1億2千万年前の石を割る。福井・勝山で化石発掘

福井県勝山市の化石発掘のイメージ

福井・勝山では、1億2千万年前の石を自分の手で割れる。しかも日本で見つかる恐竜化石の約80%は、この勝山市から出ている。勝山市は九頭竜川の流域にある。竜の名の川のほとりに、本物の恐竜が眠っていたわけだ。川に名前を付けた人も、さすがにそこまでは知らなかったと思う。

なぜここなのか。答えは石にある。勝山市北谷町に出ている「手取層群(てとりそうぐん)」のうち、約1億2千万年前の地層は、当時の川や湖の底にたまった泥と砂だ。海の地層には魚や貝が残るが、陸の恐竜は川や湖の堆積物でないと残りにくい。その条件が揃ったのが、勝山だった。

そしてここでは、その石を割らせてもらえる。ハンマーで割って、恐竜・ワニ・魚・植物の化石を探す。植物や貝の化石なら持ち帰れる。運よく恐竜の骨や歯が出たら博物館に登録され、割った人の名前が残る。当たる確率は低い。それでも外れた日には、1億2千万年前の石が手元に残る。

体験場所特徴料金・予約
どきどき恐竜発掘ランドかつやま恐竜の森(博物館から徒歩3分)北谷から運んだ石を割る。4歳〜。雨でもOK(屋根あり)。植物・貝化石は1人1点まで持ち帰り可(重要化石は施設保管)。開催は春〜秋の指定日有料・事前予約推奨。開催日は年度の公式カレンダーを確認
野外恐竜博物館ツアー勝山市北谷(博物館発バスで20分)実際の発掘現場を見学+体験。発掘現場の地層を肉眼で見られる有料・事前予約必須
化石研究体験(館内)福井県立恐竜博物館内化石クリーニング・CT化石観察・T.rex頭骨復元など4メニュー有料・当日空席あれば参加可
目次

手取層群——なぜ勝山だけに恐竜が集まるのか

手取層群は、ジュラ紀後期〜白亜紀前期にたまった地層で、北陸から飛騨にかけて広がる。勝山で恐竜が出るのは、そのうち約1億2千万年前の陸成層、つまり陸でたまった層だ。北谷町の杉山川沿いの露頭は保存状態が特に良く、恐竜博物館ができるきっかけになった。

同じ地層は、ほかの地域にも延びている。違うのは、出方だ。勝山では川の侵食で、地層が地表近くまで顔を出している。恐竜のいた時代の陸の地層が、削られて見える場所。化石探しの条件はそれだけで、その「それだけ」が揃う場所が少ない。

手取層群の地質と恐竜化石の関係

当時の北陸は、温暖で湿った大陸の内側だった。大きな川が流れ、恐竜が死ぬと川に運ばれ、砂や泥に埋もれた。河原で石を拾う身としては、ここがいちばんぐっとくる。1億2千万年前にも、川は石と砂を運んでいた。川の仕事は、いまの多摩川と何も変わらない。

石を割ったら名前が博物館に残る——「レア化石」のルール

名前が残る、と聞いて思い出すのはフタバスズキリュウだ。学名 Futabasaurus suzukii の「suzukii」は、見つけた鈴木少年の名前から来ている。新種を見つけた人の名前が、学名に入ることがある。勝山の体験発掘は、その可能性がゼロではない場所だ。

ルールははっきりしている。どきどき恐竜発掘ランドでは、植物化石や貝化石なら1人1個まで持ち帰れる。恐竜の骨・歯、ワニや魚のウロコのように研究に回る「レア化石」は持ち帰れず、博物館に提供する。

提供した化石には発掘者の名前が記録され、博物館の標本ラベルに残る可能性がある。過去の体験参加者が見つけた化石が、研究成果として報告されたケースもあるという。家には持ち帰れない代わりに、名前が博物館に入る。河原の石拾いでは、まず回ってこない取引だ。

石好き次郎
「何も出なかった」の半分は、石の選び方で決まる。層が細かく、色が均一な石を選ぶ。割る前に石を選ぶ時間は、無駄にならない。

2つの発掘体験——「どきどき」と「野外博物館」は何が違うか

二つの違いは、割る岩だ。どきどきは、施設が選んだ化石の入りやすいブロック。野外は、発掘現場の地層の岩。野外のほうが化石は入りにくいが、本物の現場に立てる。出やすさを取るか、現場の空気を取るか、という選択になる。

どきどき恐竜発掘ランド——北谷の発掘現場から運んできた石を、恐竜博物館から徒歩3分の会場で割る。所要60分、4歳以上。屋根があるので雨でも割れる。当日に空きがあれば入れるのも助かる。必ず化石が入るわけではないが、多くのブロックに何かしらの痕跡が入るよう選ばれている。

野外恐竜博物館——恐竜博物館から専用バスで約20分、北谷町の実際の発掘現場へ行く。所要120分。フクイラプトルが見つかった場所の地層を目の前にして、石を割れる。事前予約が必要で、土日祝は数週間先まで埋まることが多い。

どちらも、割るのは北谷の石だ。手軽さを取るならどきどき、現場の空気を吸いたいなら野外。小さい子と一緒なら、まずどきどきで十分だと思う。カンカンと石を割る音だけで、子どもはだいたい機嫌がいい。

化石が見つからなくても持ち帰れる——1億2千万年前の石

化石を見つけたい気持ちが先に立つと、手が雑になる。一面割ったら、その面をよく見る。急がない。これは河原の石拾いとまったく同じで、焦った日ほど足元を見落とす。

持ち帰った石には、日付と「勝山市北谷の石・体験発掘」と書いた紙を添えておく。紙の無い石は、何年かたつと、持ち主にもどこの石か分からなくなる。石は覚えていても、人間が忘れる。

化石が出なかった日も、割った石は持ち帰れる。どきどき恐竜発掘ランドのルールだ。外れた日でも手ぶらでは帰らせない。親切な決まりだと思う。

持ち帰った石は、白亜紀前期の砂岩や泥岩のかけらだ。割ったばかりの面には、砂粒の大きさ、層の重なり、色の移り変わりが出る。ルーペを当てると、1億2千万年前の川底の砂が見える。化石が入っていなくても、石好きはこれで十分に元が取れる。

勝山で見つかった恐竜たち——「フクイ」と「カツヤマ」の名を持つ恐竜

勝山の発掘は、終わった話ではない。研究者による調査は今も続き、2020年代にも新種の骨格化石が見つかった。体験で割る岩にも、次の発見の種が入っていないとは言い切れない。言い切れないから、みんなハンマーを振る。

見つかった恐竜には、土地の名前が付いている。フクイサウルス(草食・イグアノドン類)、フクイラプトル(肉食・獣脚類)、フクイティタン(超大型草食)、コシサウルス・カツヤマ(小型草食)、フクイベナートル(小型肉食)、フクイプテリクス(鳥に近い種)。どれも勝山の手取層群から出た種だ。

フクイという名前は、これから何百年も論文に残る。1億2千万年前の生き物が、いまの県の名前を背負って歩くわけだ。恐竜の側からすれば、ずいぶん勝手な話かもしれない。

アクセスと予約の注意点

福井駅からは、えちぜん鉄道の勝山永平寺線で勝山駅まで約1時間かかる。車なら北陸自動車道・福井ICから約50分。東京からは北陸新幹線で福井駅まで約3時間、大阪からは特急で約2時間。恐竜博物館は年間90万人以上が来る施設で、週末と夏休みはかなり混む。

博物館の入館は、日時指定のウェブ予約が推奨される。野外発掘体験は定員制で、福井県立恐竜博物館 公式サイトから数週間前に予約する。夏休み(7月下旬〜8月)は、数ヶ月前から満席になることもある。思い立って行ける場所ではない。

予約先は二つに分かれる。どきどき恐竜発掘ランドは「かつやま恐竜の森」の公式サイト、野外恐竜博物館は恐竜博物館の公式サイト(前日23:59まで受付)。勝山駅から博物館までは、バスかタクシーで約15分。ここを取り違えると、当日の段取りがまるごと崩れる。

服は長袖・長ズボン・運動靴。ハンマー・タガネ・ゴーグルは会場で貸してくれる。持っていくのは軍手だけでいい(会場でも買える)。現場のコツを一つ。白い石より、黒い石のほうが割りやすい。子どもと割るなら、黒いのを渡す。

石好き次郎
発掘現場の崖は、黒、茶、白、灰。地層の縞が、横に何本も走る。1本の縞が、1つの時代だ。

恐竜博物館——世界3大恐竜博物館で「石と骨」を学ぶ

石を割る側の人間がいちばん長く立ち止まるのは、たぶん館内のクリーニングルームだ。ガラス越しに、研究者が岩を少しずつ削って骨を出していく。展示の骨がどうやって岩から出てきたのか、その途中が見られる。

福井県立恐竜博物館は、カナダのロイヤルティレル古生物学博物館、中国の自貢恐竜博物館と並んで、世界3大恐竜博物館の一つに数えられる。恐竜の全身骨格は50体。世界中から集めた実物化石と標本が並ぶ。

館内では「化石研究体験」もできる。化石クリーニング、CT化石観察、T.rex頭骨復元など4メニュー。クリーニングで取り出したレプリカは持ち帰れる。外で割って、中で削る。それで一日が埋まる。

勝山に泊まって、二日かけて割る

二日目に余裕があれば、勝山市内の平泉寺白山神社へ。白山信仰の拠点として奈良時代から続くと伝わる古社で、苔むした石畳と石垣がいい。割った石の次は、人が並べた石を足で踏んで歩く。

宿は、恐竜博物館に行きやすい勝山の町なかか周辺で探す。順番だけは間違えない。先に野外恐竜博物館の日程を押さえてから宿を取る。逆にすると、泊まったのに現場に行けない。

組むならこうなる。1日目は恐竜博物館(館内展示と化石研究体験)から、どきどき恐竜発掘ランドで石割り、勝山泊。2日目は野外恐竜博物館で発掘現場へ、勝山の恐竜スポットを回って帰る。二日とも、ほぼ石を割って終わる。

勝山の化石発掘体験で、子どもが「本物の恐竜の骨が出た!」と声を上げるのを見た。大人のこちらまで心が動いた。化石は見るものだと思いこんでいたが、自分で掘り出すのは別物だ。地層に閉じこめられた時間が、手に伝わってくる。

割るのは、泥岩と頁岩だ。層に沿って割れる。真上から叩かず、側面からタガネを入れる。化石は堆積面に沿って眠っている。

出やすいのは、シダやイチョウの葉の化石になる。黒い炭化した跡が、石の面に残る。

石好き次郎から

割ってみると分かる。化石は石だ。骨も、葉も、貝も、長い時間をかけて石になる。恐竜の骨と河原の石は、思うより近い親戚だ。

出るのは植物化石が多い。恐竜を当てに行くと、帰り道が長くなる。

化石が出なかった日でも、1億2千万年前の地層を自分で割ったことに変わりはない。私はそういう日のほうが多い。福井の石と化石の入口は福井で石を探すにまとめた。

石好き次郎
勝山の発掘現場で石を割る。中に何があるかは、割るまで誰も知らない。1億2千万年ぶりにこの面を見るのが、自分だ。その一点のために、ハンマーを振る。

石を割る遊びは、化石のほかにもある。全国の鉱物採集ツアーや体験は鉱物探しはどこでできるにまとめた。

石好き次郎のおすすめ
石好き次郎のおすすめ
割った地層から恐竜の骨が出るのには、わけがある。日本の恐竜化石の約8割が福井から出る理由は、恐竜の骨が今も掘り出される福井の石で。

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この記事を書いた人

石好き次郎
石を拾って20年、仕入れて売る仕事もしてきた。実際に見て、触って、確かめたことだけを書く。

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