ。白い帯で方解石、黒い帯で金色の点、緑の帯でスカルンのかけら。目当ての帯を決めてからしゃがむと、同じ一時間でも拾う石の顔ぶれが変わる。

アクセスと基本情報

日田彦山線は、2023年に南の添田〜夜明の間がBRT(バス)に切り替わった。採銅所駅は北側の、今も列車が走る区間にある。出る前に運行情報だけ見ておけばいい。いちばん身軽なのは車で、北九州・福岡からなら日帰りで行ける。

採銅所駅へは、小倉から日田彦山線で一本、1時間ほど。車なら九州自動車道の小倉東ICから国道322号で、30分ほど山へ向かう。駅のまわりに駐車場は少ないが、香春町農村環境改善センター近くに公共の駐車場がある。

季節は春(3〜5月)と秋(9〜11月)がいい。夏は蒸し暑く、岩場で体力を削られる。夏に行くなら、水は多すぎるくらいでいい。冬は雨と霜で足元が滑る。

山あいなので、天気の変わり方も急だ。晴れ予報の日を選ぶ。地元で石を拾う人に会えたら、話を聞いておくと得をする。河原の新しい情報は、たいてい人の口にある。

アクセス手段詳細
車九州自動車道・小倉東ICから国道322号経由で約30分。北九州市内から約40分。福岡市内から約1時間
電車JR日田彦山線・採銅所駅下車。小倉から一本。BRTに替わったのは添田より南の区間で、採銅所駅には列車が来る
採銅所駅香春町有形文化財の、大正モダンな木造駅舎
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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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