灰色がかった緑の、薄い一枚。横から見ると、紙を重ねたように層が走る。濡れた面を傾けると、縞が鈍く光る。三波川変成帯の結晶片岩だ。荒川中流で拾うなら、かわせみ河原。長瀞で眺めた岩と同じ地質の石を、ここでは自分の手で拾える。この縞を、帯の柄にたとえた人がいる。誰かは、あとで書く。
ただし、隣に「玉淀」という景勝地がある。ここは見る場所で、拾う場所ではない。石拾いは、その少し先のかわせみ河原が受けてくれる。この線引きを知らないと、いい河原を素通りして帰ることになる。
拾い方は難しくない。河原を歩いて、片理(薄い層が重なった筋)のある石を探すだけだ。河原に面して埼玉県立川の博物館が立ち、すぐ上には鉢形城跡がある。石だけでは終わらない河原だ。
何が拾えるか。玉淀とどう違うか。なぜここに片岩があるのか。それから、この河原にまつわる話。順に書く。
| 場所 | 埼玉県寄居町・かわせみ河原(玉淀大橋付近) |
|---|---|
| 駐車場 | 河原に車で入れる区域あり。夏(2026年は8月)は環境美化協力金(町民は無料) |
| トイレ | あり(河原から少し離れた場所) |
| 採集可否 | かわせみ河原は可。玉淀の県指定名勝区域は不可(景観保護区域) |
| 子ども向け | 向く(川の博物館が隣接) |
| 最終確認日 | 2026年7月 |
採れる石・料金・地図は、記事の一番下のスポット情報に置いた。
かわせみ河原で拾えるもの——結晶片岩
板のように割れる石には、割れるだけの理由がある。かわせみ河原の足元は、三波川変成帯。この帯の岩は、薄く層状に割れる。これが結晶片岩。長瀞の岩畳と同じ仲間だ。
| 採れるもの | 見た目 | 特徴 |
|---|---|---|
| 緑色片岩 | 緑がかった灰色。薄く層状 | 片理面が光を反射してつやが出る |
| 紅簾石片岩 | ピンクから赤紫の縞 | 長瀞でも知られる色物。数は少ない |
| チャート | 灰〜白。硬く緻密 | 片理はなく、丸みを帯びる |
本命は結晶片岩だ。板のように薄く割れる石を見つけたら、片岩の仲間と思っていい。色で目を引くのは紅簾石片岩だが、数は多くない。最初は緑色片岩で、層の質感を手に覚えさせる。赤紫を探すのは、そのあとでいい。
手に取ると、片岩は丸い石と触った感じが違う。指でなぞると、層の段差がかすかに引っかかる。この手ざわりを一度覚えると、河原を歩くだけで見分けがつく。目より先に、指が覚える。
「玉淀」とかわせみ河原は違う——見る場所と拾う場所
秩父鉄道の玉淀駅は、この渓谷から名前をもらった。駅名になるほどの景色だ。玉淀は昭和十年に県の名勝になり、荒川沿いのおよそ三キロがその範囲になる。長瀞と同じで、ここは景色を見る場所。石を持ち帰る場所ではない。
名勝の渓谷は、川が岩を削った形そのものを見せる場所だ。淵の深い緑、岩肌に走る縞、水がえぐった丸いくぼみ。
玉淀の岩場から下流へ歩くと、足元が岩から砂利に変わる。その砂利の中に、緑がかった平たい石が混じりだす。丸い石の中で、そこだけ板を立てたように角ばる。それが片岩だ。景色で満足して帰るのは、半分だけ見て帰るのと同じだ。

なぜ結晶片岩が採れるのか——三波川変成帯と長瀞のつながり
海の底にあった岩が、なぜ荒川の河原に転がるのか。三波川変成帯は、関東から四国まで帯状に続く変成岩の地帯だ。海底の岩がプレートの動きに巻き込まれ、地下深くで熱と圧力を受けて姿を変えた。それが結晶片岩になる。
長瀞の岩畳も、荒川中流のこの一帯も、同じ三波川変成帯の上にある。荒川が上流から結晶片岩を削り、下流へ運ぶ。かわせみ河原は、その途中で石がひと休みする場所の一つだ。寄居から熊谷まで、山を出た荒川の河原をまとめて見るなら荒川で石拾いへ。
だから、長瀞で結晶片岩を見て「拾いたい」と思った人には、かわせみ河原がちょうどいい。岩畳の歩き方は長瀞の岩畳の記事に書いた。長瀞で見た続きが、少し下流の、拾える河原にある。

アクセスと河原の実際
かわせみ河原へは、東武東上線の鉢形駅から歩いて20分ほど。車なら、関越自動車道の花園ICから国道140号で10分ほどだ。高麗川まで入れた埼玉全体の入口は、埼玉の川原のほうだ。
河原は町が管理していて、夏の混む時期(2026年は8月)には環境美化協力金がかかる。町民は無料だ。トイレは河原から少し離れた場所にあり、水場も一つある。
集まったお金は、河原の整備とゴミの片づけに回る。タダで開いた河原ではない。町と、ここで遊ぶ人が一緒に保つ河原だ。
地盤のやわらかい場所があり、車で河原に入るとスタックすることがある。夏はバーベキュー客でにぎわう。肉の焼ける匂いの中で片岩を探すのは、なかなか集中がいる。落ち着くのは朝の早い時間だ。
物語のある河原——鉢形城跡と川の博物館
秀吉の小田原攻めのとき、5万の軍勢がこの河原の上の城を囲んだ。鉢形城だ。荒川と深沢川に挟まれた高台に築かれた、戦国の城。河原から見上げると、この崖がなぜ選ばれたかが分かる。
鉢形城は、断崖と川を天然の堀にした城だった。荒川が北を守り、深沢川が東を守る。石を拾いながら見上げるあの崖が、かつての防御線だ。戦国の武将は崖を見て守りを考え、私は崖を見て片岩の出どころを考える。
河原に面して、埼玉県立川の博物館、通称かわはくが立つ。目印は、直径24.2メートルの大水車。日本一の大きさだ。荒川そのものをテーマにした博物館で、石拾いの前後に寄ると、この川の成り立ちがよく分かる。かわはくの次に行く館は、全国の鉱物・化石博物館から選べる。片岩を拾いに来て、水車を見上げて帰る。悪くない寄り道だ。
この一帯では、玉淀駅集合の砂金採り体験のイベントも開かれてきた。2025年、2026年と続けて案内が出ていて、単発の企画ではないようだ。予約制で、開催日や集合場所は回ごとに変わる。石とは別の角度から、この川の砂と向き合える。全国の砂金の産地は砂金の川まとめに載せている。
冒頭の、帯の柄のたとえ。あれは宮沢賢治だ。1916年、盛岡の二十歳の学生が地質の研修旅行で秩父を訪れ、こう詠んだ。「つくづくと『粋なもやうの博多帯』荒川ぎしの片岩のいろ」。玉淀には、この旅の歌碑もある。百年以上前、この河原には石を見に来た先輩がいた。
結晶片岩の見分け方
河原には、片岩以外の石も多い。見分けの近道は、石を裏返して割れ口を見ることだ。薄い層が重なった面——片理面が見えたら、結晶片岩で決まりだ。
見分ける3つのポイント
- 層——割れ口に薄い層が重なって見える。丸い石にはない特徴
- つや——片理面が光を反射して、絹のような光沢を持つ
- 色——緑色片岩は緑がかった灰色、紅簾石片岩はピンク〜赤紫
よくある間違い
普通のチャートや砂岩を、片岩と間違えることがある。片岩は必ず層状に割れる。丸くて層が見えない石は、片岩でないことが多い。割れ口を見る癖さえつけば、間違いはぐっと減る。
拾った結晶片岩をどうするか
結晶片岩は、ブラシと水で洗えば十分だ。層が薄くはがれやすいので、強くこすらない。乾くと、緑や紅の色が少し沈む。色を楽しむなら、濡らして眺める。河原で見たあの色は、濡れた色だ。
紅簾石片岩のような色の濃い石は、磨くとつやが増す。ただ、層状の石なので磨きすぎると割れる。無理はしない。番手を上げる手順は、河原の石の手磨きのとおりでいい。産地はかわせみ河原、それに採集日を書いておけば、標本として十分だ。
ぬかるみと増水
車は案内された場所までにして、あとは歩く。ぬかるみに一度はまると、靴が片方だけ泥の中に残る。片岩より先に、靴を拾うことになる。
増水のあとは、河原の砂利が濁った水をかぶり、片岩の縞も泥に隠れる。雨が上がっても、水位が落ち着くまでは待つ。水が引いた朝、石が乾ききる前が、いちばん色が出る。
荒川中流での石拾いに関するよくある質問
初心者や子供でも拾える?
拾える。層のある石を探して歩くだけなので、道具も技術もいらない。隣に川の博物館があるので、石に飽きた子供の逃げ場もある。
一人で行っても大丈夫?
河原は開けていて、比較的行きやすい。気をつけるのは、やわらかい地盤と水際だけだ。行き先と帰る時間を家に伝えておけば、一人でも落ち着いて拾える。
川の博物館は石拾いの前後どちらに寄るのがいい?
先に寄れば、荒川の成り立ちを知ってから河原に立てる。後に寄れば、拾った石が展示のどれとつながるかを確かめられる。どちらでもいい。迷ったら後。拾った石で答え合わせをするのは、けっこう楽しい。
石好き次郎から
賢治が博多帯と見た縞は、地下で押しつぶされた跡だ。もとは海底の堆積物や火山岩。それが熱と圧力で、薄い層に並び直した。粋な柄の正体は、地下の圧力だ。そう知っても、やっぱり粋だと思う。
紅簾石片岩は、少ない。少ないから、色の濃い一枚を見つけた日は、帰りの足が軽い。
私のホームは多摩川と荒川だ。それでも荒川と聞くと、つい長瀞の岩畳が先に浮かぶ。少し下流に、景色と、拾える石と、城跡と、博物館が重なる河原がある。ホームの川でも、こういう河原は珍しい。もう一本のホーム、多摩川のほうは多摩川の鉱物図鑑で、上流から河口まで石を追える。
かわせみ河原は、派手な産地ではない。景色で満足しかけたら、あと少し歩く。石は、その先にある。

スポット情報まとめ
| 場所 | 埼玉県寄居町・かわせみ河原(玉淀大橋付近) |
|---|---|
| 採れるもの | 結晶片岩(緑色片岩・紅簾石片岩) |
| 難易度 | 低い |
| 料金 | 夏は環境美化協力金(金額は町の案内で) |
| Googleマップ | 地図・経路を開く |
| 最終確認日 | 2026年7月 |
公式確認先

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